東芝は「マジックチャプター」、三菱電機は「オートカットi」。いずれも録画番組で自動的にCMを飛ばして番組部分だけを視聴出来る便利機能の名称。CMだけの再生も出来る。録画機能付きハードディスク内蔵デジタルテレビの一部機種に搭載されている。レコーダー単体の機種にもある。
録画番組を見る時、CMになると早送りしたりスキップボタンを押すことは誰でもある。でも、その機能はボタンを押す手間が入らない、ユーザーが喜ぶような機能だ。テレビ購入の際そこに惹かれる人もいるのでは。メーカーはそれも一つのアピールポイントとしてカタログでも宣伝している。
ところが、CM収入で経営が成り立つ民放局にとっては実に迷惑な機能。早送りやスキップボタンなら仕方ないものの、自動的にCMが飛ばされてはかなわない。数年前に誕生した機能だが、民放としても見過ごせなくなってきた。民放連はこの程、メーカーにけん制する質問を投げかけ、民放のビジネススキームの理解を求めた。民放連会長も先の民放全国大会で問題提起するような発言をした。だが、メーカー側は今のところその機能を外す考えはないようだ。まだ本格的な話し合いにはなっていないが、事の成り行き次第では大きく発展する可能性もある。
ただこの便利機能、その精度は100%ではない。買った人に話を聞くと、CMはそのまま流れたり、逆に番組が飛ばされることもしばしばあるので結局使っていないという。もちろんメーカーや機種によって違いはあるだろう。メーカー側もケース次第で機能が十分働かない場合がある旨をカタログに明記している。放送電波でとくにCMとわかる信号を送っていないので、メーカーは番組とCMの違いを独自に判別する検知機能を設けている。がしかしパーフェクトにはいかないらしい。
しかし技術は進化する。完璧な機能が生まれるやも知れない。民放としては今のうちに手を打ちたいところだ。ある民放関係者が言う。ハードディスクがますます大容量になっていき録画志向はさらに進む。この機能が当たり前のように搭載されたらどうなるか、と。つまりはリアルタイム視聴が激減し、かつCMも見られなくなると危惧する。既に8チャンネル同時に1週間以上番組録画が可能な機種も出回っている。録画の手間入らずでテレビの見方が変わり、民放のCMビジネスモデルが崩れていくか…。
思えば「ダビング10」の時と似ている。権利保護を主張して録画規制を求めた権利者(テレビ局も含む)、それに反対した消費者とメーカー。結果は消費者・メーカーに軍配が上がった。譲歩した形の権利者側の中には今も残念に思う人は少なくない。
今回の問題。CM出稿する広告主はどう見ているか。メーカーも自社のCMが飛ばされても構わないのか。CMクリエイターにとっては複雑な思いだろう。広告主の団体である日本アドバタイザーズ協会の理事長は東芝の相談役。メーカーの団体であるJEITAの会長は三菱電機の会長だ。どう決着するのだろう。新しいデバイスが続々登場する中、将来も見据えてテレビの広告媒体価値をどう見るかで、答えは大きく変わってきそうだ。