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理想のCDショップとは~HMVがコンビニ「ローソン」の子会社に…

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理想のCDショップとは~HMVがコンビニ「ローソン」の子会社に…

2010年11月03日

 CD、ビデオなど音楽ソフト販売する「HMVジャパン」をコンビニの大手「ローソン」が18億円で買収し、完全子会社にすることが決まった。「HMVジャパン」を巡っては、TSUTAYAなどを運営する「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」が買うとか買わないとかで話題になった。

 と言うより、今年3月25日にCCCは、HMVの全事業取得について、HMVジャパン及び株主である「大和証券エスエムビーシープリンシパル・インベストメンツ(DPI)」との間で独占的交渉権の基本合意書を締結。最終契約は今年の6月末を予定していた。ところが、CCCは「事業展開の方針や、各種条件等について協議を続けてきたが、最終合意には至らず、本取得の見送り及び交渉期間を終了することについて、HMV及びDPIと合意した」とした。

 要は、最終合意までいかずに終わってしまったというわけだ。その結果、HMVは6月下旬に銀座店、そして8月には渋谷店まで閉店した。渋谷店は、HMVの国内1号店で、90年代にブームとなった小沢健二やピチカート・ファイブといった“シブヤ系”の発祥地ともなった。いわば、HMVにとってはシンボルだった。それだけに業界内に与えた衝撃は大きかった。

 だからといって、万が一でもCCCと条件が見合って、CCCの傘下にでもなっていたとしても、それはそれで不幸だった。そういった意味で言ったら、ローソンの買収は音楽業界にとっては救いの神だったかもしれない。もちろん、今後の動向は分からない。しかし、業界にとっても、ユーザーにとってもよかったと思っている。

 発表資料によると、「ローソン」は、「HMV ジャパン」の発行済普通株式の全てをDPIから取得、完全子会社化する株式譲渡契約を締結したというのだ。

 「ローソン」は「私たちは『みんなと暮らすマチ』を幸せにします」をスローガンに掲げているという。中でも「エンタテイメント事業を重要な成長分野と位置付けている」と言い。その上で「ネットを活用した利便性の高いサービスの構築を目指しており、現在でも店頭マルチメディア端末『Loppi』や『Ponta&LAWSONネットショッピング』によるエンタテイメント系オリジナル商品の開発・販売、ローソンエンターメディアでのチケットサービス、アーティストグッズの販売、ファンクラブ運営など、小売業界の中でもエンターテインメント関連事業を強みとしている」としている。

 そんなことから、今回の買収を決めたようだ。

 因みに、「ローソン」は、HMVを「スタイリッシュで信頼性の高いブランドとして定着し、リアル店舗とネット通販をバランスよく両立した稀有なブランド」と評価している。

 いずれにしても、「ローソン」としては“総合エンターテインメント・ショップ”を実現することで、競争力の強化を図ろうというわけだ。

 CCCについては、その手法が僕には理解できない。レンタルと販売の両刀で、最近はネット通販比率が高いからとの理由から、ネット通販へシフトしようとしている。そういった部分からCCCは、HMVに魅力を感じていた。

 しかし、音楽産業としての本来の理想は「配信ビジネス」と「CDなどパッケージ・ビジネス」との共存共栄だろう。CCCは、TSUTAYAのネットサービス「TSUTAYA ONLINE」の強化策もあったのだろうが、どうも、やり方がずさん過ぎる。

 CCCは、05年にヴァージン・メガストアを買収し、翌06年には新星堂をフランチャイズ化し、静岡県を中心とした大手レコード店「すみや」も買収した。08年には新星堂との契約を解消したが、ヴァージン・メガストアとすみやは消滅してしまった。

 基本的に、CCCはレンタル店だ。レンタル店が販売事業に参入すること自体、間違っていると僕は思っている。

 例えば「すみや」。同店は静岡県内でもユーザー(顧客)管理が行き届いているというのが大きな特徴だった。ユーザーの管理においては、おそらく国内でもトップクラスの販売店だったに違いない。ユーザーの趣味志向など全てを把握し、店頭では対面販売を重視していた。とにかくユーザーの希望を聞き入れ、店内も、各地域の特色を生かすことで知られていたが。

 当初、僕は、CCCは、そのユーザー・リストが大きな魅力で、すみやを買収したのかと思っていた。ところが、それは全然違っていた。単に店舗が欲しかったようなのだ。CCCから派遣されてきた若い社員は、そのユーザー・リストを全て破棄し、本部主導の店舗に全て変えてしまった。まさにユーザーを無視した組織経営としか言いようがない。その瞬間、すみやの築き上げてきた歴史、そしてユーザーとの信頼関係は消滅してしまった。

 もっとも、コンビニの運営も似たり寄ったりだろうが、音楽というのは違うはずだ。今の時代、対面販売を重視するCDショップも少なくなった。だが、CDの販売が低迷する中で、音楽の発信基地であるCDショップは、いかにユーザーと向かい合った販売を実現していくかが重要だろう。

 この部分については、また語りたいが、理想を書き綴ったらキリがない。だた、今回のHMVのローソン買収が、単なる経営者のエゴによる「食い散らし」状態にならないことを望むだけだ。

 それにしても、買収金額が、たったの18億円と言うのには驚いた。まるで、叩き売りである。

渡邉裕二

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