トップインタビュー:中川敬 東宝(株)専務取締役兼TOHOシネマズ(株)代表取締役社長
2010年08月03日
価格の問題は避けて通ることはできない
東宝の中川敬専務が、TOHOシネマズの社長に就任した。これは、映画界待望の人事の一つだろう。さて、何をやってくれるのか。その狙いを聞いた。 ――中川敬さんが、このほどTOHOシネマズの社長になりました。この人事は、驚きで受け止められたとともに、納得の人事という意見もあり、映画業界には様々な反応がありました。その反応自体が、いかにも中川さんらしいというのが、私の考えです。まず、社長に至る経緯について、少し話してもらえますか。
中川 2005年まで宣伝部の担当をしていて、その後、2009年まで東宝スタジオの仕事に専念していたわけですが、一方ではチャンスがあれば興行にかかわりたいと考えていました。2003年から始まったスタジオの改革も、折からのシネコンブームや邦画の追い風もあって、稼働率も上がり、最初に考えた改造計画は順調に進みました。そこで一気に、製作のデジタル化に総合的に対応する新しいポストプロダクションセンターの建設に着手しようと考えたわけです。それが第二次改造計画なんです。取締役会の承認を貰ったのが、昨年の春先でした。それと並行して進めていたステージレンタルや美術製作についての運営の方法の改善というものにも目処がつき始めていました。こうして少しスタジオに対しての荷が軽くなった頃ころから、再び興行のことが頭をよぎり始めたということです。
――では具体的には、いつごろそのような主張をされたのですか。 中川 昨年の前ごろに、実は高井(英幸)社長にチャンスがあれば興行をやらせて貰えないかとお願いしました。普通、こんなこと自分からは言わないと思うんですが、私はいったん思いついたら実現するまで諦められない性分なんです。それが今回、1年後に実現することになったわけです。僕は、つくづく幸せな人間だと思っています。映画も2本作らせてもらい、スタジオ改造もやり、今度は念願の興行の仕事ができるんです。
――宣伝にも、携わりました。
中川 はい。1978年からですから、宣伝はあしかけ27年やったことになります。昨年からはスタジオと不動産経営部の2部門を預かっていますが、この兼務のままで興行も担当となるとは思いませんでした。東宝単体の不動産事業だけで売上200億、粗利益70億ありますからね。これにTOHOシネマズの興行事業を加えると大変な比重になります。
不動産と映画興行 ――東宝の一番売上の高いところ2つの部署、会社ですよね。
中川 そこを任せてもらって、重責を感じています。ただ、TOHOシネマズの持っている問題と不動産の持っている問題とが、ダブるところ、接点が結構あるんです。所有する幾つかの劇場の大家は東宝です。つまり不動産経営部です。テナントである劇場として収支を改善しようとしたら、賃料減額が一番わかりやすい改善方法です。しかし大家である不動産経営部としては安くしたいけれど、そうするとビル全体の収益性が悪くなってしまいます。利益相反の関係です。仕事をバラバラにやるのではなく、むしろこれから不動産が超えなければならない大きな問題と、シネマズが超えなければならない大きな問題がオーバーラップする時代に、その現場の先頭に立って、その難しい矛盾を解決しなさい、そういう辞令だと思いましたね。
(※全文は文化通信ジャーナル2010年7月号に掲載)