渋谷ドリカムシアターの狙い、K2 Pictures紀伊宗之代表取締役に聞く
2025年04月10日
「DREAMS COME TRUE」(以下、ドリカム)の中村正人氏がエグゼクティブプロデューサーを務めた映画『Page30』(堤幸彦監督)が、4月11日(金)から特殊な興行をスタートさせる。
メイン館となるのは、渋谷警察署裏の平地に建てられたテントシアターの「渋谷 ドリカム シアター supported by Page30」。この映画のために新設されたテントシアターで、6月1日までの上映期間中は敷地内でフードも楽しめ、さながらお祭りのようなイベントとなる。渋谷はドリカムと縁が深く、映画業界にとっては90年代にミニシアターブームを巻き起こした地。「渋谷 ドリカム シアター」がこの街に新風を吹かせる。その一方で、同作は全国の通常の映画館でも上映される。
テントシアターの仕掛け人が、配給協力としてプロジェクトに参画しているK2 Picturesの紀伊宗之氏(=写真)だ。紀伊氏は今回の企画の狙いを次の通り語る。「『Page30』を見たところ、80~90年代のヨーロッパ映画のような雰囲気を感じたんです。当時はアートハウスもたくさんあったし、渋谷の若者が作った遊び場で大人が遊ぶような時代だったと思うんです。紅テント、黒テントで演劇をやっていたり、当時は貪欲に発信していました。そういうことと(映画が)リンクしないかなと思いました」。
『Page30』は、舞台演劇を題材にした新感覚のセミドキュメンタリーだ。唐田えりか、林田麻里、広山詞葉、MAAKIIIが出演し、絶対に失敗が許されない舞台に臨む、役者人生を懸けた4人の女優が描かれる。舞台の臨場感が重視された作品であり、テントでの鑑賞体験はまさに紀伊氏が例に挙げたテント演劇を彷彿させる。
このテントシアター上映のアイデアを実現すべく、紀伊氏は一般社団法人「渋谷未来デザイン」の知人に相談。渋谷にこだわって会場を探したところ、渋谷警察署の裏にある、駐車場になっていた土地(名称:渋三広場)が候補に挙がり、所有者の東急と交渉したうえでイベントの開催が決まった。テント内はクッションなどに腰かけて映画を鑑賞するスタイルを取り入れ、1度の上映に最大100人ほどを収容する。テント外にはキッチンカーが並び、トイレも設置される。期間中は映画の上映だけでなく、音楽イベントやワークショップなど様々なイベントも行っていく予定だという。紀伊氏は「子どもの時に体育館で見た映画の方が記憶に残っていたりしますよね。(大切なのは)ライブ感。『Page30』をテントで上映することを思いついた時に『毎日縁日をやったらいいじゃない』と思ったんです」と明かし、ドリカムファンや映画ファンの来場はもとより、「何だこれは?とふらっと立ち寄ってもらいたい」とイベントそのものの吸引力にも期待を寄せる。
また、このプロジェクトについて、紀伊氏は現在の映画の「配給」の在り方に一石を投じる狙いもあると話す。「配給を請け負うということは、本来『この作品はどうやったら当たるのかな』と考えることですよね。でも、業界の傾向としてルーティンが過ぎるというか、宣伝も含めて『ポスター作ります』『チラシ必要ですよね』『映画館はどのぐらいブッキングします』と、ある種のベルトコンベアの上にコンテンツを乗せて、うまく行っても行かなくても『(ひと通り)やりました』と。そして勝つか負けるかは映画の力か、あるいは運か――。でも本来はそうじゃないと思うんです。宣伝戦略もそうですが、どうやって見せるのかという小売戦略のようなものもあるんじゃないか。そういう意味では、僕は配給や宣伝を信じたい」。
そんな紀伊氏が、テント上映を思いつくきっかけとなったヒントの1つは「F1」だったという。「僕は、世界最高の興行は『F1』だと思っています。3年ほど前にF1を見に行き、関係者とも話す機会があったんですが、彼らは自分たちのことを『サーカス』と呼んでるんです。要するに、彼らは世界中を転戦して、自動車レースという興行をやっているわけです。鈴鹿でも3日間で膨大な費用がかかっているのですが、それを回収できているんです。映画も、かつて大衆演劇の劇場が映画館になっていくというプロセスがあったことを踏まえると、やはり“見世物”であり、本質はサーカスなんです。なので、テントで映画を上映するというのは、本質的には芯を食っていると思っています。そこで食べるフランクフルトも、上映するスペースも“コンテンツ”の中身であり、それが『Page30』の価値をさらに上げると思います」。 今のところ渋谷以外でのテント上映の予定は無いものの、「東京が終わればテントを畳み、別の県に移動して上映するというのが、『Page30』に関しては最も本質的なんじゃないかと思ってるんです」と熱弁する。
また、『Page30』はオリジナル映画をヒットさせるチャレンジでもある。「知名度のあるタイトルを営業的にどうするか、宣伝的にどうするかは、みんなわかってるんです。でも知名度のないタイトルをどう世に出せばいいのかは答えがない。知名度のあるタイトルと同じ方法で配給し、結果が出なければ『やっぱりオリジナルは難しいよね』『売れている漫画原作を映画化しましょう』という結論にしかなりませんが、オリジナルでも当てられる配給会社が出来たらその価値は変わりますよね」と紀伊氏。「勝つか負けるかはわからないけど、やってみないと。全力でやりますよ」と、原作の無い今回のプロジェクトの成功に全身全霊で挑む構えだ。
取材・文 平池由典