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ショートドラマは来年邦画市場に匹敵との試算も/Plott奥野氏とemole澤村氏がショート動画市場説

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ショートドラマは来年邦画市場に匹敵との試算も/Plott奥野氏とemole澤村氏がショート動画市場説明

2025年04月10日
 ショートアニメ制作を手掛ける株式会社Plott(本社:東京都千代田区/代表取締役:奥野翔太)と、ショートドラマアプリ「BUMP」を運営するemole株式会社(本社:東京都目黒区/代表取締役:澤村直道)の2社が3月27日、ショート動画市場の展望と成長戦略に関する説明会を都内で開催した。

 Plottは2017年に前身企業を設立。ショートアニメ事業は2019年に開始し、現在はIPビジネス、ウェブトゥーンを含めた3事業部制を敷いている。昨年11月にはMIXIやバンダイナムコエンターテインメントなど6社から10億円の資金調達を行ったことでも話題となった。代表の奥野氏によると、ショートアニメを起点に様々なビジネスに参入しており、メディアミックス展開を得意としているという。3年前にマーケティング事業を強みとするBUZZCASTをM&Aしたことが大きく、事業領域の拡大に繋がっている。「テイコウペンギン」や「混血のカレコレ」といった人気作を手掛けており、ショートアニメ市場のリーディングカンパニーという地位を構築。ユーチューブチャンネルの月間総再生回数は5億回にのぼる。タイアップやマーチャンダイジング、ゲーム、楽曲制作、オフラインイベントといった多面的なビジネス展開を行ってきた結果、現在はIPの二次収益が、ユーチューブなどの広告収益を上回るようになったという。

奥野氏.jpg
Plottの奥野氏


 emoleは2018年設立。アプリ「BUMP」を2022年12月にリリースし、ダウンロード数は3月時点で190万におよぶ。3月28日には、Angel Bridgeをリード投資家とした8億5千万円の資金調達を発表。累計調達額は11億6千万円に達した。同社では「BUMP」を運営するプラットフォーム事業と、ショートドラマを制作するスタジオ事業の2つを展開。代表の澤村氏によると、「BUMP」のこれまでのヒット作トップ10のうち、自社制作作品が半数以上を占めており、スタジオとしてもヒットコンテンツを生み出せるようになっているという。「BUMP」は1話約3分の話課金型ショートドラマアプリ。最初の数話を無料で配信し、以降は「待つと無料」「CMで無料」「1話97円の課金」といったシステムを導入している。2024年度の収益は前年比1000%以上と急速な成長を実現した。収益に応じて権利元に還元するレベニューシェアを取り入れているが、大きな特徴はクリエイターへの分配だ。監督、脚本家、出演者、音楽家、制作会社にも収益の一部を自動分配する仕組みの導入を進めており、クリエイターへの還元額は計1億円を突破したことを先ごろ発表している。将来的には分配の範囲をさらに広げたい考えだ。また、3月4日には韓国・アメリカ・台湾を中心に、世界100の国と地域でアプリ提供とドラマ配信を開始した。

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emoleの澤村氏


予算が増えプロコンテンツ化が進むショート動画市場

 両社は、ショートコンテンツ市場について解説。Plottの奥野氏によると、SNS×ショート動画は、もともと一般人のクリエイターが動画を投稿し、ネット上で話題になる形で盛り上がりを見せた。そこから「ユーチューバー」として認知が拡大し、グループで活動し人気を博すケースも増加した。コロナ禍に入ると芸能人が続々と参入しプロ化が急速に進行。そして現在はあらゆるコンテンツがユーチューブやティックトックに集まり、プロの制作チームも参入、予算も増加傾向にあり、ますますプロコンテンツ化が進んでいるという。奥野氏は「僕らのショートドラマやショートアニメも、プロコンテンツ化の大きな流れの中にあると認識している」と語った。

 ショートアニメの場合は、現時点で国内では企業が本格参入するケースは少なく、Plottが大きなシェアを占めている。一方で、海外では主にキッズ向けに事業展開している企業があり、奥野氏はパンダのキャラクターで知られる中国のベビーバス社を成功例にピックアップ。2020年時点で年商110億円、利益44億円を上げたというニュースを紹介した。若年層に強いという点では、Plottが展開している「混血のカレコレ」も同様に小中高生から人気が高く、月間のユニーク視聴者数は1000万に達し、他媒体から「その層をみんな獲りたいんだ」と羨まれることも多いという。こういった背景もあり、多くの協業にも繋がっており、「従来の(TV)アニメに匹敵する人気や拡散力を持てているのかなと捉えている」という。また、同社のビジネスの設計として、まずはタテ型のショート動画で認知を拡大、そこからユーチューブなどのヨコ動画に流入することでファン化を実現、そこから商品などを提案し購入してもらうといった流れを意識していると説明した。

 ショートドラマ市場についてはemoleの澤村氏が説明。それによると、中国では2024年に市場規模が1兆円を超え、映画の興行収入(9000億円)を上回った。日本も市場の成長は目覚ましく、YHリサーチの調べによると、2026年にはタテ型ショートドラマ市場の規模が1530億円規模になるとの予測も出ている。これは昨年の邦画市場(1558億円)に匹敵する数値となる。市場人気の高まりを受け、ショートドラマを原作に漫画化、テレビドラマ化するケースも出ているほか、読売テレビの深夜ドラマ枠でタテ型ショートドラマを放送する“逆輸入”の形を取り入れる事例も生まれた。

 ショートドラマ製作の特性として、初期の投資コストが低いことが挙げられる。話数が少なければ数百万円で製作でき、30話程度でも1000万円前後で製作している会社が多いという。ロジカルに作ることができる特徴もあり、emoleでもフォーマットを作って実践しているという。一方、澤村氏は今後考えられるリスクとして、現状はマーケットイン型(市場ニーズに合わせた)の作品が多く見られる中で、プロダクトアウト型(自社の強みを活かして作りたいものを作る)の作品が育っていく土壌が必要であると指摘。才能あるクリエイターが生み出す天才的な作品によるメガヒット作が生まれることや、ジャンルの広がりが進むことが重要との認識を示した。また、様々な企業が参入を決めていく中で、初期の数作品の結果によりリクープできないと判断し、早々に撤退する企業が相次ぐことで市場が縮小するといった懸念もあると語った。多くの企業が参入し、競争が盛り上がっていくためにも、「BUMP」で得られるデータは権利元にしっかりと提供していく考えだという。

 また、両氏によるディスカッションの中で、「ヒットコンテンツを生み出す秘訣」というお題では、emoleの澤村氏は現在ショートドラマ市場で主流の「不倫・復讐」、「身分隠し」の2大ジャンルに加え、「実際にこの世の中に存在するけど、普段生活しているとなかなかアクセスできない裏側を覗き見しているような感覚になるコンテンツが伸びやすいと感じている」と話し、一例として港区女子を描く「プロ彼女の条件~芸能人と結婚したい女たち~」がヒットした事例と紹介した。一方Plottの奥野氏はショートアニメを念頭に「キャラクターにエッジが立っているかどうか」を重視しているとコメント。同社と小学館が最近手掛けた「ゾンちゅう~ゾンビJKはゲーム配信中~」も、ゾンビ、JK、ギャルという異色の組み合わせから生まれたキャラクターであり、「キャラクター属性だけを聞いてもわかるくらいエッジが立ったものを出していくことが、SNSでの解釈コストの短縮につながる」との考えを語った。

取材・文 平池由典

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