▲リコーダーを用いた音楽授業の様子
ヤマハは2015年より新興国を中心に「スクールプロジェクト」を展開しています。これは楽器演奏の楽しさをより多くの人に知ってもらえるよう、公教育にリコーダーやキーボード等の器楽教育導入を支援する取り組みで、2021年にはマレーシア、インドネシア、ベトナム、インド、ブラジル、アラブ首長国連邦に次ぐ7か国目の展開国としてエジプトでの活動をスタートさせました。このプロジェクトの特徴は、楽器や教材の提供だけでなく、継続的な現地教員の研修も行うこと。長く現地の教育に根付いていくことを目指し、一過性のボランティアではないサステナブルな活動を働きかけています。
イスラム教の文化の下では音楽は “禁じられたもの”という解釈があり、長らく歓迎されませんでした。昨今はグローバル化の影響でアラブ諸国でも徐々に音楽文化が受け入れられ始めていますが、ヤマハにとってアラブは開拓余地のある地域。そんなアラブの中でもエジプトにはイスラム教が浸透する前の古代エジプトの歴史があり、ピラミッド内部の壁画にも楽器や演奏の描写があることから、比較的音楽との親和性が高いと考え注目してきました。
しかし、親和性が高いといってもそこはアラブ。日本のようにテレビで流れる子どもの歌を多くが聴いて育つということはなく、お遊戯の経験も乏しい児童や先生方にとって、1,2,3,4と音楽に合わせてカウントを取るだけでも大変なことです。それでも皆さん苦戦しながらも、リコーダーを楽しみ始めてくれています。 日本では、勉強が出来なくても体育ではヒーローになれる子、普段は目立たないのにピアノを弾くと途端に情熱的になり驚かれる子などがいて、学校には勉強以外にも輝ける場がたくさんあります。
しかし、学力偏重のエジプトでは勉強が出来る子だけが優遇されるため、音楽でも優等生だけが楽器に触れる機会を与えられ、選ばれた子のみが舞台に上がるといった選抜文化があります。音楽の才能ややる気には関係なく、先生の先入観で選ばれてしまうのです。
そこで、全生徒がリコーダーを手にし、全員が必ず平等に発表の機会を得られるようにといった指導の考え方に関しても、繰り返し教員研修の中で伝えています。 ヤマハは単に楽器演奏が上手な子を増やすことを目指しているわけではありません。音楽には絶対的な正解がなく、自由に表現することができます。楽器演奏を楽しむと共に探求や議論、グループワーク等が行えるようカリキュラムを工夫し、社会性・自尊心・協調性など「非認知能力」の育成を目指しています。
私は20代の頃に2年間、アラブ人家庭にホームステイをしながらヨルダンの難民キャンプでリコーダーを教えた経験があります。アラブの文化は懐かしくもあり、通常の日本の業務では感じることのない喜怒哀楽の大きさに翻弄されながらも、日々試行錯誤をしています。エジプトの子どもたちが音楽を通して学んだ力で幸せな未来を手に入れてくれることを祈りながら。
(文・ヤマハ株式会社 音楽普及グループ 日比野ともみ)
<スクールプロジェクト概要はこちらから↓↓>
https://www.yamaha.com/ja/about/activities/school_project/