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リアルな描写を徹底「THE DAYS」、WBの関口大輔氏に聞く

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リアルな描写を徹底「THE DAYS」、WBの関口大輔氏に聞く

2023年07月10日
 福島第一原発の大事故を、徹底したリアリティをもって描くシリーズ「THE DAYS」(全8話)が6月1日にネットフリックスで配信開始され、世界中で話題になっている。ドラマチックな演出を排除し、美談にすることも避け、「あの時」に原発内で何が起きていたのかを、事実に沿って愚直に再現。視聴した人はまるで自身も現場に閉じ込められ、放射能の恐怖に直面するような緊張が感じられる衝撃作だ。配信後はネットフリックスのグローバルでの視聴数(非英語のTVシリーズ)で3週連続トップ5入り(5位、5位、4位)を果たすなど、日本に留まらず、海外のユーザーからの関心も非常に高いことが窺える。

 日本のTVシリーズが世界でヒットしている点もさることながら、同作はワーナー・ブラザース映画が製作し、ネットフリックスが配信するという異例の座組も注目ポイントのひとつ。この作品を生み出した経緯について、ワーナー ブラザース ジャパンの関口大輔ヘッド・オブ・プロダクションに聞いた――。(この記事は6月23日付「日刊文化通信速報【映画版】」に掲載したものです)


「THE DAYS」を製作、WBの関口大輔ヘッド・オブ・プロダクション.jpg
WBの関口大輔氏


多様なウインドウに対応するためシリーズ製作

 『るろうに剣心』や『デスノート』シリーズをはじめ、昨年大ヒットした『余命10年』など、洋画メジャーの中でもローカルプロダクションでは抜きん出た歴史と実績を誇るWBジャパンだが、これまでは映画の製作が中心であり、この規模のドラマシリーズを手掛けるのは今回が初めて。関口氏はこのバックグラウンドについて「弊社は今年100周年ですが、一貫して『良い作品を作り続ける』ことを目標としています。その中で、これまでは映画をメインに製作してきましたが、北米では動画配信サービスのHBO Max(現Max)が好評を博しているように、今は配信も含めて多様なウインドウがあり、日本でも数年前から色々なプロダクションをやっていこうという方針を打ち出しています。Maxはまだ日本でローンチされていませんが、いざ開始するとなってもすぐにオリジナルドラマを製作できるわけはなく、今からそういった体制を構築しておく必要があると思い、本作の製作に至りました」と説明する。

 さらに、グローバルに通用する作品を作りたいという、関口氏が持つ強い思いも大きな理由のひとつだ。「私はかつてフジテレビに在籍していたので実感していますが、テレビ局のドラマは主に日本のマーケットに向けて製作されており、グローバル向けの作品はあまりありません。日本向けの作品は、優秀な製作者の方がたくさんいるので、ワーナーでやるからには、グローバルに向けた作品を作りたい。技術の話は日々アメリカのチームから情報を得ており、使える海外のリソースを全て活用して、海外で喜んでもらえる作品を作っていきたいと思っています」と海の向こうに視線を向ける。

 そこで白羽の矢を立てたのが、かつての同僚であり「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命‐」などを手掛けたヒットメーカーの増本淳プロデューサー。2人はフジの月9ドラマ「リッチマン、プアウーマン」を共同で担当するなど気心知れた仲であり、増本氏がフジを退社した2019年からプロジェクトが始動した。「グローバルはハードルが高いです。韓国は数十年前から国策として映画を作り、米国で学んできたクリエイターが帰国して、今のように世界に通用する作品を作っています。日本は2周ほど遅れていると思っています。そこに勝つには、まずは世界に見てもらわないとどうしようもありません。日本人にしか作ることができず、それでいて海外の人が興味のある題材を手掛けたいと思っていました」。


嘘や誇張をなるべく避け、リアルな描写を徹底

 増本氏は、その要望に沿うピッタリの企画を温めていた。今作の原案となる、門田隆将氏のノンフィクション小説「死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発」の映像化だ。「相談したら、すぐにこの企画を提案してくれました。(こちらの意図と)ドンピシャだと思い、すぐにプロットの開発を始めました」。小説は、原発の事故対応にあたった関係者90人以上に取材して書き上げられたが、増本氏も膨大な人数の関係者取材を行い、事故当時の映像や資料などのデータも網羅した。丹念にリサーチを続け、圧倒的な知識を身につけた増本氏と同じ目線で語ることができる脚本家は見当たらず、増本氏自身で脚本を書くことに決まったという。関口氏は「人名を変えたり、実際は2人だったものを1人の役に集約するなど、多少のデフォルメはありますが、当時の流れや台詞も実際にあったもので、変な脚色はしていません。この題材は適当には作れません。ドラマチックな台詞を言ったり、ヒーローと悪人を作るといったフィクションがある方が、ドラマ的にウケるのはわかっていますが、嘘や誇張はなるべく避けて、リアルに描くことを徹底しました」と作品への向き合い方に強いこだわりを見せる。

 「グローバルプラットフォーム向けのテレビシリーズ」という形で企画がスタートした同作だが、HBO Maxの日本ローンチがしばらく先になることを見越して、関口氏はネットフリックスに企画を持ち込んだ。「坂本(和隆)さんにお話ししたところ、プロットの段階でしたが『いいですね』とすぐに快諾の返事を頂きました。出口も決まったことで、いよいよ本格的にスタートしました」。監督は「リッチマン、プアウーマン」の演出を担当した西浦正記に決定。さらに、原発職員たちが体感した恐怖を表現するために、ホラー映画の旗手・中田秀夫監督もメガホンをとることになった。主演の役所広司をはじめ、キャストも驚くような豪華な面々の出演が決まった。「本作の製作意義に共感して頂くことができ、皆さん前向きに企画に参加していただけました」という。

 ところが、2020年に始まった新型コロナの感染拡大により、スケジュールは大幅な遅れを余儀なくされた。関口氏は「2020年3月にインしましたが、数シーンを撮影したところで、『撮影どころではない』となり、ストップしてしまいました。本社から指示されたコロナ対策のレギュレーションは非常に厳しく、これを遵守して撮影するのは不可能でした」と回想する。延期はやむを得ないものの、一時は「製作中止」の選択肢も浮上するほど困難な状況に陥っていたという。ただ、ここまで準備が整い、製作に向けた士気も高いことから、最終的には「延期」に落ち着いた。「皆さん、また集まろう!と言ってくださり、約1年後の2021年6月から、全員が再び集まりました」。

 撮影は東宝スタジオや千葉県にある廃工場などを活用しながら敢行。自衛隊のヘリコプターを借り受けた追撮など一部を除いて、同年秋に撮影を終了。そのあとはじっくりとポスプロ期間に充てられた。「例えば福島第一原発の外観は全てCGです。増本は非常にこだわるタイプで、ちょっとでもCGっぽさがあればNGを出していました。ネットフリックスへの納品は今年の2月でしたが、いつまでやっているんだというぐらい(苦笑)、ギリギリまで突き詰めてやっていましたね。でも、その甲斐あってCGとわからないようなリアルな映像に仕上がったと思います」。


世界標準の作品を意識

 今作では、音楽をカナダ人のブライアン・ディオリベイラが手掛けたことも見逃せないポイントだ。関口氏が「海外のリソースも使いたい」と先述した通り、今はクリエイターの選択肢を国外にも広げており、これまでに培ってきた人脈が今作で生かされた。「日本の作曲家の場合、ドラマの主人公の心情に寄り添った音楽を制作する方が多いですが、今回はドキュメンタリーのようなタッチの作品のため、より客観的な音楽が必要だと考えました。そこで、米国で活動している音楽エージェントの備耕庸さんを通じてブライアンを紹介してもらいました。彼はこの作品に合う音楽を生み出すために楽器まで自作するほどで、増本とも粘り強くやりとりしてくれ、妥協せずに努力してくれました。プロの仕事とはこういうことかと感心させられました。ちなみに、彼とはまだリアルで一度も会ったことがなく、オンラインで完結しました」。WBジャパンが今後手掛ける作品にも、積極的に海外のクリエイターや技術を採用し、世界標準を意識していく考えだという。

 配信開始後、関口氏のもとには多くの反響が寄せられている。「地上波のテレビドラマでは、視聴者の方がわかりやすいよう、説明的な台詞やテロップを入れるのが一般的です。しかし、この作品はリアリティを尊重したため、専門用語も多く難しい作りになっていると思うのです。その点は懸念していたのですが、皆さんちゃんと理解され、こちらの意図したことまでちゃんと汲み取ってくださっている。感動しました」と、想定以上の好反応に喜びと安堵の表情を浮かべる。

 世界77の国と地域でもベスト10入りを果たし、『タクシードライバー』などで知られる脚本家のポール・シュレイダーらもSNSで同作を絶賛するなど、反響の輪は世界に広がる。関口氏は「こんなにたくさんのリアクションを頂けるとは思いませんでした。ツイッターでは、英語で熱い感想がたくさん上がっています。もともとグローバルで受け入れてもらいたいと考えて企画が始まった作品ですが、本当に目標を達することができて嬉しいです。日本でも世界に通用する作品が出来ると証明できたと思うので、今後も自信を持って作っていきます」と意気込みを示す。

取材・文 平池由典

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