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フラッグが海外との共同製作に着手、『シャイニー・シュリンプス!』第2弾公開

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フラッグが海外との共同製作に着手、『シャイニー・シュリンプス!』第2弾公開

2022年10月20日
 映画を中心としたデジタルマーケティング大手の株式会社フラッグが、ユニバーサル・ピクチャーズが世界配給するフランス映画『シャイニー・シュリンプス! 世界に羽ばたけ』(10月28日公開)の製作に参画した。同社は現在エストニアで製作(ポスプロ段階)されている映画にも出資しており、海外の映画に企画・製作段階から加わる姿勢を示している。

 今年も興収40億円を超える作品のWEB宣伝を担当するなど、映画業界ではデジタル領域のマーケティング会社として知られるフラッグだが、近年は自社による買付・配給を始めており、昨年公開した『Summer of 85』(共同配給:クロックワークス)は興収6千万円を記録するスマッシュヒットとなった。外配協にも賛助会員として入会し、着々と配給事業でもノウハウを積み上げている。

 そして、さらに一歩踏み込んだ事業として始めたのが、海外との映画やドラマの共同製作だ。久保浩章代表取締役は「国内での共同製作も選択肢にはありますが、すでに大手プレイヤーがたくさんいます。一方で、海外との共同製作は、単発では様々な例があるものの、継続的に取り組んでいる会社は少ないように思うので、後発の我々でもチャンスがあると見ています。日本は市場が大きいですから、これまでは国内だけでも十分でしたが、(人口が減少する)今後は市場の縮小が懸念されます。かたや、もともと市場の小さいヨーロッパ諸国では合作は当たり前のように行われており、海外との共同製作に関して学ぶことは多い。来るべき時に備え、今から着手しておく必要があると思っています」と海外との共同製作の意義を説明する。

 その方針のもとに企画段階から出資を決めたのが『シャイニー・シュリンプス! 世界に羽ばたけ』だ。実在するゲイによる水球チームのロードムービーを描いた『シャイニー・シュリンプス! 愉快で愛しい仲間たち』(21年7月公開)の続編で、フラッグは前作、今作とも日本の配給を担当する。前作はフランスのみ配給していたユニバーサル・ピクチャーズが、反響の大きさを受け、2作目は全世界(日本をのぞく)の配給権を獲得した期待作だ。

 買付および海外との共同製作を担当する小田寛子氏(IPコンテンツ事業部 グローバルコンテンツ部 マネージャー)は、「海外の様々なセールス会社と話をする中で、弊社が共同製作に乗り気であることを広く伝えてきたところ、『シャイニー・シュリンプス!』第1弾のセラーから声が掛かりました。もともと彼とは仲が良かったこともあり、第2弾の製作が決まった段階で、制作会社(Les Improductibles)を紹介してもらいました」と経緯を説明する。


久保社長(右)と小田氏.jpg
右から久保代表、小田氏


 第2弾は、クライマックスの試合の舞台として香港が予定されていたが、フラッグが参画することが決まると、舞台が東京に変更され、日本ロケの制作はフラッグが受託する運びとなった。日本への造詣が深い監督らの意向により、日本サイドの意見も大いに取り入れられたという。小田氏は「実際にクライマックスの撮影を日本で行うために、日本中のプールを探し回りました。(2019年)当時は、翌年に控えていた東京五輪の影響で、適したプールをなかなか確保できず苦労しました」と振り返る。最終的には静岡県にある、背景に富士山を望むプールを使用することが決まり、撮影に向けて着々と準備を進めていた。

 ところが好事魔多し。2020年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、日本での撮影が困難になった。「もう美術もデザインし始めていました。しかし入国制限が緩和されず、日本での撮影を断念せざるをえなかったです」(久保氏)。代わりに、日本から最小限の出演者や関係者がフランスに飛び、昨年10月末に撮影が行われた。

 日本でのロケは叶わなかったものの、作品にはフラッグが提示した案が随所に散りばめられている。一例として、水球チームが参加する試合の司会者役には、フラッグが推奨した日本の人気ユーチューバー「ブリアナ・ギガンテ」が起用された。映画冒頭に映るのがブリアナであり、そのインパクトは絶大だ。世界で使われるエンディング曲も、同社がエイベックスと相談しながら抜擢したビッケブランカによる書き下ろし楽曲「changes」が使用された。フランス公開時には、監督らに「ED曲のアーティストは誰だ?」と多くの質問が寄せられたという。

 久保氏は「日本でのロケは実現できませんでしたが、制作サイドとの関係が良好だったこともあり、遠慮なく意見していきました。彼らもできるだけ日本の会場の雰囲気を再現したい気持ちが強く、しっかりとディスカッションできました。日本での試合のシーンをフランスで撮影するにあたり、こちらで用意した美術を持ち込むなどし、違和感のない客席にできたと思います。爪跡は残せました」と充実感を漂わせる。

 日本での公開に向けて、まず意識しているのはLGBTQコミュニティへのアプローチだ。「水球つながりから、東京五輪の開催に合わせて公開した前作でしたが、開催前の五輪への世間の風当たりの強さなども影響し、満足なプロモーションを行えませんでした。今回は、その点も踏まえ映画ファン、LGBTQコミュニティに向けたプロモーションを行っています。特に、前作を見ていただいた新宿二丁目のコミュニティの方々を中心に、すごく応援してくださっていて、多くのお店にポスターが貼られています。新宿二丁目に監督がいらして試写も行う予定です。監督自身が当事者であり、この作品に込められた想いを、しっかり届けられるように意識しています。もちろん、ブリアナさんやビッケブランカさんを通してこの作品に関心を持ってくださった方や、映画ファンの方々も確実に集客できるように注力します」(小田氏)。10月28日の公開時は全国25館程度でスタートする予定だ。


海外映画の日本撮影や、日本の製作者の米国撮影も支援

 小田氏が所属する「グローバルコンテンツ部」は現在7人が在籍している。この部署が買付を担当するほか、国際共同作品の企画、製作、制作受託のハブを担う。

 前記の通り、エストニアの作品にも出資が決定。『ノベンバー』で米アカデミー賞のエストニア代表に選ばれたライナー・サルネ監督の新作だという。来年以降の公開を予定している。

 制作受託については、フラッグが保有する制作部隊が稼働する。バイリンガルのスタッフも複数人所属しており、海外映画の日本での撮影をサポートすることも可能だ。先日も、2018年にアメリカでスマッシュヒットした映画のプロデューサーによる新作の日本ロケの制作を受託した。一方で、日本の製作者が米国で撮影を希望する際には、ロサンゼルスの子会社(フラッグ・ピクチャーズ)が制作を支援する。

 久保氏は「もっとナチュラルに、ほかの国と一緒に制作、セールス、配給するようなことが増えていくと、面白い才能同士が混ざり合い、より面白いコンテンツを生み出せる可能性は十分あると思います。国内で作った映画を持って海外に打って出るだけでなく、そもそも最初から海外と一緒に作ることができれば、より選択肢が増えるのではないでしょうか」と、日本と海外の有機的な連動に意欲を燃やす。


取材・文 平池由典

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