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ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 冨田みどり代表取締役に聞く

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ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 冨田みどり代表取締役に聞く

2021年08月24日
SPEJ冨田みどり代表取締役.jpg


 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPEJ)の代表取締役に、2021年1月1日付で冨田みどり氏(=写真)が就任した。

 新卒でソニー本社(現ソニーグループ)に入社した冨田氏は、これまでに海外マーケティングや商品企画、携帯電話・スマートフォンの事業会社の事業戦略、ハワード・ストリンガー元CEOのスタッフなどを歴任。直近ではソニーのブランド戦略を担当していた。従事していた仕事柄、グループ内での顔が広く、事業間が連携するプロジェクトも得意とする。SPEJの社員からは「グループ内で何かしたいと思えば、冨田さんに相談すれば最適な人を紹介してもらえる」との声も上がる。

 そんな冨田氏が、SPEJではどんな手腕を振るうのか、社内外から注目が集まっている。代表就任から半年が経過した今、会社の舵取りについての考えを聞いた──。


印象深いエリクソンとの合弁

──まずはご経歴を聞かせてください。1984年にソニーに入社され、一貫してソニー(と事業会社)に勤められています。特に印象深い仕事は何でしょうか。

冨田 事業系で言えば、主にビデオ事業、携帯電話・スマホ事業に深く関わりました。携帯電話・スマホ事業では、ソニーと、スウェーデンの通信会社「エリクソン」の50:50の合弁で設立された「ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ」の日本法人で2003年から5年間勤めました。あと、2012年にソニーが50%をエリクソンから買い取り、100%子会社化した「ソニーモバイルコミュニケーションズ」で2年半。ですから、計7年半ほど携帯電話・スマホ事業に関わり、主に事業戦略を担当していました。ソニー・エリクソンは、スウェーデン人と日本人という、異なる文化を持った人たちが中心となり、海外(ロンドン)の本社でグローバル企業を作るという状況だったので、2つのカルチャーを融合させるプロセスがあり、色々勉強になって思い出深いですね。

──2つの文化はどんな違いがあったのですか。

冨田 当時のソニーは割と属人的で、何人かスーパーマンがいて、その人たちが色々なものを引っ張っていくという仕事の仕方でした。しかしスウェーデンの会社は、誰がいつ抜けても代わりが効くように、仕事がプロセス化され、色々なことが明文化されているのです。今は日本でもイクメンなどが話題になっていますが、スウェーデン社会は当時からすでに男女平等が徹底されていて、男性も普通に育休をとります。例えば、お母さんが半年休んで、そのあとはお父さんが半年休む、といった感じです。その文化がベースにあるからだと思うのですが、組織の中で誰がいつ抜けるかわからないため、先ほど申し上げた仕事のやり方になったのだと思います。異なる文化がだんだんマージ(融合)していくことは、お互いに良いところを認めないとなかなかできないので、それを一体化するプロセスは面白かったです。

──携帯・スマホ事業ですと、大きな変革を肌で感じられてきたと思います。その流れをどのように見てきましたか。

冨田 今も変化していますが、私が携わっていた時には大きな変化が2つありました。ソニー・エリクソンに勤めていた当時は、日本の携帯電話の技術方式が海外と違っていたのです。よくガラパゴスとか言われていましたが、そこから4G、5Gの時代になっていくにつれて、グローバルの方式と技術を一緒にすることとなり、もともと国内の商品の設計をしていた日本の設計者に、海外に出ていく商品の設計をしてもらうようにするという変革がありました。これが1つ目です。
 もう1つはソニーモバイルでの話です。(ソニー・エリクソンから)ソニーモバイルになった時は、すでにiPhoneが発売されたあとで、業界が激変していました。ソニーはそこに乗り遅れたような状況の中で、やはりスマートフォンの無いソニーはない、という話になり、ソニーのカメラのテクノロジーや、音楽のテクノロジーを入れることで、ソニーらしいスマートフォンを作ろうとチャレンジしました。2回の異なる大きな変化の時代にいました。

──事業戦略のお仕事とは、具体的には。

冨田 例えば、この事業は今後小さくなりそうだから、このリソースをもっと別のことに使った方がいいと判断したり、将来的に伸びそうな分野なのに、そこに寄与するような技術やスタッフが社内にいない場合、他社のパートナーを見つけ、一緒にできないかということを検討したりだとか。そういった仕事でしたね。


多様な事業を知ってもらう

──2016年からは、ソニーの「ブランドデザインプラットフォーム」部門のバイスプレジデントを務められていました。

冨田 私が担当していたのは、ソニーブランドの価値を高めることです。今でこそソニーの事業はエレクトロニクス、映画、ゲーム、音楽、金融など多岐にわたっていますが、もともとはエレクトロニクス事業から始まっていることもあり、いまだに「エレキのSony」のイメージを持たれている方は一定数いると思います。アメリカではプレイステーションのイメージも強いのですが、日本では、3~4年前までなら、「Sonyと言えばウォークマン」と思っている人がまだけっこういました。CEOの吉田(憲一郎)は、ソニーについて「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」を標榜していますが、そのように見てもらえるような施策、例えばキャンペーンを打つといったことをしていました。ある調査では、ソニーの事業をよりたくさん知っている人ほど、ソニーに対するブランドイメージや好感度が高いというファクトがあります。なるべく色々なソニーの姿を知って頂くことがブランド価値の向上につながるのではないかと考え、例えば音楽のイベントにソニーの技術を組み合わせた形で見せる、といったことを意識していました。

──印象的なイベントはありますか。

冨田 毎年1月に米国で開催される家電の国際見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では、ソニーもその年の注目の事業を紹介しますが、2019年はソニーの立体音響技術「360 Reality Audio」のプレゼンに、ソニー・ミュージックのアーティスト・音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスが登場しました。また、テレビの話をする時も、SPEで映画を作っている人から、「このテレビで見れば自分の作品が作った意図と同じ画質で見られるよ」と紹介してもらうといった形で実施されました。

──必然的に、色々な事業の人と関わるようになりますね。

冨田 ブランドの仕事やCEOスタッフをやっていたこともあり、エレキだけでなく、映画、ゲーム、音楽など、ソニーグループの色々な人たちと接点があって、どんな事業なのか、どれも基礎的な知識はあったのかなと思います。


One Sonyの意味

──ソニーグループでは、かねてから大きなスローガンとして「One Sony(ワンソニー)」を掲げていますよね。冨田さんのこれまでのお話からも、その意識が感じられますが、One Sonyとは具体的にはどういった意味なのでしょうか。

冨田 One Sonyとは、目的ではなく手段です。先ほど来申し上げているように、ソニーには多様な事業体があり、その人たちが自らの事業の最大化、最適化のために色々行うわけですが、その過程でソニーの技術を取り入れたり、他のソニーグループの会社と協力することで「より大きな結果を出しましょう」「付加価値を高めましょう」ということをOne Sonyと言っています。

──One Sonyの具体例はありますか。

冨田 ソニーグループではIPの強化を重点施策として掲げており、その一例として、プレイステーションのゲーム「アンチャーテッド」を素材にしてトム・ホランド主演の映画を米国のソニー・ピクチャーズ本社(SPE)で今作っており、来年度公開予定です。こういったプレイステーションのIPを映画に展開する例をはじめ、ソニー・ミュージックのアーティストであるカミロ・カベロを主人公にした『シンデレラ(原題)』(Amazon Prime Videoで全世界独占配信)という映画も製作されました。IP強化という文脈で言えば、そういったことをグループ間のシナジーで行っています。


続きは、文化通信ジャーナル2021年8月号に掲載。

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取材・文 平池由典



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