盛田洋氏
同社では、2011年にオープンしたアニメ商品の専門ECサイト「きゃにめ.JP」(現・きゃにめ)を皮切りに、EC事業の本格展開を開始。さまざまなジャンルに特化したECサイトを次々と開設し、現在、ドラマ・映画などのDVD・BDを取り扱う「ムビきゃん」、所属アーティストなどのグッズ販売を行う「monocan」、海外在住者向けの「PONYCANYON SHOP」と、多数の自社サイトを構えている。客は窓口となる「ポニーキャニオンショッピングクラブ(PCSC)」に会員登録することで、基本すべてのサイトで通販を楽しむことができる。
EC事業の売上面で大きな比重を占めているのが「きゃにめ」だ。同サイトではアニメ・声優関連商品を販売。オリジナル特典などで差別化を図り、売り上げを伸ばしてきた。こうしたアプローチについて盛田氏は「当社以外の販売サイトでは定価より安く入手できるケースもあるのですが、『きゃにめ』では定価販売が基本なので、いかに魅力的な商品を企画し、独自の価値を築けるかが勝負だと思っています」と話す。
特典だけでなく「きゃにめ」限定商品も強みの一つとなっている。氏の率いるコンシューマビジネス本部では、EC事業に関する幅広い業務を担うが、近年、最も力を入れているのが制作部門だ。具体的な取り組みとして、昨年度から部署内に新たにプロデューサー職を設置。アニメや音楽など他部署との連携を強化し、関連する新商品の開発に本腰を入れ始めた。その代表例が、新作TVアニメ「SSSS.DYNAZENON」のフィギュアだ。これは同社が初の自社開発フィギュアとして今年2月に発表したもので、1年以上前からアニメの担当スタッフや原型製作を手掛ける会社と連絡を密に取り合い、商品化を実現。5月から「きゃにめ」他で受注販売をスタートする。
自社でECサイトを展開するメリットについて盛田氏は「やはりお客様のニーズをダイレクトに捉えることができるのが一番大きいですね。『こういう商品を出してほしい』という声もたくさん頂くので、そうしたフィードバックを活かしながらの商品展開を常に意識しています」と話す。
前述の「きゃにめ」では一昨年、有料会員サービスの「きゃにめプライム」を開始。会員向けのオリジナルアイテムや、人気声優を起用した映像コンテンツの配信など、通販だけに限らないエンターテイメント空間を創出し、アニメファンが集う施策も積極的に展開している。3月末には「きゃにめ」10周年を記念して、サイトも大幅リニューアル。レイアウトやUIを刷新することで、より魅力的なショップへと進化させた。
さまざまなグッズを取り扱う同社だが、流通面では静岡にある全体倉庫が拠点となっている。静岡以外にも、イベントの事前物販が主流になりつつあること、夏休みや年末年始といったイベントが重なる時期に多く商品が稼働することなどを考慮し、関東近郊にも倉庫を分散させて並行運用。発送に遅延が発生しないように細心の注意を払っているという。
顧客情報の管理などセキュリティ面も昨年、会社全体で大幅強化。コンシューマビジネス本部では、毎週「ウイルスソフトは機能しているか」などの基本項目を設けたチェックシートを活用し、社員のセキュリティ意識向上を徹底するなど人材教育にも力を注いでいる。
これまで右肩上がりの成長を続けてきたというEC事業だが、昨年それに拍車をかけたのが新型コロナウイルスによる巣ごもり需要だ。CDや映像のパッケージ商品も、テレビの再放送などの影響で旧譜の売り上げが急上昇。また、コンサートやイベントの無観客化などが相次ぎ、ネットを通じてのグッズ販売が定着したことも大きかった。「通販の売り上げは(肌感覚で)1・7~1・8倍に増えました」という。
海外へのアプローチを積極的に
新サービスも続々展開しており、昨年11月には「POP(パッケージ・オーダー・プロジェクト/通称:ポップ)」をスタートした。POPは、PC所蔵の音楽・映像ライブラリーの中から厳選した商品に対し、客からオーダーを募り、復刻・商品化するという企画。定期的にパッケージ化候補のラインナップがWebサイトに公開され、募集期間内にオーダー数が規定数に到達した商品のみが実際に発売される。これまでにシティ・ポップの名盤として評価の高い松原みき「真夜中のドア~stay with me」「POCKET PARK」の復刻盤などをリリースし、いずれも好評を博している。また、50~60代のエルダー層に向けた商品を紹介するサイト「お宝マーケット」の開設もその一例だ。
今後は、事業規模をさらに広げていくため、海外へのアプローチも積極的に仕掛けていく方針で、海外向けサイト「PONYCANYON SHOP」の中国への対応強化なども検討しているという。「国内外ともに課題としているのは宣伝面ですね。そのためにYouTubeなどで購入リンク付きの通販番組を作っていき、海外のインフルエンサーともコラボしていきたいと思っています」。