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MPAセミナー、憲法の視点で「サイト・ブロッキング」を議論

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MPAセミナー、憲法の視点で「サイト・ブロッキング」を議論

2020年12月24日
 日本国際映画著作権協会(MPA/JIMCA)は11月4日、東京国際映画祭期間中に毎年開催しているMPAセミナー(第10回)を、六本木アカデミーヒルズ49オーディトリアムで開催した。今回の議題は、海賊版サイトへのアクセスを遮断する手段「サイト・ブロッキング」。MPAはかねてからこの法制化の必要性を訴えており、同セミナーで取り上げるのは2016年から5回連続となる。

 まず、主催するMPAのチャーリー・リブキン会長(ビデオメッセージ)、東京国際映画祭の安藤裕康チェアマンの挨拶後、甘利明衆議院議員 自民党税制調査会長が登壇。従来の映画や音楽だけでなく、漫画なども海賊版サイトでダウンロードすることを違法化した改正著作権法が今年6月に成立(2021年1月施行)したことなどを説明しつつ、サイト・ブロッキングに関しては「表現の自由だとか通信の秘密だとか色々な心配をされる方がいる。海賊版の横行を防ぐための手立てが識者の会で何項目もあり、全てを対応しても対処できない場合、そこに(サイト・ブロッキングという)正面から踏み込むという仕切りにさせて頂いている」と話すと、続いて登壇した田中茂明内閣府知財戦略推進事務局長も「甘利会長がおっしゃった通り、ブロッキングは、総合対策に基づく様々な措置や取り組みの効果、被害状況などを見ながら検討することとされている」とし、まずはブロッキング以外で海賊版対策を進めていく政府の方針を語った。


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ビデオメッセージを寄せたMPAのチャーリー・リブキン会長

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東京国際映画祭の安藤裕康チェアマン

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甘利明衆議院議員

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田中茂明知財戦略推進事務局長


“アクセス先取得は電通事業法に反しない”と大日方氏

 その後、熊本大学の法学部教授・大日方信春氏が「海賊版サイト・ブロッキングの憲法適合性」と題した基調講演を行った。

 まずは、反対派が指摘する“表現の自由”について、わいせつ・名誉毀損・プライバシー侵害・児童ポルノといった違法表現をする自由は「観念できない」とし、「海賊版は著作権法に反する違法表現」と、さきに挙げた違法有害表現と同様に扱うべきとの考えを示した。また、例えそれが阻却されても、サイト運営者が海賊版を配信する自由は、憲法上の定義では観念できないとした。仮に海賊版をアップロードすることが違法だと認められない場合があるなら、それはサイト利用者の「知る自由」を優先した場合であると考えられるが、「ネット利用者が表現を受領できるのは、誰かがその表現をアップロードしたことからの、いわば反射的利益に過ぎない。その表現が違法なものならアップロードできないのだから、この反射的利益も成立しない」とし、違法表現を見る自由も観念できないという考えを示した。


大日方教授.jpg
熊本大学の大日方信春教授


 そして、最大の焦点である“通信の秘密”についても説明。それによると、ISP事業者は、他人の通信を媒介する目的でアクセス情報などを取得し利用しており、電通事業法で禁止するものは「通信を媒介する目的以外でアクセス情報を取得し利用すること」に限定できるはずとし、ブロッキング目的で利用者のアクセス先を取得するのは電通事業法に反しないと語った。また、「人の知覚によらない知得、機械的な知得により、(宛先や送受信日などの)通信の構成要素を知得しても、そこから通信の内容は誰にも推知されない」と、機械による検知は問題ないことを主張した。プライバシーの侵害にあたるという意見についても、同様に機械的に検知された情報が私生活などと関連づける行為がブロッキングには存在しないという。

 一方、児童ポルノコンテンツは緊急避難的にサイト・ブロッキングが認められている点について触れ、「ブロッキングにより得られる“児童保護”という利益が、そのために失われると考えられる“インターネット利用者が持つアクセス先を検知されない自由”よりも大きいと判断したものだと思われる」とし、それは「海賊版ブロッキングでも同じ」と指摘。ネット利用者が被る不利益が、著作権の権利者に、ひいては日本の文化芸術振興にもたらされる利益と比較して、決して大きいとは言えないと強調した。


“ブロッキング有効だが最終手段で”とノードマン氏

 次に、著作権や知財に詳しいヤン・ノードマン弁護士が、ドイツからリモートで参加。EUでは、ドイツをはじめ、フランス、イタリア、スペイン、英国(EU離脱)など過半がサイト・ブロッキング制度を採用しており、その有効性を語った。

 ノードマン氏によると、サイト・ブロッキングは、違法サイトのIPアドレスを入力すれば回避できてしまうため、当初はその有効性に疑問が持たれていたものの、イギリス(15年)では2か月間で77%の利用減少、ポルトガル(17年)では1年間で70%利用減少し、大きな効果があったことを報告した。また、ドイツの連邦最高裁は、ブロックしたことによる実証的な数字は重要ではないとの姿勢で、「(違法サイトの)ユーザーに再考させ、不正行為に対する理解を高めることになるから、実証性は不要。啓蒙に機能すると考えている」という。

 また、プロバイダーがブロックする責任を負うか否かについて、EU著作権指令の備考59では、「侵害活動を終わらせるために最も適した立場にあるのは当該仲介者。権利者は仲介者に対し差止命令を申請することができなくてはならない」という旨の文を記しており、実際に欧州連合司法裁判所の訴訟(UPC Telekabel Wien/Constantin【2014年3月27日】)では、プロバイダーが対策を講じる義務があるとする判決が下されている。

 ただ、EUでもサイト・ブロッキングは「最後の手段」とされており、運営者やプロバイダーに対して合理的な法的措置が不調に終わった場合のみ、補完として用いられるという。


伊藤氏“全員が70%は満足できるソリューションを”

 大日方氏とノードマン氏の講演後は、遠山友寛弁護士(TMI総合研究所)の司会によるパネルディスカッションが行われ、遠山氏は「日本の海賊版サイトは現在2777サイト存在し、現在でも月間2.8億のアクセスがある。この1つ1つに個別に対応すれば大変なことになるのは誰でも想像できる」とし、サイト・ブロッキングは「(利用者がアクセスしようとする)ドメインネームを検知するだけ。私の情報が知られるわけでもなく、ストア(記憶)もされない」と話すと、大日方氏も「何が秘密として侵害されているのか理解できない」と首を傾げた。


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リモートで参加したノードマン氏を交えディスカッション


 また、ブロッキングが「最後の手段」とされることについて、遠山氏は「先に何をやればいいのか」と質問を投げかけると、ノードマン氏は「サイトの運営者に削除要請する。しかし、多くの場合は責任者が見つからない。そこでホストのプロバイダーのところに行くが、(違法な運営者は)防弾チョッキを着たようなプロバイダーを選ぶため、請求しても反応してくれない。なので、ドイツではブロッキングだけが海賊版サイトに対する救済策になる」と、実際はブロッキングの前にできる対応策は無効である実態を語った。

 会場の聴講者やオンラインでの視聴者からも質問が挙がり、「日本でブロッキングが“通信の秘密”を侵害するというのは通説なのか?」という問いに対し、大日方氏は「(通信の秘密は)憲法学者の間でも研究が進んでいなかったが、海賊版ブロッキングの話が出てきて注目が集まってきた。数よりも、有力な方が通信の秘密に反するとおっしゃっていると思う」と、決して大勢を占めているわけではないと実態を述べた。


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伊藤信太郎衆議院議員


 なお、閉会の挨拶には伊藤信太郎衆議院議員 文化芸術振興議員連盟 事務局長が登壇し、「本家のアメリカではサイト・ブロッキング制度は無い。聞くところによると、10年前に議会で否決された。GAFAのあるところが、強烈な反対運動をしたと聞いている。GAFAの力は10年前よりあるし、スタンスも変わってきていると思う。サイト・ブロッキングの話をする時に、ステークホルダーの関係性をどう考えていくか、それぞれの国に存在しているリーガルシステムとの関係をどう考えるか、そして最終的に全ての方が、100%でないにしても、70%は満足できるソリューションをどう考えていくかということが大事」と、落としどころを探る必要性に言及した。

(了)

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