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池袋のライブ劇場「harevutai」オープンから1年、再び稼働率高まる

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池袋のライブ劇場「harevutai」オープンから1年、再び稼働率高まる

2020年11月05日
harevutai担当の佐藤氏、青山氏(エントランス前で撮影).jpg


 ポニーキャニオンが池袋で運営するライブ劇場「harevutai(ハレブタイ)」は、2019年11月のオープンから1年が経った。全国のライブハウスは、コロナ禍によりこの春から苦しい経営を迫られており、ハレブタイも例外なく大きな打撃を受けたものの、開業当初から将来を見据えてライブ映像配信に対応した最新設備を整えていたことが奏功。アーティストたちの無観客ライブ配信需要の増加を受けて再び稼働率が高まり、年末年始まではほぼスケジュールが埋まっている状態だという。ポニーキャニオンのharevutai推進グループ チーフプロデューサーの佐藤正朗、チーフマネージャー ブッキング担当の青山信長の両氏に、ハレブタイの現在を聞いた――。

 昨年11月1日に開業したハレブタイは、昨今のライブ&イベント人気を受け、「月のうち25~28日間は稼働していました。特に土日はあっという間にスケジュールが埋まっていきました。当時はまだスタッフの数が少なかったので、あまりに忙しく、知り合いに会うと『やつれてるよ』と言われました(笑)」(佐藤氏)というほど順調な滑り出しを見せていた。なかでもメンズアイドルグループや声優のイベントで使用されるケースが多く、会場の清潔さや適度な広さが主催者の間で評判となり、年間でまとめてスケジュールを押さえるリピーターもいたという。

 ところが、3月頃から新型コロナの影響が直撃。感染拡大防止の観点から、同社サイドより主催者側にイベント中止を要請した。前例がない事態だけに、費用負担の面で紆余曲折あったものの、結局は開催が目前に迫っていた主催者には会場費を全額返金し、残りは日程をスライドさせることで承諾を得た。そしてハレブタイは4~5月は完全休館。開業から半年ほどで苦境に立たされることになった。

 ただ同社では、緊急事態宣言解除後は無観客ライブ配信が増加することを想定し、解除後にはすぐに始動できるよう準備を進めた。休館の間に他のライブハウスなどの情報を収集、新型コロナ対策の備品・機材の導入を進め、消毒、検温、問診票の記入などを徹底するなど、安心安全を最優先に再開に備えた。

 その結果、再開後の6月当初は利用数が少なかったものの、「8月からは明らかに問い合わせが増えました」(青山氏)という。「とにかく安心安全を第一に考えていたので、それが主催者の安心感につながり、『あそこはしっかりしてるよ』と噂で広がったようです」(佐藤氏)。さらに、同社の予想通り、無観客でライブ配信を行うアーティストが急増し、有料のライブ動画配信に対応したプラットフォームが短期間に続々と立ち上がるなど、ライブ動画配信サービスはたちまち市民権を得た。当然、この機会に他のライブハウスはライブ配信対応用の機材の導入を急いでいるが、青山氏は「ハレブタイはもともとそのための劇場です。テレビ(の放送)にも耐えうる機材を導入しており、それも含めてご案内しているので、配信をやるならここで、というのが広まっているようです。6~7月で無観客ライブ配信をしたことで業界内に浸透し、8月からの問い合わせ増加に繋がったのだと思います」と分析する。新型コロナ拡大前は多くても月に2回ほどだったライブ配信の利用が、今はほとんどのイベントで利用される状況になっている。


左より佐藤氏、青山氏.jpg
佐藤氏(左)と青山氏(右)


 利用者の傾向も休館前から変わり、現在は配信を目的としたバンドの利用が増えた。「演者やプロデューサーが、画面の向こうの人をどう楽しませようか、ということを考え始めています。例えば、弊社のアニメプロデューサーから『客席内にステージを作りたい』という要望があり、ドラム、ベース、ギター、キーボード用の平台を客席に組み立て、ボーカルが舞台からランウェイで行き来できるようにし、そこに各カメラを配置し、照明の位置も変更しました。無観客なんだから自由に使ってみようと。これらのノウハウは次に営業する際の武器になっています」(佐藤氏)。バンドだけでなく、企業が商品説明会に利用する例も増えるなど、その先進的な機能と利用者の要望に柔軟に応えようとする姿勢に様々な業界からも注目が集まりつつあるようだ。

 一方、「まだ完全には使いこなしてもらっていない」(佐藤氏)というように、ハレブタイは従来のライブハウスとは一線を画す様々なポテンシャルを秘めている。例えば、常設している3つの大型スクリーンだ。3DホログラムによるCGライブが可能な透過スクリーンなど、いずれも最新の映像技術に対応可能だが、それらを十分に駆使された例は少ないという。青山氏は、一つの使用例として「(舞台の)奥にあるLEDのビジョンでは映像演出をしつつ、透過スクリーンで歌詞を表示したり、演者と連動して動く絵を出したりだとか。そういったイメージが出来ているプロデューサーは、すでに使われている人もいます」と紹介する。また、これまではあまり利用されていないものの、リアルタイム合成が可能な機材「トライキャスター」も導入しており、今後利用を促していきたい考えだ。

 機材だけでなく、人材の育成と強化も視野に入れる。コロナ禍の厳しい状況の中でも、「増やして攻めていこう」(青山氏)という気概で、9月、10月にも増員。現在、現場では12人のスタッフが勤務しており、ポニーキャニオン全体では25人ほどが関わっている。音楽、ライブハウス好きが揃い、明るさとマナーを重視した環境作りを徹底する。

 技術面での強化も怠らず、佐藤氏は「生配信が増えたことで、カメラマンとはカメラワークとスイッチングを強化していこうと話しています」という。ライブに専属のカメラマンが帯同しない場合でも、そのアーティストのファンが求めるカメラワークに対応できるようにする。「ハレブタイは、音が良いとか綺麗というコメントは頂くのですが、ユーザーもライブ配信に慣れてきて、次のステップとして、カメラワークなど中身のところをチェックする時期に来ているのではないかなと思います」(佐藤氏)と、常に先を見据えてサービスの充実を図る。

 一方、ライブハウスのガイドラインが先ごろ改定されたことを受け、これまで最大45席に設定していた座席数を、11月から82席に増やす。客を入れたイベントの再開も視野に入り、青山氏は「(会場とオンラインの)ハイブリッドな営業に移行できるのが1番理想だと思っています」と、今後の方向性を語った。


取材・文 平池由典

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