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マンガ原作をVR映画化!『ブルーサーマルVR』製作チーム座談会

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マンガ原作をVR映画化!『ブルーサーマルVR』製作チーム座談会

2018年06月11日

『ブルーサーマルVR-はじまりの空-』.jpg



 グライダーに青春をかける若者たちを描いた漫画「ブルーサーマル‐青凪大学体育会航空部‐」が、VR(バーチャル・リアリティ)で映画化された。タイトルは『ブルーサーマルVR‐はじまりの空‐』。メガホンをとったのは、『カメラを止めるな!』の新鋭・上田慎一郎監督。VR作品の演出は今回が初挑戦ながら、鑑賞者がグライダーに乗って大空を飛んでいるような感覚を味わえる爽快な作品に仕上げた。

 同作は、5月に行われたカンヌ国際映画祭の併設マーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム」へ出展。それを機に情報を解禁すると、原作ファンや出演者のファンらを中心に話題となり、7月上旬の公開に向けて期待が高まっている。

 企画・制作したのは、埼玉県の映像施設「SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ」の運営などを担うデジタルSKIPステーション。さらに、VRプロダクションとしてeje、制作プロダクションとしてダブが参画し、それぞれノウハウを持ち寄りながらVR映画を完成させた。

 通常の映画とは全く異なるアプローチが必要なVR映画の制作現場はどのようなものなのか。今号では、デジタルSKIPステーションの廣瀬敏事業企画部プロデューサー、ejeの待場勝利VR推進部執行役員、ダブの松浦順子プロデューサー出席のもと座談会(5月15日)を行い、その内幕を語ってもらった。





カンヌは満席の大盛況

――廣瀬さんと待場さんは、カンヌから戻られた直後のお疲れの中でご出席頂き恐縮です。マルシェ・ドゥ・フィルムでの出展はいかがでしたか? 上田監督が、ツイッターで盛況だったことを報告していましたが。

eje待場 我々のスクリーニングの日は、朝にロシアのチームがまず出展していたのですが、鑑賞していたのはたったの2人。そして、我々の前の回の韓国チームは5人で、しかも最後まで残っていたのは2人でした。そんな状況ですからかなり不安だったのですが、我々の回の開始5分くらい前になると人がどんどん入ってきて、30席が満席となり、お帰り頂いた人もいました。途中退席する人もおらず、上映している際は笑いも起きて、非常に反応が良かったです。

SKIP廣瀬 映画祭のオフィシャルカメラも入ってきて、満席の光景を撮影して行きましたね。映画祭スタッフの人が覗きに来たりだとか、大盛況でした。

eje待場 カンヌの人たちは厳しいと聞いていたのですが、今回、日本のスクリーニング終了後に、監督に感動を伝えるために、感じたことを一生懸命話しているのが印象的でしたね。

――カンヌのVRの展示とはどんな形なのですか。

eje待場 インタラクティブ性のある「VRエクスペリエンス」と、360度動画がメイン「VRシアター」の2つのブースがありました。VRエクスペリエンスは、体験者が動きながら楽しむ作品が出展しており、1人ごとにブースが設けられていました。一方のVRシアターは全員が座席に座って鑑賞するもので、全部で30席ありました。1プログラムで30~45分ほど。5月9~13日の5日間で世界中から集まった29プログラムが上映されていました。日本からは我々のチームのみ参加し、『ブルーサーマルVR』など3作品を上映しました。

――現地での反応はどうでしたか。

eje待場 まずはビジネスカードを交換して、どうやって海外のプラットフォームに出していくかを詰めていく段階ですが、パリのVR映画館を経営している会社とは前向きな話をしています。

――鑑賞した人はどんな感想を持ったのでしょう。

SKIP廣瀬 運営の人が「(上田監督は)これは何作品目だ?」と聞いてきたので、VR作品はこれが初めてだよと伝えると、「初めてでここまでうまくできるのは凄い」と言っていました。「VRの文法を理解して作られている」と。



左より待場、松浦、廣瀬の各氏.jpg
(左より待場、松浦、廣瀬の各氏)



埼玉県が製作


《同作は、埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザが製作。SKIPシティでは、昨年開催した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017」でもVR特集を組むなど、VR事業に力を入れている》

――「VRの文法」は非常に気になるところで、後ほど伺いたいのですが、まずはこの作品の企画の成り立ちを伺えますか。製作したのは埼玉県/SKIP彩の国ビジュアルプラザですね。

SKIP廣瀬 埼玉県では「バーチャルリアリティ映像開発推進事業」を行っており、県内の産業をより活性化させるためにVRを活用してもらおうと考えています。それと、彩の国ビジュアルプラザでは若手クリエイターを支援しており、VRの需要が今後高まり、作り手の数が足りなくなった時に備えて若手育成を行っています。このVR映画製作はその一環です。そこで、埼玉県の熊谷市が舞台になっている漫画「ブルーサーマル」をVR映画化する企画がスタートしました。埼玉県熊谷市の聖地巡礼という狙いもあります。

――VR映画を制作するにあたり、ダブ、ejeと組んだ理由は何ですか。

SKIP廣瀬 彩の国ビジュアルプラザに、映像のベンチャー企業などがポスプロの際などに使用できる施設「インキュベートオフィス」があり、その入居審査の担当をダブの宇田川寧代表取締役にお願いしている関係もあり、ダブさんにお願いしようと。ejeさんは、昨年の「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」でVR特集を組む際、待場さんにノウハウを伺ったり、VR映画『交際記念日』を出品して頂いたりと協力頂いた関係もあり今回お願いしました。ちなみに、上田監督はインキュベートオフィスに入居されており、人材育成プログラムに参加してもらい、VRの演出をレクチャーしました。ほかにも何人か監督候補はいましたが、上田監督の作風が最も原作に近いと思い、抜擢しました。

――埼玉県として、こういったVR映画を製作するのは今回が初めてですか。

SKIP廣瀬 3作目ですが、ドラマ仕立てにしたのは今回が初めてです。前作は、川口オートレースで撮影し、バイクレースを体験できるものでした。その作品を視聴した数人から指摘されたのですが、「(自分が映像の中でバイクに乗る)必然性を感じなかった」というのです。ヘッドマウンドディスプレイをつけると、突如バイクレースのシーンになるのですが、実は、自分がレーサーになるプロセスが意外に大事なのです。『ブルーサーマルVR』も、グライダーに乗るだけではプロセスを感じないので、今回は、なぜグライダーに乗るのかというストーリー性を意識し、映画と体験をミックスさせた作品作りを心掛けました。

――ダブではこれまでにVR映画を制作されたことはあるのですか。

ダブ松浦 いえ、今回が初めてです。

――普段は通常の映画やドラマを制作されている中で、VR映画をやると決まった時にどう思われましたか。

ダブ松浦 ダブはVRの企画開発を積極的に推し進めていこうと勉強会の時間を定期的に設け、テスト的に撮影したりと色々な研究はしていました。ただ、実際に制作するのは初めてで、右も左もわからず(苦笑)。それでもejeさんがVRのテクニカルの面で一緒にやって頂けるので心強かったですし、映画作りのノウハウでは弊社も協力できると思ってやらせてもらいました。

SKIP廣瀬 ダブさんは青春映画の制作に長けていますから、キャスティング、スタッフィングやロケ地探しなどは短い時間で進めてもらえました。安定した現場でした。

――撮影に向けた準備という点で、通常の映画との違いはありましたか。

ダブ松浦 スタッフや出演者にVRに触れてもらう機会を作るのが大事で、リハーサルや衣装合わせの場で見てもらい、普通の撮影以上にリハーサルが重要だなと思いました。カメラに対する立ち回りも通常の映画とは異なりますから。


誰目線で描くかが重要

《『ブルーサーマルVR』では、鑑賞者は原作には登場しないオリジナルキャラクターとして作品を体験することになる。主人公・都留たまきと同じ新入生の目線で、グライダーに挑戦する》

――何より脚本が難しかったのではないですか。

ダブ松浦 監督自身が、VRを撮るために、通常の映画の思考からシフトチェンジするのにちょっと時間がかかりましたね。脚本を誰目線で描くのか、それはみんなで議論しました。映像が360度という点も普通の映画とは異なりますが、脚本開発で最も壁にぶつかったのは、誰の視点にするかです。今回だと、まずは小野花梨さん演じる主人公「都留たまき」の目線にすることが考えられますが、主人公の目線にしてしまうと、その主人公は映像に出てこないのです。水石亜飛夢さんや田中偉登さんが演じた先輩役の目線にする案もありましたが、結局は登場人物が1人減ってしまうのです。

――『ブルーサーマルVR』では、鑑賞者は、主人公とともに入部する映画オリジナルキャラクターという設定ですね。

ダブ松浦 オリジナルキャラクターを作ってでも、この世界に入って体験できる視点を作ろうと考えました。主人公も先輩たちもちゃんと存在するからこそ、「ブルーサーマル」の世界を体験できると思います。それで方向性が固まりましたね。
 eje待場 原作のある作品で、オリジナルキャラクターを作るのは勇気がいることだと思いますし、このアイデアは素晴らしいなと思いました。VRならではの演出だなと。一人称のオリジナルVR作品はこれまでもありましたが、それとは違い、原作の漫画を知っている人にとっては、その世界に入って好きなキャラクターと一緒にストーリーを観ていけるのです。

SKIP廣瀬 VR映画の脚本でさらに難しい点として、「疎外感」をなくすことが挙げられます。役者たちがすごく楽しそうに演じている横にVRのカメラを置いて撮影しても、実際に観てみると疎外感を感じてしまいます。例えば、アイドルが談笑しているシーンで、みんなが盛り上がっているのに誰もこっちを見てくれないと、帰りたくなってしまいますよね。観る人に、その場での役割を持たせてあげることが大事で、監督やダブさんにはそのために視点をどうするかの工夫が必要なことをお伝えして、試行錯誤作って頂きました。


続きは、文化通信ジャーナル2018年6月号に掲載。

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