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まるでSF映画、空中結像ディスプレイシステム「ハイパー・ビジョン」体験レポート

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まるでSF映画、空中結像ディスプレイシステム「ハイパー・ビジョン」体験レポート

2017年07月18日

 SF映画のように、空中に浮いた映像を、手で触って操作する――。はるか未来のことだと思われた技術を、先日、株式会社アシストが発表した。ネット上でも大きな話題となり、同社へのホームページには、発表から数日で100万以上のアクセスがあったという。文化通信は同社に取材を申し込み、この注目の技術を実際に体験してきた。

ハイパー・ビジョン.jpg



アニメキャラとの握手やオフィスのエントランスに

 アシストが発表したのは、空中結像ディスプレイシステム「ハイパー・ビジョン」。映像が空中に浮いているだけでも驚きだが、ハイパー・ビジョンの最大の売りは、その映像に触れている感覚を得られる「触覚フィードバック機能」が付いていることだという。
 これが何に利用できるのか、事前に担当者に聞くと、アニメキャラクターとの握手や、オフィスのエントランスの受付、デジタルサイネージなどへの利用が想定されているとのこと。いずれにしても、その技術が商用化されたことは画期的と言えるだろう。

 東京の大田区にある同社を訪れ、ハイパー・ビジョンを体験できる部屋に通されると、そこには、“HYPER VISION”と表記された高さ100㎝ほどの長方形のボックスが設置してあった。準備してもらうと、ボックスの上に、可愛らしいアイドルキャラクターが浮かび上がった。


ハイパー・ビジョン(2).jpg



 写真ではわかりづらく恐縮だが、右の手がキャラクターの左手に触れている。この日は、残念ながら制作スケジュールの都合上、「触覚フィードバック機能」は付加されていなかったため、キャラクターを触っている感覚は味わえなかったが、手の動きに合わせてキャラクターが反応する映像を体験できた。


医者からの相談から始まったハイパー・ビジョン

 このハイパー・ビジョンは、ある脳外科医から相談を受けたことが発端になり誕生した。その脳外科医は、手術する際にiPadを操作して情報を確認しながら執刀しており、ディスプレイに特殊なカバーをしてあるものの、やはり「衛生上に問題がある」とし、「空中に浮いた映像を操作できないか」とアシストに持ちかけてきたという。

 実は、今回の取材で、写真OKが出たのはこのアイドルキャラクターのみだったが、ほかの映像も写真なしを条件に体験させてもらった。医療用の映像では、臓器が空中に浮かび上がり、その臓器をつかんで手で回すしぐさをすれば、臓器が360度回転。どの角度からでもチェックすることができ、手術の際の利用も見込んでの技術ということに納得がいった。

 また、映画館での設置も想定した映像も披露してもらった。空中の画面上に9作品の映像(タテ3×ヨコ3)が並び、好きな作品にタッチすれば、その作品がアップになって予告編映像が流れ始めるというもの。これはすぐにでも映画館で使えそうな内容で、いずれはチケット購入の際に利用することも視野に入れているそうだ。


超音波で「感触」を生み出す

 しかし、これだけ映像の質が高ければ、やはり気になってくるのは「触覚フィードバック機能」である。実態のないものに触れている感覚をどう作り出すのか。取材では、ハイパー・ビジョンの映像には触覚フィードバックがなかったものの、別途、映像を触っている感覚を体験させてもらった。

 その映像とは、AR(拡張現実)のゴーグルを着用して視聴するもの。ゴーグルを通して見ると、眼前に犬のキャラクターが浮かび上がって見えた。この映像には触ることができるというので、犬が佇んでいる場所に手を伸ばして見ると、なんと、丸みを帯びた感触を得られるではないか。

 実は、この犬(の映像)がいる場所には、英国製「ウルトラハプティクス」という、多数の小さなスピーカーが敷き詰められた板状の機器から超音波が発せられており、触ってみると、そこにあたかも存在しているかのような感覚を味わえるという仕組み。平面の映像にタッチしたり、球体に触れているような感触も、この機器で実現できるそうだ。

 前述のハイパー・ビジョンでも、同じウルトラハプティクスを下写真のような形で設置することで、「感触」を作り出していくのだという。


ハイパー・ビジョン(3).jpg



様々な技術を駆使して実現する


 いったい、ハイパー・ビジョンをどうやって編み出したのか。担当者によれば、まずはアスカネット社製の「AIプレート」を使用し、空中に映像を浮かび上がらせている。さらに、ウルトラハプティクスでその映像に触る感覚を生み出す。また、人間が触れることで映像が反応する技術は、インテル社製の「リアルセンス」と、リープモーション社製の「リープモーション」という2つのセンサーを使い分けているという。

 加藤光淑社長に話を聞くと、同社は1989年に精密器販売および精密機器用の研磨材販売業として創業し、光ディスクの量産プレスやオーサリング、近年は映画上映用素材「DCP」の制作、4K・8K編集も請け負っているという。京浜工業地帯の町工場が並ぶ地域で創業した同社には、中小の工場がそれぞれの技術を持ち寄り、1つの製品を作り上げるという地域独自の気質が浸透しており、自社の技術だけでなく、「この製品を作るためには、こことここの技術が必要」(加藤社長)という情報とネットワークを有していることも強みだという。今回のハイパー・ビジョンを様々な技術を駆使して実現させていることからもその特長を見てとれる。

 気になる価格だが、触覚フィードバック機能が付かないものは、税別158万円に設定されており、付くものは「応相談」となっている。応相談の理由は、実際に制作する映像や触覚フィードバックの複雑さによって、かかる費用に幅があるからだという。すでに興味を示している会社があり、体験希望者の問い合わせもひっきりなしだそうだ。

 今後は、商談で訪れた会社のエントランスに到着すると、空中に浮いた映像を操作して担当者を呼び出す時が来るかもしれない。駅や商業施設では、空中でCM映像が放映されるかもしれない。今回の取材では、そんな未来の世界を垣間見える技術に触れることができたのだった。


(取材・文:平池 由典)



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