高橋伴明監督(66歳)と奥田瑛二(65歳)がタッグを組んだ『赤い玉、』が9月12日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開中だ。
「生と性」に主題を置いたエロス映画。京都造形芸術大学の映画学科長を務める高橋監督。撮影スタッフ/キャストは、学生約40人と高橋監督を含めたプロ4人で編成されたという。奥田は大学で映画撮影の教鞭をとりながらも、自らは新作映画の撮影に入れないでいる映画監督・時田修次を演じた。その両氏にインタビューを行った。
★『赤い玉、』あらすじ
大学で映画撮影の教鞭をとりながら、自らは新作映画の撮影に入れないでいる映画監督・時田修次。映画とは自らの経験が投影される、そう考えている時田は、まるで自分が映画の登場人物であるかのように人生を流浪しているようにも見える。新作の脚本にとりかかる時田の私生活には唯という存在が根を下ろしているが、その現実から虚構/映画の世界に誘うように時田の前に現れる女子高生・律子。世界の境界さえも喪失していくように、いつしか律子の存在が時田の人生を狂わしていく。
学生の抗議から企画スタート
――企画はどのようにして立ちあがったのでしょうか。
高橋監督 キッカケは、学生からのクレームでした。京都造形芸術大学では、学生とプロの教員が組んで毎年一本の映画を撮影するという企画を行っていました。しかし資金が途切れ、中断せざるを得なくなりました。
それに対し、学生は、「この企画があったからこそ、映画学科に入学したのに」という旨のクレームを入れてきました。学生の意見は正しく、当たり前の怒りだなと。でも、どうしようかと考えまして、自主製作映画を作ろうと決心しました。
――お二人は今作以外でもタッグを組んだことがありますか。
奥田瑛二 一度、テレビの仕事でご一緒しています。それ以外は、飲み屋でよく偶然会っていました。でも、挨拶をする程度で、「久しぶり!飲もうぜ!」という間柄ではありませんでした。
ある日、伴明から電話がかかってきました。「話がある」と。それで実際に会って話を聞きました。「やるなら、当て書きをする」と言われましたね。即答で引き受けましたよ。伴明から内容を聞いて、「よし、やろう」の一言が自然と出ました。迷いはゼロでした。
高橋監督 話の内容からして奥田瑛二しかいないだろうと思いました。シナリオ段階でも、役名を語呂合わせで「時田修次」にする程です。「役の雰囲気もぴったりだし、彼ならやってくれるに違いない」と確信を持っていました。そういった目論見がありましたね。さすがに役名を奥田瑛二と書くわけにはいかなかったですが(笑)。
奥田瑛二 (笑)。
学生が性表現から逃げている
――なぜ今、エロスなのでしょう。
高橋監督 大学教授になってから長いのですが、学生たちが作った映画を見ていると性表現から逃げている傾向が分かります。「こんなじいさんたちでも頑張って、ここまでの表現をするんだ」ということを見せたくて企画しました。
逃げているというのは、性表現だけのことではありません。今の若い子を見ると、「失敗したくない、突出したくない、責任とりたくない」と思っているように見えてしまいます。それを払しょくしてほしいという想いも込めました。
――前半部分で描かれる濡れ場シーンのほとんどで、女性の頭が男性の頭よりも上にありましたが、その演出意図とは。
高橋監督 今作では「大人の濡れ場」と「学生の濡れ場」の2種類を描きました。いずれも女性の頭が上にあります。つまり、「メスはいるがオスは中々いないぞ」という演出です。これは最近思うことですね。
奥田瑛二 人を愛したり、別れたりするのは心の摩擦によって起こることです。昨今の日本では肉体の摩擦が不足しているから、心の摩擦も画面に焼きつかないのだと思います。伴明とこういった状況を憂う気持ちを共有できました。
――今作では、われわれ世代はまだまだ若者に負けないという姿勢がありありと感じられました。
高橋監督 われわれの世代ではオスであり続けようとすることはカッコ悪いことの様に映ります。でもそうするしかなく、他に残された道は「昔はヤンチャだったけど、この歳になって、立派な人になったね」と言われるか、「いまだにヤンチャしているの?」というパターンか、もしくは忘れ去られてしまったかという道くらいです。
奥田瑛二 「まだまだ終わりではない」という気持ちを持って演じました。恋愛の中にいてキチガイじみた異形の愛を求めていく、求めていくプロセスとして少女がいた、その気持ちを止められない、この時田の気持ちの流れがもの凄く理解できました。
――なるほど。時田修次には高橋監督自身が投影されているように思えましたが、現場ではどのようなやり取りをしながら、時田修次という人物を作りあげましたか。
高橋監督 現場では全てを奥田に委ねました。何をやろうとしているか/どこに向かおうとしているか分かってくれていると思っていましたし、実際にもそうでした。
時田修次に僕自身を投影したという面もありますが、半分半分ですよ。こちらが半分を提供し投影され、時田修次/奥田瑛二が、残りの半分の映画の世界を作り上げてくれました。
奥田瑛二 時田修次なのか奥田瑛二なのか、現実と非現実の部分が取っ払われる境地まで入れた現場でした。一体化する境地です。この歳になってもこういう役に巡り合えることは、そうそうないことです。難しい役だったとは、オファーを受けた時も現場に入った時にも感じませんでした。そう感じてしまえば、きっと失敗作だということですね。
インディペンデントの、独立プロの意地
――劇中、時田は書きあげたシナリオを映画製作者(柄本佑)に見せに行きます。彼とのやり取りの中で時田は「他人の人生を撮っている時間はない」「(この映画を)オレに見せたい」と答えますが、あの科白にはどういった想いが込められているのでしょうか。
奥田瑛二 私たちが命がけでやっていることは、メジャーではありません。そこにこそ意地があります。インディペンデントの、「独立プロの意地」とでも言いましょうか。やりたいことをやるためには、何ものにも邪魔をされたくないという気持ちがあります。「本質だけはゆがめられたくない」という意地です。
高橋監督 言葉通りです。時間がない。肉体的にも衰えてきている。そこから生じる焦燥感です。
エロス映画を撮る気になってほしい
――奥田さんにお尋ねしますが、学生との現場はいかがでしたか。
奥田瑛二 三回に分けての撮影でした。春の部一日と夏の部と秋の部。桜と紅葉を撮るためです。
夏の部が終わるか終らないかの瀬戸際で、僕は学生にブチ切れそうになりました。ただ、まさに映画通り、高橋伴明/時田修次のように我慢する。この「我慢」も虚構と実像が分からなくなるという経験でした。時田修次なのか、奥田瑛二なのか、はたまた高橋伴明なのか。
秋の部の前には「また、あいつらとやるのか」という気持ちでした。登校拒否の気持ちでした。まあ、夏の部を撮ってしまっているから行くわけですよ。そしたら、学生のひと夏の経験じゃないけど、彼らは見違えるほど成長していました。
「違うじゃねえか、前とは」と思うと、また違うエネルギーが沸いてきました。結局は、佳境に入るラストまで良い流れのまま撮影することができました。時田修次なのか奥田なのかが分からなくなり、感覚として全てを受け止めることのできた理想的な現場でした。
――最後に、これから今作を観る人に向けてメッセージをお願いします。
高橋監督 とりわけ業界人に観てもらい、エロス映画を撮る気になってほしいです。後は、若い人が観てくれたら、自分がオスかどうか考えてほしい。年配の人が観た場合には、果たして自分は忘れ去られた人なのか、いい大人になっているのか、まだオスであろうとあがき続けているのかと、向い直して頂く機会になればと思います。
奥田瑛二 われわれと同じ団塊の世代の人たちに総じて言いたいのは、もう一度振り返ってみなさいと、先輩に対しては、それですかね。だから、団塊の世代の人達が沢山観てくれたら嬉しく思います。
『赤い玉、』 http://akaitama.com/ 9月12日よりテアトル新宿と横浜シネマ・ジャック&ベティで公開中。26日よりキネカ大森、福井コロナ、第七藝術劇場、京都シネマで上映開始。10月以降も全国各地で順次公開される。
キャストは不二子、村上由規乃、花岡翔太、土居志央梨、柄本佑、高橋惠子ら。製作委員会は、ブロウアップ、渋谷プロダクション、ラフター。制作プロダクションは北白川派。宣伝・配給は渋谷プロダクション。
(c)「赤い玉、」製作委員会