11月3日午後4時近く、新宿ピカデリーに前売り券をもって、「42~世界を変えた男~」を見るべく、チケット売場に並んで座席状態を眺めると、4時15分の回が満席になっていた。開始直前ではあったが、これは全く意外であった。後ろのほうの高校生らしき4人連れも、「42~」を見ようと思ったのだろう。かなり驚いていた様子だった。私は、怒りも別になく、素直に帰ったのであるが。
翌日の4日、再度新宿ピカデリーに赴いた。1時35分開始の1時間前にたどり着いたにもかかわらず、その回の「42~」は満席であった。次の4時15分の回も、残り少なくなっていた。2日連続で新宿ピカデリーに入れなかったのは、初めてである。それも、「42~」である。昨日よりは、怒りの気を放った私は、若干いじけて帰ったのだった
うれしいな。「42~」はヒットしているということか。その座席状態なら、誰でもそう思うだろう。“いじけ”の発露は、それを見通せなかった自分が悪いのである。まだまだ、修行が足りない。翌日の5日、期待して「42~」の成績を調べると、11月1~4日までの4日間で、動員9万3545人・興収1億1043万9100円であった。スクリーンの数は159。「おや、これは」となるのに、それほど時間はかからなかった。
「42~」は、新宿ピカデリーがほどほどのキャパシティで、満席状態を作っていたのである。作品傾向から、地方より都会向きの作品ということもあっただろう。ただ、もう少しキャパシティの大きいスクリーンで上映してくれてもよかったという感じもあった。
だが、その兼ね合いは、実は難しい判断なのだ。満席となればヒットであるが、その満席状態は、適度のキャパシティだから実現できた。そうした状態を作ることは、映画館にとってとても重要である。ただ、そこで見られなくなる観客も、相当数出てくる。
全国で159スクリーン規模ということも、考える必要があろう。このスクリーン数が適度かどうかはさておき、洋画大作によくあるような拡大方式ではないのは確かである。となると、新宿周辺の上映館はそれほど多くはない。新宿ピカデリーに集中するのは、だから当然想定内ということになる。
ちょっと不思議な興行だとは言える。最終で興収2~3億円あたりに収まるとしても、「42~世界を変えた男~」は、単なる数字からだけでは見えてこない興行の密度のようなものが、しっかりとあったと言えるのではないか。スタートの日月(祝日)、新宿ピカデリーが満席状態を作っていたという事実を、しっかりと記憶にとどめ置くべきだろう。興行とは、一筋縄ではいかないのである。
(大高宏雄)