公開9週目にして、「クロユリ団地」が、興収10億円を超えた。7月14日時点で、動員80万6962人・興収10億0239万6000円を記録したもの。快挙である。
配給の松竹は、5月18日から6月14日までのファーストラン成績を、1週ごとに発表してきた。その6月14日までの4週間累計で、66万2939人・8億1992万8350円を記録した。だから、6月15日以降7月14日までで、2億円近い興収を上乗せできたことになる。
ホラーとしては、全く異例の息の長い興行が続いたものだ。ちなみに、邦画ホラーの10億円突破は、昨年の「貞子3D」(13億5千万円)に次ぐが、2000年から2011年までで、邦画ホラーが10億円を超えたのは、「リング0 バースデイ」他(2000年、16億円)、「着信アリ」(04年、15億円)、「着信アリ2」(05年、10億1千万円)の3本に過ぎない。
「クロユリ団地」は、2つの点からヒットの要因を探ることができる。「リング」などJホラーの旗手と言われた中田秀夫監督のホラー作品であったこと。主演の一人に、前田敦子が起用されたことである。いわば、ホラー・プロフェッショナルとアイドルのコラボレーションだった。
ジャパニーズ・ホラーの停滞が言われて久しい。その停滞とは、ある程度の公開規模を意図した興行形態の作品という限定句つきだが、それは表面的な怖がらせホラーの様々な手が、ほぼ出尽くしたことが大きかった。
次の手は、では何か。それが、中田=前田のコラボであったと、私は思う。あからさまな怖さを前面に出すというより、登場人物の心理面を、ギリギリと追い込んでいく。前田敦子扮する主人公の女性が陥った心理状態は、今思い出しても、彼女の切羽詰まった表情と相まって、かなりの怖さを伴う。
怖さとは、目に見えないものという言い方もできる。見えないから、逆に怖いのだ。前田の演技に、それが刻印されていた。中田監督は、前田の肉体を “駆使して”、ホラーの新天地に踏み出したのである。
ホラーとアイドルの結びつき。これは、実は日本映画の王道でもある。今回、若い男女の観客が多かったのは、その狙いが、見事にはまったことを示す。今、ホラーは、油断すると、すぐに茶番になってしまう。茶番とは、リアルではないということである。
「クロユリ団地」は、設定はどうであれ、リアルだった。だから、怖かった。企画は、秋元康氏である。何を企んでいるのか。映画監督までした男である。そろそろ、第2の角川春樹を目指すべきだろう。
(大高宏雄)