今年の音楽業界。何だかんだ言ってもAKB48で明け暮れたと言っても過言じゃない。
シングルで次々にミリオンを出すのだから「売れている」ということになる。今の時代、シングルでミリオンを出すのは至難の業である。そういった中でミリオンを出し続けるAKB48は手法などはどうであれ認めざるを得ない。が、その反面、ミリオンが軽く見えてしまうのもAKB48である。
見方、価値観、考え方は色々あると思うが、個人的には「ヘビーローテーション」以降と言うもの、どれも似たり寄ったり。今年は何が彼女たちの代表曲だったのか分からない。と言うより「ヒット曲」という概念がよく分からなくなってしまったのが正直なところである。
いずれにしても音楽というのは映画などとは違って一人一人の趣味趣向がハッキリしている。好き嫌いがハッキリしているし、個人の価値観の相違が大きく左右するだろう。しかし、そのような中で、いきものがかりの場合は、興味があるないは別として「嫌い」という人は少ないだろうと思う。…と言うより、彼らの音楽を聴いていて「不快」と思う人は少ないに違いない。
とにかく彼らの場合は背伸びをしない、等身大なところがいい。当然のことだが、水野良樹と山下穂尊の音楽性は優れている。その上で吉岡聖恵のボーカル力が大きな魅力になっていることは紛れもない事実だ。しかも、コンサートに行くとファン層は実に幅広い。小学生もいるし中高校生、OLも多い。それに何と言っても親子が目につく。これを「ファミリー的な人気」というのかもしれないが、極端に言ってしまったら、これも「NHK的な人気」と言うことにもなる。
その「NHK的な人気」のいきものがかりの今年の活躍で「理解に苦しんだ」のが、「風が吹いている」のセールス伸び悩みだった。不思議だった。
この曲は、言うまでもなくNHKのロンドン五輪番組のテーマ曲である。正直言って作品的にも悪いものではなく、普通に考えたら売れて当然だった。が…。現時点でのセールスは10万枚にも満たない。いくらシングルが売れないと言っても、これは理解の出来ない数字である。
何故か? やはり宣伝手法に問題があったのか?
で、考えられるのは発売前から流された動画サイトの「YouTube」だった。この「YouTube」を使っての宣伝展開は、元々はNHKの提案だったらしいが、結果的にはマイナスに働いたと言っていい。と言うのも連日連夜、オリンピック関連の番組の中で(テーマ曲として)流れ、さらにCDの発売前から「YouTube」でも自由に聴くことが出来たら、おそらく誰でも満足してしまうに違いない。
実は、こういったことは2年前の2010年にもあった。
宇多田ヒカルのベストアルバム「Utada Hikaru SINGLE COLLECTION Vol.2」である。当時、宇多田は、新曲「Goodbye Happiness」も含めそれまで作ってきたミュージック・ビデオ(MV)26作品を全て「YouTube」に一気にアップした。当然、無料公開だが、僕に言わせたら、この行為で結果的に宇多田のベスト・アルバムのセールスは30~40万枚以上は減ったように思っている。
今の「時代」、CDを買ってもらうのは大変なこと。AKB48やMr.Childrenなどのようにアルバムを出せばミリオン…なんていう「時代」ではなくなった。それこそシングルはグッズ代わりか、握手券目当ての商品に化してしまっている…。つまり、音楽だったら「YouTube」で観て聴いて満足してしまう…そんな「時代」になってしまった。
もちろん「YouTube」を使ったプロモーションはよくある手法だし、根拠や戦略のようなものがあってのことだろう。現に宇多田ヒカルは今でも「YouTube」に拘っている?が、果たして…と思う。CDセールスと「YouTube」との関係は、もちろんケースバイケースだろうし「悪い」と決めつけるわけではないが、だからと言って安易に利用するのは個人的には問題のような気もする。
いずれにしても「風が吹いている」も発売されて、既に5ヶ月。暮れの「紅白」で7分以上の曲を全て歌ったら、あるいは年が明けてからCDセールスが急にアップなんてことも、あるかもしれないが…。
(渡邉裕二)