今こそ文化交流を続けて行かなくてはならない!
香港貿易発展局と公益財団法人ユニジャパンは、TIFFCOM2012でセミナー「香港‐日本の地域間協力~香港を活用してのアジア展開へアプローチ~」と、レセプション「香港シネマ@TIFFCOM」を10月23日(火)、ホテル日航東京で開催した。
セミナーでは、アジア、特に香港のコンテンツ・エンタテインメント産業に関する最新情報を提供すると共に、コンテンツ特区に認定された北海道・札幌、そして香港フィルマートに出展経験のあるアジア展開に積極的な企業からスピーカーを招き、香港とのコンテンツビジネスの取り組みについて語られた。冒頭、香港貿易発展局日本首席代表の
古田茂美氏(写真左下)が開会の挨拶に登壇。
「2005年より毎年東京国際映画祭(TIFF)、TIFFCOMに参加してきて、毎回こういったシンポジウムやセミナーを開催することによって、香港の最新情報を日本のコンテンツ業界に伝達し、香港とのコラボレーションの機会を模索してもらうという試みを続けてきた。
香港のサービス、コンテンツといったものの製作、輸出に関しては前年比3.9%と依然として好調に推移している。日本と香港をつなぐコンテンツ業界における一番の活動の舞台は、毎年3月に香港で行われる「香港エンターテインメント・エキスポ」で、10月のTIFF、TIFFCOMに相当するもの。今年は日本から233人のバイヤーと40社の出展業者に出て頂いた。また、今年の香港フィルマートは、53ヵ国から出展業者が648社、そして来場バイヤー数が5762人という実績だったが、この後展開するパネリストの皆様は、今年3月の香港フィルマートに実際に行って参加をして下さった。どのように香港を活用することが出来たのか、その経験、実績について具体的に話してもらう。
今年出展してもらった40社と、香港貿易発展局とジェトロは商談を550本ほど作った。その結果、我々がトレースしたところ、本日までに125本ほどの成約が行われ、大体四分の一、25%が成約に至ったという実績。この数字が良いかどうかというのはわからないが、日本のコンテンツが香港を通じて、中国やアジア、世界へ販売されていくという展開に大きい期待を持っている」などと語った。
アジアの地域間共同制作~大作制作の手段とは?
続いて、経済産業省商務情報局長 メディア・コンテンツ課長の
伊吹英明氏(写真右)が来賓の挨拶を行い、基調講演では、昨年ヴェネチア国際映画祭にて主演女優賞受賞作品『桃さんのしあわせ』など、多くの作品の配給を手掛けて成功を収めている香港のディストリビューション・ワークショップCEOの
ジェフリー・チャン氏(写真下)が登壇。CEPA(経済貿易緊密化協定)を活用した香港‐中国本土の地域間協力について説明。
さらに、「アジアの地域間共同制作‐大作制作の手段?」と題し、中国で大ヒットした製作費28億円の大作『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』(中国で興収72億円)を例に挙げ、なぜ大作を作るのか、「中国の観客は大作を好むから」としつつ、西洋諸国の大作VSアジアの視点から解説。中国国内での外国映画への上映規制が今年5月に緩和され、さらに外国の大作が入ってくる中でいかに勝ち抜いていくのか、それともギブアップしてしまうのか、政府の保護や支援を活用し、また異なる戦いを挑むのかなど、現状と戦略を述べた。
一方、『桃さんのしあわせ』(製作費3・2億円)のような規模の作品でも中国圏だけで興収13億円をあげる成功を収め、大作とは異なる戦いもアジア地域間の共同制作には可能とした。
香港を利用してのアジア展開へのアプローチ
パネルディスカッション「香港を利用してのアジア展開へのアプローチ」では、キネマ旬報映画総合研究所の
掛尾良夫エグゼクティブ・ディレクターをモデレーターに、パネリストとして香港フィルマートに出展経験のあるさっぽろ産業振興財団の
福井知克専務理事、ピー・キューブの
池田由利子社長、オマガアクトの
西村真司プロデューサー、ビーンポッドの
野口秀昭取締役が登壇。それぞれの立場と経験から出展の経緯やメリットなどを語った。
まず、
掛尾氏が「釜山と東京はアジアの中でも極東にあり、香港は西側にあるということで中東やインド、バングラディッシュ、パキスタン、インドネシアといった国々が多く参加する。また、香港にはフィリピン人の居住者が多く、香港映画祭でもフィリピンの俳優が受賞するほど、アジアの中でも国際化が進んでいる。そういった中で香港に行くことによって出会える幅の広さは非常に大きいことは感じる。それから今、中国映画の市場に出ていくことでもCEPAが重要な役割を担っている。
それともう一つ最近感じたことは、香港と台湾、中国の都市部が非常に豊かになって来たという事と、文化的に成熟してきたということで、同じ映画が共通してヒットしていく傾向が感じられる。実は、台湾映画でギデンズ・コー監督の『あの頃、君を追いかけた』という映画があるが、これが台湾で昨年の興行収入で3位に、香港でも『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』に次いで3位になって、中国大陸でもヒットした。つまりある種台湾の青春映画が香港でも大陸でも受け入れられるという共通の文化というものが生まれてきているところが、新しい傾向と感じた。
そういった中で、先進国の日本や韓国がどうやって映画に取り組んでいくのかというのが、これからの大きな課題ではないかなと思っている。そういうことで香港フィルマートに参加してきた方々の話を聞いていきたいと思う」と述べ、登壇者に話を聞いた。
日本がアジアの中でおいて行かれる危機感
西村氏は「香港フィルマートにはアジアを取り巻く多くの国が参加してくる。香港で契約できるとアジアへ出ていくことができるし、多くの知り合いと再会できるのがポイント」とメリットを語り、
野口氏は「これといった“武器”もなくゼロから初参加してやっていった。そこからもっとダイナミックな営業展開が出来ないかと『クレイジーOLアワー』という5分のショートアニメを制作。はじめ勝算は低かったが、台湾の会社と映画を作ることにつながり、やっと登る山が見えてきた」と述べた。
池田氏は「制作会社として日本のTV番組を作って来たが、3年ほど前から海外へ向けて何かできないかと香港フィルマートを視察し、いろんなコンテンツが持ち寄られ、アジアの賑やかさを感じ、我々も頑張らないと日本はおいて行かれるという危機感を感じた」とし、
福井氏は「今年3月で6回目の参加となったが、まずは北海道・札幌の企業をバックアップすることが狙いだった」と参加の理由を語った。
掛尾氏が「映画で言えば、これまである程度国内でマーケットが成立してきたことから、なかなか大手映画会社は積極的に外へ出て行かなかったところがあるが、これからの日本はもっと海外に出て行かないといけないのではないか?」と投げかけると、
西村氏は「国内マーケットは大手に占められていて、我々のようなインディペンデントにはほとんど入り込む枠がない。そこで、どうすれば世界へ進出していけるのかと考えていた時、香港では商談相手を紹介してくれ、売るだけでなく買うこともはじめて関係性が広がった」と明かした。
池田氏も「走りながら考えている。作っていかないと何も始まらない。2、3年してくると作品がたまってきて、地道にやっていた分、フィルマートで声を掛けてもらえるようになった」とし、
福井氏は「札幌のフィルムコミッションは10年以上前に立ち上げられたが、年間に500件近くロケーションが行われるようになり、映像関連業者が札幌には集積している。“創造都市さっぽろ”を打ち出し、インキュベートもやっている」と成果を語った。
ただ、「何を売るのか、どこまで権利を許すのか、売り先のニーズにどう合わせているのか?」と、
掛尾氏が苦労話や失敗談を求めると、
池田氏は「取引相手に合わせた翻訳には苦労している」、
西村氏は「やはり怖いのはコピー問題。それから支払いが怖い。為替があるので、これからはドルで直接売買したいと思っていて、香港に支社を出したい」とし、
野口氏は「企画を取られないようにしているが、そこを怖がっていては超えられない壁もある」と、成果を得るには海外との取引の難しさも理解し、覚悟しなければならないと述べた。
アジア、海外マーケットに積極的に切り込んでいく日本のインディペンデント会社の現状をどう捉え、日本のコンテンツ市場を海外でいかに開拓していくのか。数年後には、これらの会社のコンテンツがアジア、海外で市場を獲得していることが期待される。
日本と香港の映画業界の関係を緊密化する
なお、その後行われたレセプションでは、香港貿易発展局・香港映画発展局の
ジャック・ソー会長が開会の挨拶を行い、「今こそこのように日中間において若干の紛争が起きている時期だからこそ、我々との間で文化交流、人と人との交流を続けて行かなくてはならない。もちろん我々財界関係者は早期にこの紛争が解決することを切に願っている。もう一つ私の来日の目的は、日本と香港の映画業界の関係を緊密化するということ。既に投資を通して緊密化し、共同製作でも投資が活発化している。中国本土における映画界に対する投資もかなり増額しているが、さらに協力を強化していく余地はまだ沢山の分野で残っていると感じている。
特に巨大中国本土市場に対して、香港を介して投資を行っていくということ。過去10年間で中国本土国内の興行成績は、年率20%で成長してきた。中国市場へ向けて、香港で制作された映画であれば、まったく制約なくして、数量割り当てを気にせず、対象外として中国本土市場に映画を供給できる。香港政府が中国本土と交渉した結果、CEPA(経済貿易緊密化協定)の協定が発効された。
もう一つ朗報をお伝えすると、広東省向けには別ルートで香港制作の映画を供給することが出来ることになった。広東省は人口1億人の市場で、中国本土のルートとは別のルートで、検閲も別で、香港と同時公開できることになっている。是非ともこれを利用して、日本のコンテンツ事業者、映画製作会社の皆様は香港で映画、アニメなどを中国本土向けに共同制作していきましょう。こういった合弁事業や協力について論ずる最適な場が、毎年3月に開催している香港エンターテインメント・エキスポで、来年3月にも予定されている。是非来年もいらして協力の進化について、合弁事業の立ち上げについて、そして中国本土市場に対する投資と参入について議論しましょう」などと呼びかけた。
左からジェフリー・チャン氏、ジャック・ソー氏、依田氏、一人おいて松谷氏
続いて、映像産業振興機構の
松谷孝征理事長が祝辞を述べ、東京国際映画祭の
依田巽チェアマンが「香港の映画業界の方が、日本に対しての協力をいかに長く続けて来られたか、松竹の迫本(淳一)社長も仰っていた。1985年の東京国際映画祭の第一回からずっと力強いサポートを頂いてきた。特にこの過去5年はジャック・ソーさんはじめ多くの香港の友人がサポートしてくれていることに感謝の意を表したい」と述べ、乾杯の音頭をとった。(了)