『るろうに剣心』『のぼうの城』と時代劇を続けて制作
映画興行の多極化に貢献、今後の製作の一つの要素に
興収30億円目前の大ヒットを記録した“超神速ドラマチックアクションエンターテインメント”『るろうに剣心』(ワーナー・ブラザース映画配給)と、11月2日(金)から公開される注目のスペクタクル・エンタテインメント超大作『のぼうの城』(東宝+アスミック・エース配給)の製作出資と制作を手掛けたC&Iエンタテインメント。
2本の〝時代劇〟を手掛けた同社代表取締役社長である久保田修プロデューサーに、『るろうに剣心』の大ヒットの要因や制作秘話、完成までに8年を要し、公開が1年延期された『のぼうの城』への想いなどについて聞いた―。
“知名度あるものを現代の切り口で再生する”
―『るろうに剣心』が大ヒットした要因をどのように分析されていますか。
久保田(写真右) まず、原作がモンスターコミックであったことですね。今ベストセラー漫画って争奪戦なわけです。当社みたいなインディペンデントの会社が、ベストセラー原作を獲得するというのは事実上不可能になっています。
『剣心』はビックコンテンツなんですが、10年前に連載が終わっていたという意味で、そういったものを「リプロデュース」したわけです。アメリカは『スパイダーマン』や『バットマン』などを、その都度新しく作り直していますよね。そういう感覚に今回は近かったのではないでしょうか。過去のコンテンツですが、圧倒的な知名度があるものを現代の切り口でどう再生させるかみたいなことは、ひとつ今後の映画製作の要素の一つとしてはあるのではないかという気はしました。ただ単に、連載中の人気漫画をやればいいというのはやり尽くされてしまったという側面もあると思いますし、特に21世紀に入ってからの大ベストセラーは本当に限られますよね。原作がないと映画は作れないという特殊事情も日本の場合はありますが。
ヒットの要因としてもう一つ間違いなくあるのは、佐藤健と大友啓史というこの2人の掛け算が強かったのではないでしょうか。まさに今日的なもの、いま観る必然性のあるものになり得たというところが、重要だったのではないかと思います。
―企画がスタートしたのはいつ頃で、TV局を入れない座組みはどのように決まったのでしょう。
久保田 2008年の夏には集英社さんに問い合わせを始めて動き出しています。当初からこの企画はワーナー・ブラザースさんで動いていたもので、洋画メジャーさんと組んだのは僕としても初めてです。今回のヒットは、映画興行の多極化という意味では良かったのではないでしょうか。TV局が入らず、いわゆる大手邦画配給会社のものではなかったこと。ハリウッドメジャーが幹事のローカルプロダクション作品として初めての成功作といってもいいと思います。映画『デスノート』(06年)は日本テレビさんが幹事でしたから。
ただ、やってみてよくわかったのは、フジテレビさんとお仕事したことないのでわからないですが、いわゆる民放キー局の映画を作る映画部や、東宝さんに代表されるような大手邦画配給会社が持っている〝方法論〟の安定さを逆に痛感しました。なぜ、TV局映画や東宝配給作品が当たり続けるのか、コンテンツの強さを前提としてはいますけど、やはりきちんとシステムとして、プラス認知ということ含めて宣伝などに関しての方法論というのは、非常にこの10年くらいに蓄積され、確立されているんだと、逆にワーナーさんとやることによって痛感する部分はありました。
―ワーナーの製作手法、配給・宣伝展開なりのやり方が、今までにない感じだったということですか。
久保田 完成披露試写会のレッドカーペットのやり方だったり、夏休みの初期の段階で60秒CMを3タイプ打つとかというような、ある種ダイナミックなやり方みたいなところで、ワーナーさんらしさを感じました。今まで洋画メジャーさんとお付き合いがなかったので、傍から見ている分に感じる洋画配給会社さんらしさ、みたいなものは感じられました。
―洋画の興行が厳しい中で、洋画メジャーのやり方で製作、配給・宣伝した邦画がヒットしたことについてはどのように思いますか。
久保田 今回の場合で言うと、まずはコンテンツの強さありきだと思います。正直、それプラスP&Aも潤沢だったので、十二分な宣伝をやれたということではないでしょうか。ワーナーさんは、CMをいっぱい打つので線引きが強いですよね、いいところに引けます。それがやはり洋画メジャーの強さで、多分同じ出稿金額でも、GRP(出稿量と視聴率を基にしたテレビCMの定量指標)対比が良かったんじゃないかなという気はします。
これまでの日本映画の撮り方とは全く違うスタイル
―一方で、撮影現場は大変だったと聞いていますが。
久保田 とにかく大友啓史という監督がとてもパワフルで、エネルギッシュな方。いわゆるこれまでの日本映画の撮り方とは全く違うスタイルなので驚きました。ワンシーンをぶっ通しで撮ってしまうんです。それをマルチで3台くらいで撮影し、それでOKが出ると今度はカメラポジションをひっくり返して、また同じシーンを頭から最後まで途切れることなく撮り、その中で一番俳優さんがヴィヴィットな部分を選び出していくやり方なのです。ですから俳優さんは、常にどこを撮られているかわからないという緊張感があるし、逆にいい芝居さえすればそこを使ってもらえるということにもなるので、俳優の最大限の能力を引き出す形だったのではないでしょうか。事前にカット割りをしているわけではないので、俳優さんのライブな部分を抽出する感じだと思います。ワンシーンの強さは圧倒的にありました。
―他のキャスティングもハマっていたように思います。
久保田 武井(咲)さんは想像以上に良かったですし、この若い二人以外にベテラン、実力派系が固めるということでググッと作品の格が上がって、それぞれの役割にみんな応えてくれている感じです。みんな見事にその役割を全うしてくれているのは素晴らしいですね。大友さんが俳優のポテンシャルを最大限引き出す術を持っている方なので、他の映画と比べて見たことのない俳優さんたちの側面が見られるところが大友映画の魅力の一つではないでしょうか。ある種ハイテンションの俳優さんたちが見られるので、僕はギャグで“高カロリー映画”と呼んでいます。大友さん自身が高カロリーの塊みたいな方で、凄いテンションなんです(笑)。
―プロデューサーとしては、どの辺を一番打ち出したかったのでしょう。
久保田 冷静に考えると主人公の剣心は可哀想な奴なんですね。青春時代の一番いい時期に殺し家業をやっていたので、通常のその時代の青年のような喜びを知らなかった人。意外と好きなのは、何気ないシーンなんですけど、明治の賑やかな祭りの中を剣心が物珍しそうに歩いている姿。一番多感な時期に心を封印してきた男が、明治という平和の時代になって、彼の捉える平和な時代というのは、通常の人々が捉える平和とは決定的に違うわけです。だからこそ彼は「不殺(ころさず)」の誓いを守るんです。その辺の幕末時代から明治になっての剣心の心の落差、そこを佐藤さんが見事に演じてくれています。幕末時代の剣心がまとっている暗いオーラが、明治以降になると闘っていない時は陽のほんわかしたオーラに切り替わる、そのあたりがこの映画の、アクションを除けば見所ではないでしょうか。誰もが前の時代の尻尾を引きずっていて、そこに剣心が関わり合っていくのですが、一番尻尾を引きずっていしまっている剣心が彼らと関わっていくところが、原作の強みでもあり、そこが面白いところではないでしょうか。新しい時代とどう向き合うかみたいなところが根っこにあります。
それとお客さんにとって一番は、映画のスタイルとして新しかったことだと思います。若い人たちになんでこんなに受けたかというと、「スピード」ですよ。西部劇からマカロニ・ウエスタンが生まれたみたいに、ある種時代劇でも別ジャンルですよね。本作では、まずスピードとアクションで見せていくということは新しかった。新しいジャンルが誕生したニュアンス、その新しさに若い人たちは敏感に反応したんだと思います。また、予告編も凄く強く、それは大友監督とアメリカ帰りの撮影監督の石坂(拓郎)さんの力だと思います。新しいルック、スピード感、アクションというまずはそこに特化して、先ほど言った根っこの部分も感じてもらえればということです。映画というのは、本当のテーマは裏にあるので。こんな日本映画観たことないと感じてもらえたのではないでしょうか。
(つづく)
(C)2012「るろうに剣心」製作委員会
『るろうに剣心』
製作:『るろうに剣心』製作委員会
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:ワーナー・ブラザース映画
原作:和月伸宏「るろうに剣心‐明治剣客浪漫譚‐」(集英社ジャンプコミックス刊)
主題歌:ONE OK ROCK “The Beginning”(A-Sketch)
監督:大友啓史 脚本:藤井清美、大友啓史 音楽:佐藤直紀
キャスト:佐藤健 武井咲 吉川晃司 蒼井優
青木崇高 綾野剛 須藤元気 田中偉登 奥田瑛二 江口洋介 香川照之
8月25日(土)より大ヒット上映中。