現在開催中の第56回ロンドン映画祭に『ヘルタースケルター』(アスミック・エース配給)を正式出品した蜷川実花監督が、10月12日(金)の公式上映に合わせて渡英、舞台挨拶と来場者とのQ&Aを行った。
さらに、同映画祭に同じく最新作『夢売るふたり』(同)を正式出品し、渡英した西川美和監督と初対面も実現。女性監督で、名前も実花と美和、イニシャルもMNと共通点の多い二人だが、会うのはロンドンの地が初めて。スケジュールの都合上、長い時間を共にすることは叶わなかったものの、日本を代表して参加した映画祭で、お互いの健闘を讃え合った。
蜷川監督は同映画祭に初参加ながら、『ヘルター~』上映のチケットは即完売という人気の高さが話題に。舞台挨拶では大きな拍手と歓声で盛り上がった。西川監督も同映画祭に初参加。『夢売る~』もチケットが即完売し、上映に先立ち行われた舞台挨拶では、かつて是枝裕和監督の下で助監督をしていた頃に観光でロンドンにいた際、是枝監督の『誰も知らない』(04年)が同映画祭で上映され、師匠の作品が映画祭で上映されるのを指をくわえて見ていたというエピソードを告白。今回、自身の監督作が同映画祭で上映された事に喜びを爆発させた。
【蜷川実花監督『へルタースケルター』舞台挨拶/Q&Aレポート】
この日の上映は金曜日の午後という時間帯だったが、チケットはすぐに完売という人気の高さが話題になっていた『ヘルタースケルター』。紫のシルク・ドレスで壇上に立った蜷川監督に大きな拍手と歓声があがった。
司会者が「ニーナに質問してみましょう」と言った途端、場内からは穏やかな笑い声顔が起こった。「ごめんなさい。ミカだったわ」と司会者はすぐに訂正。ニーナとは監督の実父である蜷川幸雄氏の英国でのニックネームだったからだ。はにかみながら笑顔を浮かべる監督に再び場内が盛り上がった。主役のりりこを演じた沢尻エリカが日本ではスキャンダラスな女優としてマスコミで取り上げられていたことは英国でも知れ渡っている。それほど手強い女優から出演をオーケーするまでに至った経緯は観客も含め、多くの人達にとって興味津々の話題だったようだ。
「ご本人もこの役への想い入れがあったので、説得したというより『絶対大胆にやった方がかっこいいから、信じてください』と正直に言いました。出演が決まった時から彼女には覚悟ができていて、ともに戦士として戦った感じです」
【西川美和監督『夢売るふたり』舞台挨拶/Q&Aレポート】
カンヌ映画祭の監督週間に出品された『ゆれる』が国際的に高い評価を受けて以来、映画ファン達から熱い視線を向けられ続けている西川監督。あっという間に完売となったチケットをなんとか入手しようとチケット売り場で待ち続ける人達の姿も見かけるほどの注目度。
この日にロンドン入りしたばかりの監督は観客に混じって、作品をじっくり鑑賞。「ロンドン映画祭に参加するのは初めて」と普段なクールな監督もこの日は嬉しそうだった。
「夫婦の物語がスタート地点。夫婦とは究極の相棒。結婚生活には楽あれば苦あり。小舟に乗って波を超えていく。漕き出していく方向が、間違えば犯罪の方向へ。二人の本質が明確に見えてくるはず」。この映画には普通の映画には登場しないような女性達が描かれていて、英国人女性達は共感したようだ。
「日本でも女性の生き方の選択肢が広がっている。夫を支えながら生きている古風な女性もいれば、男性の分野だった仕事にも女性が進出している。世界中で急速に選択肢が広がり、生き方が多様化しているので社会の受け皿が整っていない。自分も含め、30 ~40代の女性達は手にいれた自由をどうしていいかわからないで当惑している。そこを今回スクリーンにしっかりと焼き付けてみたかった」。
西川監督の熱烈なファンと思われる中年男性から冒頭の火事のシーンでなぜロンチックなギター音楽を流したのかという質問対し、「ミスマッチな音楽はかつて見た悪夢のようにしたかったから。逃げたいのに足が重たくて動かないという悪夢の中の身体感覚を出したかったから」と見事な答えが返ってきて、観客をうならせた。西川美和ファンは英国ではなぜか中年の男性が多い。(了)