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シアターN渋谷クロージング『トールマン』パスカル・ロジェ監督

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シアターN渋谷クロージング『トールマン』パスカル・ロジェ監督

2012年10月29日

パスカル・ロジェ監督(メイン).jpg


 新感覚の残酷ホラー映画『マーターズ』(07年)で注目を浴びたパスカル・ロジェ監督の新作『トールマン』が、ジェシカ・ビールを主演に迎え、いよいよ11月3日(土・祝)に公開される。先日、惜しまれつつ閉館が発表されたシアターN渋谷のクロージング作品として上映される本作は、エッジの効いた話題作を上映し続けてきた同館の最後を飾るに相応しい衝撃の内容。本作が生まれた経緯について、ロジェ監督(=写真)に聞いた―。

(ストーリー)
 舞台はさびれた炭鉱町「コールドロック」。この町から幼い子供たちが次々と姿を消す事件が起きる。人々は正体不明の子取り鬼を“トールマン”と名付け、怯えて暮らす日々を過ごしていた。そして、町で診療所を開く看護師ジュリアの息子も何者かに連れ去られる・・・




幼児失踪事件を題材に

場面写真1.jpg
――「アメリカでは毎年80万人の子供が失踪し、ほとんどは数日中に発見されるが、1000人は跡形もなく姿を消す―」。今回の映画でこの事実を題材にした理由は何でしょうか?

ロジェ 世界のどの国にもある迷子探しのポスターを見るたびに、疑問が沸いていたのです。「この子たちはいったいどうなっちゃったんだろう?」って。それで、このテーマで映画を作りたいなと思い、ニューヨークで実際に幼児の失踪事件を担当しているFBI捜査官と会うことができました。その人に教えてもらった実際の数字が「アメリカでは毎年80万人の幼児が姿を消す」というもので、遺体が見つかったり手掛かりがあったり、だいたいは見つかるのですが、そのうち1000人は何の手掛かりもなく消えてしまったように見つからないんだそうです。これは映画のテーマとしては最適だと考えました。
 そしてシナリオを書き進める中で、どんな結末にするのかは様々な選択肢がありました。例えば、「黒魔術の儀式の生贄」だったり、「小児性愛好者に誘拐された」というパターンもありました。しかし、消えてしまった1000人の子供たちは基本的に貧困層の子供たちが多いそうです。そのことを踏まえて、社会的でリアリティーのある答えを提示しなければならないと思い、あの結末を考えつきました。

――本当にこんな事件(結末)が起こりうるのでしょうか。

ロジェ 最初にFBI捜査官に会った時はシナリオもできておらず、結末も何も知らせていませんでした。その後、映画を完成させてから彼に観てもらって感想を聞いたところ、「実際には考えにくい話だが、とても信憑性があるので、困惑している」という返事をもらいました。さらに、「この映画のせいで、ニューヨークの街中で家族を見ると、この人たちは本当の親子なのか?と疑ってしまうようになった」と話していました(笑)。

――『マーターズ』はホラー色が強かったですが、今回は監督の言う通り社会的でサスペンス色の強い作品でしたね。監督のイメージがガラっと変わりました。

ロジェ 自分にとってホラー、サスペンスといった区別はなく、根本のところで痛みや苦しみについて語っているのは『マーターズ』も『トールマン』も同じです。ただ、『マーターズ』が非常に過激な映画だったので、こういう映画しかこの先も作らない監督だと思われるリスクはありました。そこで、同じことを語るにも違う手法を使ったという面はあります。

――『マーターズ』も『トールマン』、作品の中盤から驚くような展開が用意されていますが、そこはこだわっているのですか。

ロジェ これから作る映画全てに同じ手法を使うかどうかはわかりません。ただ、自分は一映画ファンとして、この頃の映画は話が最初からわかってしまうものが多いように感じています。ハリウッド映画は特にそうで、定型パターンがあるようにも思います。僕は、違う形で観客の皆さんを驚かせたいし、何か新鮮なものを届けたいと思っているので、この2作品はそういった形になりました。前半部分は予告編で流れている表面的なストーリーで、後半は隠されていた本質的な部分が出てきます。1本の中に2つの映画が詰まっているようなもので、楽しく撮影していますよ。そんな内容なので、予告編の印象と全然違う映画になることを否定する人もいれば、そのユニークさゆえに本当に好きになってくれるお客さんもいます。

――恐怖の描写について、お化けやゾンビじゃなく、2作品とも人間の激しい思いこみが生み出す狂気を恐ろしく描いていますが、これにはどんな考えがありますか。

ロジェ 僕は、自分の映画は本質的には怖くないと思います。『マーターズ』も決して人を怖がらせたりするつもりで作ったわけではありません。ただ、観客が非常に居心地の悪さを感じる映画ではあると思います。いつかは恐怖映画を作るかもしれませんが、今は頭の中で考えて出てきたもの、必ず自分の内面の状態が表現される映画を作るようにしています。


ジェシカ・ビールは過小評価されている

場面写真2.jpg――ジェシカ・ビールを主演に起用した理由は何ですか。

ロジェ 元々、彼女が『テキサス・チェーンソー』に出演しているのを見た時からすごく惹かれていて、いつか彼女で映画を撮りたいと思っていました。あの映画で彼女がやっていた役柄はほとんどセリフもなく、ドアを開けたり閉めたり、走ったり、逃げたり、泣いたり、動作演技が多かったのですが、それが素晴らしかったのです。僕は、俳優さんにとって、ちゃんとした設定のキャラクターで、ただ素敵なセリフを読み上げるよりも、一連の動作の中で演技をする方がずっと難しいと思っています。にも関わらず、彼女はハリウッドでは過小評価されています。アクション映画の強い女性だったり、男性の主人公のガールフレンドだったり、複雑さに欠ける役柄が多いと思っていました。(難しい演技が要求される)『トールマン』ではぜひ彼女に出演してもらいたいと思い、このシナリオを送ったみたところ、二つ返事でOKしてくれた上に、「こんな複雑な役柄を私に与えてくれてありがとう」と言ってくれました。

――『マーターズ』『トールマン』も女性が主人公ですね。

ロジェ 僕は男性なので、女性は僕にはわからない何かを持っている、神秘的な存在です。その神秘的な存在と何週間も一緒に仕事をして、少しでもその神秘を解明いていきたい気持ちもありますし、まあ単に女性の顔を撮っている方が絵として綺麗ですしね(笑)。

――本作は現代が舞台ですが、夜の森や町の雰囲気が、70年代のホラー映画のような印象を持ちました。何か意識されたのですか。

ロジェ この映画の舞台は現代の貧困な村という設定ですが、単にみすぼらしいだけの村には陥りたくなかったのです。そこで、「昔々あるところに」と同じように、「実は現代にこんな町がありました」というナレーションを入れ、森や照明、装飾にも、物語的な雰囲気を出せるように工夫しました。でも、あまり空想的でも困るし、あまり現実的過ぎても困るという、すごく細い橋を渡りながらどちらにも転ばない形の現実性を持たせる作業をしていました。
 70年代を彷彿させたということに関しては、その時代は僕が初めて映画に目覚めた時期で、自分にとって映画の黄金期であったと思っています。その頃の映画は、今のような定型パターンで作られた映画ではなく、実験的に作られた作品が多くてアバンギャルドだったと思います。それらの映画に影響を受けて育ったので、観る人に70年代の映画を思わせたのかもしれません。今のハリウッド映画はその頃の良かった要素を全て失ってしまいました。

――主人公のジュリア(ジェシカ・ビール)とジョンソン夫人が面会で話すクライマックスは非常に印象的でした。カメラが少しずつジュリアに寄っていき、その間一度もジェシカ・ビールはまばたきしていません。どんな打ち合わせをして撮影に臨んだのですか。

パスカル・ロジェ監督2.jpgロジェ そのことに気づいてもらえてとても嬉しいです。あれは、まばたきをしないように指示していました。
 そのシーンに至るまで、観客は1時間20分ずっとジュリアを追って見てきて、最初に何となく「こういう人物だろう」と思っていたわけです。しかし、中盤から全然違う方向性に行ってしまって、クライマックスのあたりでは何が何だかわからなくなっていると思います。しかし、ここで初めてジュリアのものの見方、世界観の告白があります。最初はジョンソン夫人と話していますが、途中からジョンソン夫人が見えなくなり、どんどんカメラはジュリアに寄っていく。それをすることにより、僕らは彼女の頭の中に入っていき、彼女の考えを覗くのです。それを僕は観客に対して、「君は彼女の持つこの世界観をどう思う?」と投げかけているわけです。


シアターN渋谷のような映画館は財産

――この映画は、ホラーの聖地とも呼ばれる映画館「シアターN渋谷」で上映されるわけですが、今年12月で閉館されることが決まり、そのクロージング作品として上映されます。

ロジェ シアターN渋谷が閉館することを寂しく思っています。そういう、あるジャンルに突出した映画館は貴重な財産で、シネコンにはない魅力があります。そういう映画館が1つでもなくなってしまうのは悲しいことです。ただ、閉館が決まってしまったものは仕方がありません。クロージング映画に選ばれたことはとても光栄ですし、誇りに思っています。今経営されている方が他の場所で同じような映画館を建ててくれることを期待しています。東京にはこういう映画館が絶対必要ですよ。 了



画像:(C)2012 Cold Rock Productions Inc., Cold Rock Productions BC Inc., Forecast Pictures S.A.S., Radar Films S.A.S.U., Societe Nouvelle de Distribution, M6 All rights reserved



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