【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.97】
「最強~」から「ロック・オブ・エイジズ」へ
2012年09月25日
9月22、23日の興行ランキングは、新作で大きな動きがなく、全体の盛り上がりも、いささか欠けたものだった。なかで、注目は「最強のふたり」だった。「あなたへ」や2週目の「鍵泥棒のメソッド」を上回り、9位から6位にランクを上げたのである。これは、驚きだった。
「最強のふたり」は9月23日までで、全国動員46万5910人・興収5億7091万420円を記録した。スタート時の館数は49スクリーン。現在は、77スクリーンまで増えているが、この館数からしたら、大変な数字である。圧倒的な口コミ効果のおかげであろう。10月6日からは、岡山、広島、鹿児島などで上映が開始される。最終では、150スクリーンを超える館数になるという。
興行分野のみならず、この大ヒットは、今年の十大ニュースの一つになるとも言っていいのではないか。私は、このコラムのVol.94で、「こうした作品を探し回る必要性」を指摘した。邦題のセンスの良さも含めて、洋画の低迷をとくとくと言う前に、買い付け、宣伝でやるべきことをやれば、成果はついてくることを知らしめた意味は、とてつもなく大きいと思う。
同じ配給会社では、「スラムドッグ$ミリオネア」が12億円の興収を記録しているが、「最強のふたり」は10億円を超えて、そこまで数字を伸ばす可能性もあるという。東京国際映画祭ではグランプリを取ったものの、海外の主要な映画祭での受賞がなく、しかもフランス映画である点に、本作の興行における特異な点があると思う。関係者がこの特異さを認識しえず、次につなげる貪欲さを保持しえないなら、映画界から撤退したほうがいい。
さて、新作ではトム・クルーズ出演の「ロック・オブ・エイジズ」である。9月21~23日の3日間では、2万2073人・2865万1200円のスタート成績であった。トム・クルーズは主演ではないが、重要な役で出演している。素晴らしい出来栄えのロック・ミュージカルであるが、厳しい成績になってしまった。
スクリーン数は、98である。世界的に興行がよくなかったことから、日本市場でも勝負を避けたのだろう。確かに、難しいのはわかる。簡単な作品ではない。ただ、どうだろう。興行的に、ポテンシャルが全くない作品なのだろうか。
カメオ出演なら別だが、相応の役柄で登場しているトム・クルーズを、生かす手立てはなかったかと思う。自社で手いっぱいなら、配給を日本の他の会社に任せてもよかったかもしれない。「最強のふたり」のような劇場展開を考える手もあった。作品のクオリティを生かす手立ては、いったい何なのか。とにかく、それを思い知らされた「ロック・オブ・エイジズ」の興行であった。
(大高宏雄)