『ヘルタースケルター』が遂に興収20億円突破!
過去最大規模展開でシネクイントと相乗効果発揮
パルコが製作出資した映画『ヘルタースケルター』(アスミック・エース配給)が、遂に興収20億円を突破した。製作委員会に地上波TV局が絡まない作品としても異例の大ヒットに。主演の沢尻エリカのスキャンダラスな話題はもちろんのこと、パルコの展開も過去最大規模のものとなり、渋谷をはじめ全国のパルコ店舗と自社が運営するミニシアター、シネクイントとの相乗効果が最大限に発揮された。
その展開や今後のラインナップ等について、同社エンタテインメント事業部コンテンツ事業担当映像チームの坪屋有紀(写真中央)、松澤由樹(同左)、シネクイント支配人の川嶋常雄(同右)の3氏に話を聞いた―。
―製作出資することになった経緯を教えて下さい。
坪屋 蜷川実花監督の前作『さくらん』(2007年)も組んでいたこともあり、昨年の早い時期に企画の段階でアスミック・エース エンタテインメントの宇田(充)プロデューサーから話があった。女性のための攻めている企画であり、またファッションやカルチャーなど様々な切り口で、パルコでがっちり取り組みたいと思った。そこから撮影まで時間があったので、各部署を巻き込んでパルコとして大きな展開を仕掛けた。
主軸となった「パルコグランバザール」は、今まで『デトロイト・メタル・シティ』(08年)や『モテキ』(11年)などでもタイアップさせてもらったが、今回は劇中の設定でパルコのCMを使い、現実にも公開タイミングで「グランバザール」のCMが流れるという、今までにない面白い展開となった。社内で今年夏のCMを去年秋に決断してもらったのも大きかった。映画・パルコ共に盛り上げられたと思う。
(C)2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会
―パルコ最大規模の展開になったということですが。
坪屋 写真展や各店のSHOP、パルコ出版から蜷川さん写真集、商品はパルコ開発部が担当した。撮影時もパルコ劇場・リブロ等パルコ各所で協力。また、初の試みでシネクイントとシネマライズの2館同時公開を実施し、渋谷地区2館で2週約3000万円をあげた。渋谷のマーケットはまだポテンシャルがあると証明できたと思う。普段映画館に来ないような学生~20・30代の女性が大挙押し掛けてくれた。渋谷で映画を観終わった後に外に出ると、パルコの壁面に劇中にも出てきた(主人公)りりこの広告看板があるなど、虚構と現実が地続きになっているような、作品世界にそのままいるような効果があったと思う。
女性向けイベントムービーとして、グループ来場も多く、企画次第で、普段映画館に来ない層を開拓できるチャンスがあることがわかった。もちろん、作品の企画力が一番だと思うが、沢尻エリカさんのマスのパワーに加え、岡崎京子(原作者)さんの作品の初映画化という部分でパルコのテナントさんが有無を言わさず協力してくれた方が多く、カルチャー的にも強かったと思う。
―シネクイントの劇場としてはどのような展開をしたのですか。
川嶋 4月28日から上映した『テルマエ・ロマエ』において、固定客ではない流動層の一般のお客様に『ヘルター~』の予告の見せ込みがかなり出来た。また、早い段階からパルコ内のショップのいたるところでビジュアルの見せこみをし、ショップの方々にも興味を持って頂き、そこからの口コミの力も大きかった。パルコを利用されるお客様と同じく、結果的に7~8割が女性客となった。
渋谷のパルコとの連動の他にも、劇場単独で装飾類を予算としてみてもらえた。これまで劇場単独の宣伝費というのはなかなかない中で、今回はやりたいことへの自由度が非常に高かった。『テルマエ~』で初めてシネクイントに来ていただいたお客様を離さなかったというのも大きく、女性のお客様を動員できることは強みだと改めて実感。女性のお客様は劇場の雰囲気であったり、場所で選ばれる方も多いので、女性のお客様の動員力は『ヘルター~』で結果が出せたと思う。
坪屋 映画を観終わった後に外に出ると、パルコの壁面に劇中にも出てきた(主人公)りりこの広告看板があったりと、虚構と現実が地続きになっているような、作品世界にいるような効果があったと思う。今までもそうだが、上映する映画に関連したイベント・催事などがやれるのがパルコの売りの一つになっているので、今後も続けていきたい。
(C)2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会
多種多様な映像作品に価値を見出す
―今後のラインナップはどのようになっているのですか。
坪屋 近年は邦画への出資が多かったが、洋画の権利作品も増えてきて、バランスのいいラインナップになっている。また、お正月映画のFOXさん配給『RUBY SPARKS』は、『リトル・ミス・サンシャイン』監督の最新作で、お洒落でキャッチーなラブストーリー。シネクイントのみで公開する。
松澤 私は主に海外作品の買付けを行っており、良質で、日本市場にヴァリューを見込める作品を探し、国内において見合ったパートナー会社と構造を組み立てる業務に取り組んでいる。 今後の主なラインアップとしては、来年の2月下旬に公開されるホラー大作、『THE CABIN IN THE WOODS(原題)』(クロックワークス配給)は北米では既に公開済みの話題作で、9月のしたまちコメディ映画祭では『映画秘宝まつり』の枠で上映する事が決まっている。この枠は2010年の『キック・アス』、昨年の『宇宙人ポール』と大ヒット作が続いており、映画ファンからは既に注目度の高い作品。また、テレビシリーズで北米では大人気を誇るストップ・アニメーションのコメディー・シリーズ、『ROBOT CHICKEN』が『スター・ウォーズ』のみをネタとした特番3作品、『スター・ウォーズ ロボットチキン』をハピネットと共同で、12月にブルーレイ/D VDでリリース。本作は、ジョージ・ルーカスが自ら出演し公認しており、特にスター・ウォーズの ファン層からは長い間国内リリースが熱望されていた。
その他には来年シネクイントで公開される『THE DINOSAUR PROJECT(原題)』(シンカ配給)はイギリスのSFXチームが駆使した恐竜を題材にしたパニック作で、ビデオグラムもポテンシャルが高い作品にも挑戦し、また来年には『CELESTE & JESSE FOREVER』(クロックワークス配給)という甘酸っぱいラブ・ロマンス作も扱う。一つの枠には捕らわれず、多種多様な映像作品に価値を見出だし、広い範囲で取り組めればと考えている。
―買い付けにおいては、以前に比べると金額が手頃になって来たということもありますか。
松澤 買付け金額は確かに数年前に比較して下がってはいますが、映像市場そのものが 過去に比較して落ち込んでおりますので、決して手頃ではありません。よって色々な作品を見合った金額を見出だして取り組む事を最優先に心がけております。買付けにおいてはシネクイント又はパルコのブランドカラーのものに合わせる必要も無く、ラブストーリーからホラーまで、広い範囲において作品選びを行い、それをビジネスチャンスにつなげて行ければと思います。
再び、スペイン坂や渋谷が映画の発信基地になれば
―渋谷のミニシアターの再生にもつながっていくと。
川嶋 渋谷の映画文化というのは、まだまだ埋蔵量があるというのを見せていかなくてはいけない。雰囲気を持った映画館、より多様な作品で、映画館としてのポジションを打ち出していきたい。そういった意味でもシネマライズさんと提携し、他の劇場さんとも協力出来れば渋谷としてのカラーをより強くしていけるのではと思う。今回の『ヘルター~』で結果を出せたというのは大きく、今後もシネマライズさんと2館体制で上映して欲しいというお話にもつながるかもしれない。再び、スペイン坂や渋谷が映画の発信基地になればと願う。
坪屋 4月に公開した、入江悠監督の『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』は単館上映にこだわり、満席の中で熱さを共有することが映画を観るモチベーションになったと思う。結果、9週間のレイトショーで興収1000万円をあげることが出来た。今後も、新しい才能の監督と組み、インディーズ作品も積極的に取り込んでいきたい。
また、洋画ファンをミニシアターから遠ざけないようにしたい。それと共にいかにライトな人たちをいかにファンにしていけるかが課題。パルコは若者向けの良質なラブストーリーやはじけたキャッチーな作品を手掛けていければと思っている。(了)