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東宝(株)市川南取締役に聞く!

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東宝(株)市川南取締役に聞く!

2012年02月17日

映画館は特別な空間だと信じていくしかない

 東宝は、2011年1月~12月の年間興行成績で591億円をあげ、8年連続で500億円を突破、驚異的な記録をまたも更新した。
 しかしながら、748億円をあげ歴代最高を記録した前年と比べ79%と600億円に届かず、そんな東宝のマイナス分が反映されるかのように、11年の全国映画興収は前年比82・1%の1811億円と大幅減になった。

 この大幅減の要因には、東日本大震災や世界的な不景気の影響、または作品力の低下、前年の3D映画特需の反動などが挙げられる。そのような中で、約20%減という数字を映画界はどう判断するのか。よく踏ん張ったと構えるのか、それとも危機的状況、“有事”だと捉えて早急な対策を業界が一致団結して講じていくのか―。

 昨年は興収100億円を超えた作品が1本もなく、50億円を超えた邦画も1本もなかった。日本映画界を牽引し続ける東宝配給作品でさえ、昨年の様々な影響は避けられず、映画界には悲観的な空気さえ流れたりもした。

 しかし、そのような“歴史的”な年にもかかわらず、東宝は“ヒットの精度”を実は上げていた―。昨年、島谷能成新社長が就任し、島谷氏と共に東宝の番組編成を支え、同時に新取締役に就任した市川南氏(映像本部映画調整、映画企画各担当兼同映画調整部長)に、昨年を振り返りつつ、今年のラインナップ、さらに今後の映画業界の展望などについて聞いた―。




 ―まず、改めて2011年を振り返って頂けますか。

P1180919.jpg市川取締役
(以下、市川) 年間興収が1811億円になり前年比18%くらいのダウンになりましたが、一昨年が良すぎたので、この10年平均が大体2000億円とすると10%くらいのダウンです。それに合わせるように当社も一昨年の年間興収748億円からすると約2割ダウンの数字で591億円。前年比で言うと79%になったのですが、600億円近くまでいったので良い年だったと思います。東宝にとってこれが歴代5位の成績。ただ、上位5本はこの5年に集中しています。そういう意味では、近年の要求レベルに達していた年かと思います。

 ちょうど30本配給したのですが、興収40億円を超える作品が4本、興収30億円台が3本、20億円台が4本、10億円台12本、10億円以下のものが7本でした。50億円を超える作品はなかったものの、どの作品も製作会社の皆様が作り出した高いクオリティの作品を編成できて、それに加えてそれぞれの作品と東宝の配給・宣伝が一体となって手堅い数字が残せた年だったと思います。
 もう一つ付け加えると、10億円に届かなかった7本というのが、例年よりレベルが高くて、5億円を下回るのが1本だけで、8億円台、9億円台が4本あります。ですから、ハズレた作品がほとんどありませんでした。下の方が限りなく10億円に近付いていたという意味では、レベルの高い年だったと思います。東宝自体が配給をやって赤字を背負うような作品がなかったのですね。毎年どうしても失敗した作品というのが出るのですが、それがほぼありませんでした。


 ―東宝幹事作品の成績についてはいかがでしょうか。

市川
 「モテキ」が興収22億円、「神様のカルテ」が18・9億円、「岳」が16・3億円ですので、まずまず着実にヒットに結び付けられたのではないでしょうか。10億円を下回ったのが「星守る犬」の9・2億円で、やや物足りない成績だったことは反省が残りますけど、全体的には自社製作作品もレベルアップしてきたのかなと思っています。


 ―東日本大震災など、外部要素の影響は昨年どこまであったと分析されていますか。

市川
 3月、4月、春休みいっぱいくらいは震災の影響はあったように思いますけど、GWくらいからは目に見えて影響は残らなかったようには思います。若干世間の気分はあるのでしょうけど、私の立場から言うと、震災の影響とか、不景気という複合的な要素はあるものの、やはり邦画・洋画合わせて18%落ちているというのは、それだけ吸引力のある作品が少なかったのだろうと思います。


 ―東宝の興収で前年比79%という結果は、今後の番組編成、企画開発に多少影響が出てきますか。

市川
 影響はないと思います。一昨年の「借りぐらしのアリエッティ」「海猿」「踊る大捜査線」があった年に比べて、それらの作品がなくても600億円近くいったわけなので十分だったと思います。ただ、「星守る犬」の反省でもあるのですが、やはり昨年は“犬もの”が3本あって、ひと括りにはできないんですが、観客にマンネリ感を与えてしまったのかもしれません。新鮮な企画、旬な企画をお客さんは求めているのだなと再認識しました。犬ものだったから来なかったとは言い切れませんけど、やはりちょっと飽きられているのだと思いました。

 反対に、「ステキな金縛り」や「モテキ」は、こういう時代だから、コメディだから受けたという分析もあるのですけど、コメディばっかり並べたらいいかというとそれも飽きられてしまうので、やはりバラエティに富んだいろんな作品を揃えていくことが重要なのかなと思います。「モテキ」のヒットは予想以上でしたけど、コメディであるということと、ラブストーリーはやはり強いと思いました。それと若い世代に向けた作品は、ちょっとサブカル(サブカルチャー)の匂いがした方が、メインのど真ん中の作品よりは、尖った部分というのを若い世代が敏感に察知してくれているのだなと。お客様が自分で作品を探しあてたような感覚なのでしょう。


12年も充実したTV局作品

 ―2012年の番組編成についてはいかがですか、いつにも増して充実のラインナップが揃ったという手応えでしょうか。

市川
 TV局作品は、今年も各ジャンルが揃って、内容・客層共に多彩な作品を編成できたと思います。フジテレビさんの作品は、「ロボジー」が好スタートを切り、大ヒットシリーズの2本、「踊る大捜査線 THE FINAL(仮)」と、「海猿」の第4弾「BRAVE HEARTS 海猿」があります。それから「ライアーゲーム」の第2弾「ライアーゲーム 再生」、周防正行監督の最新作。「テルマエ・ロマエ」もスケール感のあるコメディになっていて、これもちょっと化ける可能性を秘めていると思います。

 TBSさんは、震災で公開を一年延期した時代劇超大作「のぼうの城」があります。公開を延期したことでのデメリットはないと思います。一年空いたことで原作本ももっと売れるでしょうし。震災の慌ただしい中で公開するよりは、一年延ばして正解だったと思います。それからヒットドラマ「新参者」を映画化して大ヒットスタートの「麒麟の翼」、同じくヒットドラマの映画化の「SPEC」が決まっています。後は30代の4人女性の恋と仕事の物語「ガール」と、大人気コミックを実写映画化する「今日、恋をはじめます」が控えています。

 日本テレビさんは、昨年の12月からカウントすると、大ヒットした「怪物くん」、大ヒットスタートとなった「ALWAYS 三丁目の夕日‘64」があり、三池崇史監督の「逆転裁判」、人気ドラマの映画化「ホタルノヒカリ」が6月、秋に「綱引いちゃった!」というコメディがあります。

 テレビ朝日さんの作品は、上映中の「friends もののけ島のナキ」、ヒットシリーズの「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」があって、高倉健さん主演「あたなへ」も出資に入って頂いています。今年もTV局各社さんの充実した作品が揃ったと思います。

東宝2012年公開予定作品・洋画系_2.jpg


細田守監督最新作と5大シリーズ

 アニメーションの注目作品は、日本テレビさんが幹事を務める「おおかみこどもの雨と雪」という「サマーウォーズ」の細田守監督最新作ですね。絵コンテを読むだけで感動してしまいましたけど、次の世代のアニメーション界のエース、細田監督の新作を配給できることは、本当に大きな意味があるので、一丸となって成功させられればなと思います。スタジオジブリさんの作品のように、ファミリー映画としてもどこまで大きく広げられるかという感じです。大化けしてもらいたい作品ですね。

 シリーズもののアニメでは、「ポケモン」が15作目、「クレヨンしんちゃん」が20作目の記念イヤーを迎えます。合わせて「名探偵コナン」「ドラえもん」「NARUTO」も合わせた5大シリーズが健在です。お正月公開の「イナズマイレブン」が今年も10億円を超えてきていますので、大ヒットシリーズに成長してくれました。5大シリーズといつも言ってますけど、みんなそれぞれ長期化しているので、製作委員会の皆さんと力を合わせて新たな発想で、作品に取り組んでマンネリにならないように見せていくことが大切です。この5大シリーズが安定してヒットしていくこと、今年も来年もラインナップの不動の柱になると、それ以外の編成が楽になります。5つ足すと100億円以上になります。そして今年は、新シリーズになりそうな「劇場版 青の祓魔師(仮)」が控えています。

 映画会社さんの作品は、角川書店さんとはお正月公開の「源氏物語」と、「Another アナザー」という夏のホラー作品の2本をご一緒します。それからアスミック・エースさんとは「僕等がいた」と「のぼうの城」を共同配給。久しぶりの共同配給という形なんですけど、営業を東宝、宣伝をアスミックさんということでご一緒しています。 つづく


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