弊社の「月刊文化通信ジャーナル」2月号(2012年2月1日発行)で『特集テレビ局の海外展開 世界に踊り出るテレビ局』と題し、民放キー5局を中心に海外ビジネスの取り組みを紹介した。放送局の海外展開の動きが活発化しているからだ。コンテンツを核に世界市場を開拓しようとの狙いで、とくに昨年は顕著に見られ、今年に入っても各局より続々とその取り組みが発表され、勢いを感じる。
もちろん、海外への番組販売やフォーマット番販は最近始まったものでなく、TBSではおよそ40年も前から取り組んでいるし、各テレビ局の海外番販実務者は20数年前から会合を持つなど、連携も図るなどしてきている。だが、近年の様相はこれまでと明らかに違う。本格的に世界進出を図ろうとの思惑で、単に番販というだけでなく、 “海外ビジネス” として打って出ようとしているのだ。ゆえにこの動きは今後ますます盛んになってくる。
とりわけ刺激になっているのは、韓国の放送局の席巻だ。番組・コンテンツが広く海外に出回っている。国をあげての取り組みがいま功を奏している。中国も同様だ。両国の制作力は年々高まり、ドラマも目を見張るほどにその質も向上しているという。日本はクールジャパンと云われて久しいが、そのアジア勢に圧倒されるように市場を奪われつつある。課題の、アジアにおける海賊版や違法配信も、日本のコンテンツの正規の進出を阻んでいる大きな要因にもなっている。他に課題は山積している。
だが、そうした問題とは別に、国をあげての取り組みはどうか。当欄の2010年10月27日のコラムでも記したが、やはり行政の対応が遅れている。外交的役割が疑問視されている。担当者が数年しないうちに、よく変わるため十分な引き継ぎが出来ていない。行政の前向きな姿勢が見られないのだ。韓国では人口が少ないために海外に市場を求め積極的に海外展開するという事情があるものの、日本も見習うべきところがあるだろう。いま、行政側も放送事業者らとともに検討しており、成果が注目される。
もう一つ、契約交渉事態に課題がある。そう指摘する声がある。要は、日本に有利な条件の契約が出来ているかどうかという点だ。米国はそれが強い。広く言えば、それも行政の外交の影響も踏まえる面もあって、今後の課題ともなりそうだ。
いずれにしても、放送局の海外展開は、地上波テレビ局に限らず、まだわずかだが、BS放送、CS放送にもおよんでいる。日本のコンテンツは海賊版や違法配信で高い人気があり、有料で見られているのだから十分にニーズがある。いま世界市場の開拓に地盤固めが進められ、近い将来、開花されることが期待されている。
(戎 正治)