いよいよ今月26日(木)、民放連の次期会長候補を推挙する「会長推せん委員会」が開かれる。第14代となる新会長は早ければその日に決まる。今年3月末に東北3県の地上デジタル化が完了する予定で、完全デジタル化の一大事業を終えて、現在の広瀬道貞会長(テレ朝)から新会長にバトンタッチ、民放界は4月からの2012年度、新たなスタートを切る。
ところで、民放連会長はどのようにして決まるのか。民放関係者ならば知っているだろうが、ご存知でない方のためにあらためて紹介しよう。
まず、全国7地区それぞれに「世話役」1人が選任される。その「世話役」7人が、各地区の「会長推せん委員」1人を決める。そして「会長推せん委員」7人が1月下旬か2月上旬に委員会を開き、次期会長候補について話し合い、決まれば本人を直接訪ね、承諾が得られれば内定、事実上決定する。正式には3月総会で決定し、4月から会長を務めるというのが基本的な流れだ。
世話役は、会長推せん委員だけでなく、各地区から輩出する理事を決める役割を担っている。ちなみに、現在の世話役は、北海道・東北地区=新蔵博雅理事(北海道文化放送社長)、東京地区=三木明博理事(文化放送社長)、関東・甲信越・静岡地区=小林豊理事(テレビ静岡社長)、中部・北陸地区=浅野碩也理事(東海テレビ放送社長)、近畿地区=高田孝治理事(読売テレビ放送・相談役)、中国・四国地区=吉岡邦男理事(西日本放送社長)、九州・沖縄地区=原章理事(福岡放送会長)。会長推せん委員などの決め方は、各地区お任せで、選任方法はとくに決まっていない。
今回は、昨年12月下旬に「会長推せん委員」7人が決定した。メンバーは、島田洋一(札幌テレビ放送社長)、三木明博(文化放送社長)、河合久光(静岡朝日テレビ会長)、大石幼一(中部日本放送社長)、高田孝治(読売テレビ放送相談役)、有澤寛(山陰中央テレビジョン放送社長)、原章(福岡放送会長)の各氏。世話役本人が会長推せん委員になるケースもあり、今回も三木明博(文化放送社長)、高田孝治(読売テレビ放送相談役)、原章(福岡放送会長)の3氏が委員となった。
そして、「会長推せん委員会」は民放連会議室で開催し、議長を決めた上で話し合い、会長候補を推挙する。委員会の議長は、東京地区の委員が就任するのが慣例で、今回で言えば三木明博氏が議長を務めると見られる。ちなみに、東京地区の世話役が会長推せん委員になるのが通例で、それは在京ラジオ社がほぼ輪番で務めている。前回(2010年)は磯原裕ニッポン放送社長(当時)、その前(2008年)は冨木田道臣FM東京社長だった。
会長候補が固まれば、すぐに議長らが直接、候補者を訪ね、承諾を得るというもの。なので、早ければその日に決定する。こうした流れで会長が決まる。とは言え、基本的に全国に系列局を持つ在京民放キー4局の代表が輪番で就任することが慣例となっている。云わば形式的にもなっている。
しかしながら、会長就任は曰くつきでもある。在籍する放送局の大きな不祥事で、任期途中での降板・交代劇が相次いでいるのだ。その都度、会長推せん委員会が立ち上がり、予期せぬ対応を働く。
1992年4月会長に就任した桑田弘一郎氏(テレ朝)はいわゆるテレ朝取締役報道局長の “椿発言” で任期途中退任。続く1993年11月19日就任した磯崎洋三氏(TBS)はオウム真理教のTBSビデオ問題等で、次に1996年4月就任の氏家斉一郎氏(日テレ)は日テレ社員による視聴率不正操作問題等で、いずれも任期途中退任している。その次、2003年4月就任した日枝久氏(フジ)は不祥事ではないが、ライブドア問題があって「スケジュールが錯綜し、時間的にも体力的にも厳しく、民放連の各社や、フジの株主などにも迷惑をかける」と自ら辞任を申し出て、任期途中で交代した。こうして4代続いて会長が任期途中で退任している。
2006年4月、日枝氏から現在の広瀬道貞会長にバトンタッチされたが、広瀬会長は完全地デジ化という “放送大革命” の重責を負うことになる。2010年春には就任5年目の長期となること等から “会長交代” が取り沙汰され、現在のTBS井上弘会長の名前が挙がるなど、大きな話題となった。だが、当時の会長推せん委員会の磯原裕議長は「地デジ完全移行を控える中、広瀬会長のまま完遂することが大切」として続投が決まった。これには、氏家氏と日枝氏2人の話し合いで決めたなど、様々な憶測が飛び交った。ちなみに、民放連会長には、放送局の社長や会長でなくてもよい。その放送局が推する人であれば会長になる資格がある。
さて、改選期にあたる今回の次期会長候補は誰か。輪番制からしてもTBS井上弘会長が有力。前回の改選期で名前が挙がったのもそうした背景がある。逆にTBSでなければTBSの面子もない。TBSといえば、昨年は楽天問題が決着し、横浜球団売却と、長く抱えた問題が片付いた。一昨年までは番組等の問題でBPO(放送倫理・番組向上機構)でもよく取り上げられたが、昨年はゼロだったのでは。そうした面も会長候補推挙に問題はない。
いずれにしても、放送界は、完全デジタル化の大事業を終えるとは言え、2012年度も課題は山積している。新会長には幾多の試練が待受けている。
(戎 正治)