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EMIミュージックの分割売却劇

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EMIミュージックの分割売却劇

2011年11月16日

 ビートルズや今井美樹、氷室京介、布袋寅泰、さらには韓国のSHINeeや宇多田ヒカルなど多数のアーティストが所属する「EMIミュージック」が、米国の金融・証券投資会社の「シティグループ」によって買収されたのが今年2月だった。「シティグループ」は、投資会社の「テラ・ファーマ・キャピタル」が保有してきた「英EMIミュージック」の全株式を取得した。

 これまで「音楽ビジネス」には全く興味を持っていないはずの「シティグループ」が「英EMIミュージック」の全株式を取得するとは当時、想像もしていなかった。

 「英EMIミュージック」の株式は、4年前の07年に、投資家のガイ・ハンズ氏が自ら率いる投資会社の「テラ・ファーマ」を通じて40億ポンドで買収した。しかし、その後の業績は一向に上がらず、ついには資金難に陥っていた。

 この一件について、米ウォール・ストリート・ジャーナルの日本版は「07年の企業買収ブーム時のこのEMI買収にはシティグループが資金を提供していた。ハンズ氏の買収のあと、EMIの業績は急速に悪化した。既に始まっていたCDなどに録音して音楽を販売する市場の落ち込みが加速し、金融危機によって協調融資(シンジケートローン)も不可能となる中で、シティグループは買収関連の約30億ドルの債権を抱えたままになっていた。EMIは融資条件を守るのに苦しみ続け、一方のシティグループは債務の再交渉には応じなかった。この件はニューヨークの裁判所に持ち込まれ、ハンズ氏はEMI買収はシティグループに騙された結果だと主張したが、陪審を納得させることは出来なかった」。

 ハンズ氏は、無茶苦茶なコスト・カッターとして知られ、EMIミュージックの経営についても「ヒット曲がわかる耳を持っているという制作陣は必要ない。いかに、どうやったら利益を生むことが出来るのかという制作陣だけが必要だ」と言い出す始末だった。こんな人間の下では誰だってモチベーションが上がるはずがない。

 そう言えば、昨年は、ロンドンの「アビーロードスタジオ」を売却しようとして話題となった。いずれにしても、看板だったローリング・ストーンズや元ビートルズのポール・マッカートニーをはじめ、レディオ・ヘッドやQUEENまでもが次々にEMIを離れていったことは確かだ。これは、ハンズ氏の問題だろう。余談だが、ハンズ氏の傍若無人ぶりは漫画にもなっていて、ハサミだらけのシザーハンズ姿で描かれている。

 そんな状況だっただけに、EMIミュージックのロジャー・ファクソン最高経営責任者(CEO)は、シティグループによる買収劇に「EMIミュージックにとって極めて明るいニュース」と述べ、その上で「これによってEMIは少ない債務と相当な流動性を持つ、業界でも最も強力なバランスシートを持つ企業の一つになった。これに立脚してEMIは事業を前進させられると確信している」とのコメントを出した。

 だが、シティグループはEMIミュージックの財務の体質を強化すると言ってはいたが、実際には、その動向は流動的だった。

 「EMIミュージック」は、「レコード部門」と「音楽出版部門」を抱えている。しかも、ビートルズやコールドプレイのCDを出し音楽出版を握っている。何だかんだ言っても魅力的なレコード会社であることだけは確かだ。結局、シティグループは「財務体質の強化を図る」とは言っていても、早期の売却を考えていることは明白だった。しかも、シティグループは「レコード部門」と「音楽出版部門」のバラ売りを決めていた。

 そう言った中でユニバーサルミュージック(親会社はヴィヴェンディ)、ワーナーミュージック(親会社はアクセス・インダストリーズ)ソニー、BMGライツ・マネージメント(投資ファンドKKRとの合弁会社)、そしてロン・パールマン(投資ファンド、マックアンドリュース&フォーブスのオーナー)の5社が買収で争ってきたが、最終的に出版はソニー、レコード部門はユニバーサルの親会社であるヴィヴェンディが “落札” した。下馬評では、ワーナーミュージックの親会社である米投資会社のアクセス・インダストリーズとも言われたが、金額で折り合いがつかなかったようだ。

 EMIミュージックのレコード部門にはビートルズやピンク・フロイドを始め、先週米英でアルバムがチャートで1位になったコールドプレイ、最近では女性ポップ・シンガーのケイティ・ペリーや3人組のカントリー・グループ、レディ・アンテベラムといった新しいミリオンセラー・アーティストを抱える。

 ユニバーサルミュージックのルシアン・グランジ最高経営責任者は、「ユニバーサルミュージックにとって、歴史的な買収だ。私はイギリス人だ。EMIは傑出したイギリスのレコード会社。EMIのアーティストとヒット曲は私の10代のサウンドトラックそのもの。ユニバーサルミュージックはEMIの音楽文化を継承する事を誓う」とコメント。所属アーティストも好意的な反応を示している。

 一方、音楽出版を買収した米ソニー。今回、出版を取得したことで新会社を設立するという。新会社の株式の持ち分は米ソニーが38%。そこにマイケル・ジャクソンの遺産管理団体、早くから買収の為に投資を決定したアブダビの投資ファンド「ムバダラ」、アメリカの投資会社「ブラックストーン」や「Jynwel Capital Limited」、さらにイーグルスを世に送り出した伝説の音楽マン、デヴィッド・ゲフィンも投資するという。このやり方はエドガー・ブロンフマン(現ワーナーミュージック会長)がタイム・ワーナーからワーナーミュージックを買収した際と全く一緒である。

 いずれにしても、米ソニーは、EMI音楽出版の実務は故マイケル・ジャクソンと共同で保有する音楽出版社の「Sony/ATV」が担当することを明言している。

 もっとも、今回の買収劇の今後のポイントは世界各国、特にEU諸国での競争法(独占禁止法)に抵触する恐れが高いということだろう。そういったことでは、「買収」と言っても不透明な部分は残る。最低でも半年、いや普通でも1年以上は「最終決定は出ない」ことだけは確かだ。まだまだどんでん返しがあるかもしれない…。

(渡邉裕二)

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