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第25回外通協研修会(後編)/「日本におけるVPFの仕組みについて」

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第25回外通協研修会(後編)/「日本におけるVPFの仕組みについて」

2011年08月03日

第25回外通協研修会 詳細

◆(前編)デジタル保管の現状と問題点(掲載中)◆
◆(後編)日本におけるVPFの仕組みについて(8月3日アップ)◆


 毎年恒例の、第25回「外国映画通関連絡協議会 研修会」が7月6日、IMAGICAの第1試写室で行われた。今回は、主に『デジタルシネマ』に主眼が置かれ、映像業界の現状・問題点等が各講師によって説明された。当頁では、同研修会で「デジタル保管の現状と問題点」について説明した根岸誠氏(東映ラボ・テック 映像プロセス部長)と、「日本におけるVPF(ヴァーチャル・プリント・フィー)の仕組みについて」を説明した堤修一氏(ブロードメディア・スタジオ プロダクション・カンパニー プレジデント)の話を、2部に分けて掲載する。(前編=根岸氏/後編=堤氏)



「日本におけるVPFの仕組みについて」
(ブロードメディア・スタジオ プロダクション・カンパニー プレジデント 堤修一氏の話)

ブロードメディア堤修一氏.jpg
ブロードメディアS 堤氏

 元々アメリカから始まったVPF(バーチャル・プリント・フィー)の理念は、「デジタルシネマ機器の普及を促進しましょう」ということ。全ての映画館をデジタル化することで、配給の費用を軽減することが目的だ。デジタル化を進めれば、フィルムが必要なくなる。しかし興行会社はデジタルの機材を入れていかなければいけない。その費用は本来興行サイドのもの。ただ、実際にフィルムがなくなることでフィルム代が軽減されるのは配給サイドだ。配給会社はデジタルのファイルを作る必要はあるが、プリントにかかるコストはなくなる。その余裕が出来たお金で、デジタル化の費用を配給サイドにも負担してもらうおうというのがこのスキームだ。

 もう一つの理念は、「デジタルシネマ機器をDCI規格に準拠させましょう」ということ。DCIは、アメリカで作られたデジタルシネマのための規格。VPFサービスを行う会社は、契約している映画館の機材に関してはDCIの規格に準拠させる契約が盛り込まれている。しかし、今国内ではこのDCIの準拠に関して問題が起きている。

 大手の興行会社はVPF契約を結ばれているケースが多いが、小さな会社は個人でデジタルシネマ機器を買われていることがある。そして、その機材がDCIのスペックに準拠していない場合がある。配給会社がその劇場にファイルを送ってみたら、上映できなかった、字幕が出なかった、音声がおかしかったなどという事例が実際に起こっている。国内のデジタルシネマ機器をDCIに準拠させることは、機器を標準化し、配給会社が送ったファイルは全てきちんと上映できるような環境を整えるということにもなる。これまでの35mmのフィルムとは違い、デジタルシネマの機材は、パソコンのサーバと思って頂いていい。映画館の上映技師さんがそれを直せるかというと、そう簡単には直せない。そこでVPFの会社は、映画館にある上映用のDLP、サーバを常にリモートで監視し、機材を順調に動かすことを前提に動いている。また、同一規格での運用をすることで配給原価を削減することも目的だ。

 ところで、DCPではなく、ブルーレイでの上映ならVPFを支払う必要はないのか?というご質問を頂くことがあるが、VPFに関しては、DLPとサーバを使った人に料金をお支払い頂くスキームなので、ブルーレイを使用する場合でも、DLPを使った場合は料金が発生する。その理由は、DCPというパッケージを皆さんが共通で利用されることで、映画館も問題が起きにくくなり、運用が楽になる。運用が楽になることで、編成上のトラブルが起きにくくなる。そのためにも、DCPでの配給に切り替えてください、という大前提をVPFは持っているから。

 次に、DCIの規格が普遍なのかという話だが、普遍ではない。現在DCI規格は2Kデジタルと4Kデジタルの両方をOKにしている。しかし、例えばある瞬間に4K、8Kじゃないといけない、とか、照射方式をDLPのランプタイプからレーザータイプに替えないといけない、というような事態になった場合、規格を準拠するために機材を入れ替えなければいけない。その費用もVPFが担保する範疇に入ってくる。それも配給・興行にサービスしていくのがVPFのスキームだ。

VPFの仕組み(お金の流れ).jpg


 VPFサービス会社は、まず自分が金融機関からお金を借りる。その借りたお金で機材を買う。その買った機材を映画館に置く。機材を置いた代価として、映画館から30%の費用をもらう。残った70%は、置いてあるDLP、サーバの使用料というイメージで、配給会社から1作品ブックするたびにお金を頂く。大きなバケツを一個作り、そのバケツの中に、作品をブックするたびにお金を入れていき、これがいっぱいになった時点(コストリクープした時点)、あるいは10年の契約期間を終えた時点で、VPFの支払いが終わるというイメージだ。(上図参照)

 VPFサービスを行うにあたって、配給会社に使用料として費用の70%を頂く形になるが、VPFのサービス会社からは、映画館側できちんとそれが上映されていましたという、履歴、ログをきちんと配給会社にお返しする作業をする。それによって映画館できちん作品が上映されていたことを確認して頂く。確認をもって、対価を支払って頂くイメージだ。

VPFの内訳

VPFの仕組み.jpg


 次にVPFの仕組みだが、先程配給会社が70%、興行会社は30%、と申し上げた。上図の上の段(青色の段)が、皆さんでシェアして頂くVPFの内訳。『プロジェクター』と『上映サーバ』はスクリーンごとに置かれている。『センターサーバ』は、一つの映画館に一つ置かせて頂き、そのセンターサーバを中心に上映サーバが全て繋がる。そうすることで、作品がハードディスクに送られてきた場合、今まで夜中にやっていた上映サーバへの取り込みが昼間にできたりだとか、センターサーバがバックアップになるので、上映サーバが壊れた場合でも作品は残っており、上映機会が毀損されない。『TMS』とはシアターマネージメントシステムのこと。これは映画館の全スクリーンの編成情報を管理しているソフトウェア。『その他ソフトウェア』というのは、ログを収集したり、スクリーンごとにどういう環境にあって、どういう状況になっているかと網羅的に、インターネットごしに、深くデバイスから引き抜いてくるためのソフトウェアなどのこと。『利益』は、全体の中で何%と決められている。よく、「(VPFのサービス会社は)儲かるでしょう?」と言われるが、決められたパーセンテージ以上の余剰利益は出ない。

 では、なぜ配給会社が70%も支払うのか、ということだが、実はその下に消耗品(上図/ピンクで表記)というのがついている。35mmフィルムの時代から考えると、DLPにはLANが必要だったり、ファンが回っているので、そのフィルターが必要だったりする。ものによっては冷却水を入れたりもする。そういった付属品関係が多く発生するが、それは映画館のみの負担となっている。この消耗品と30%を足すと、ちょうど配給会社と興行会社の比率はイーブンになる。VPFは、そこまで考えた上で作られたスキームとご理解頂きたい。

VPFサービスを行う3社

日本国内VPF会社.jpg


 ここまではだいたい(VPFサービス会社)3社共通の項目。基本的に、この項目にのっとって3社がVPFを推進している。ただ、3社にはおのおのに特徴がある(上図参照)。まず、ソニープロテクノサポートは全世界契約でやられており、日本はその中の1つ。機材はソニー製品。3Dの機材に関しても、今まではクリスティやNECが入っていたりしたが、今後はソニーになると思われる。現在ソニーと契約された興行会社は、ティ・ジョイ、TOHOシネマズ、藤枝シネ・プレーゴなど。これらの会社以外にも、公になっていないが実際は契約履行されているもの、あるいは入っているものもある。

 次に、ジャパンデジタルシネマサポート(JDCS)の特徴は、香港の大手サーバ会社GDCからVPFのサブライセンスを受けて動いていること。GDCは米メジャー会社とVPFの契約を結んでいて、エリアはアジア。その中でJDCSは日本でVPFを推進する。DLPは(ウシオ電機子会社の)クリスティで、サーバはGDC。施工はXEBEXが行う。松竹マルチプレックスシアターズやワーナーマイカルシネマズはこちらと契約している。

 そして我々デジタルシネマ倶楽部(=ブロードメディア、サンライズ他出資/DCC)は、日本国内だけのVPF。DLPとサーバに関しては劇場が指定するもの。前2社はメーカーなので自社の製品が売れていくが、DCCは、機材の指定がなく、施工もその興行会社がお付き合いのあった会社にやって頂く。これまでの契約先はフォーラムグループ、静活、静岡東宝会館など。

 国内では、以上の3社がVPFサービスを行っている。現状、国内でVPFのサプライヤーを決めた映画館の総スクリーン数は1800以上ある。今月(7月)~来月(8月)で2000を超えてくるのではないか。ただ、施工に関しては東北の影響や機材の生産・施工のスピードの限界があるので、2000スクリーン以上が施工を完了するのは来年の夏以降ぐらいかなと考えられる。

 興行会社がVPF契約を結ぶ場合、この3社のどこかをチョイスすることになる。ただ、VPFの契約は1会社ごとではなく、1サイトごとの契約となる。例えば、藤枝シネ・プレーゴはソニーと、静岡東宝会館はDCCと契約しているが、両館は静岡にある日映という会社が運営している。サイトが分かれているので、VPFは2つ使っても問題ない。このように、興行会社は1サイトごとにVPFサービス会社決めていく形になる。

 一方、配給会社は各々の契約先の興行会社がバラバラなので、結果的にこの3社全部と契約することになると思う。

 その時に、VPFのプライスはいくらなのかが争点になると思うが、例えば弊社ではディスカウント契約がある。VPFの契約には作品契約と、ロングタームという長期契約のものが二つある。作品ごとの契約だと、少し料金が高くなる。ただし長期契約だと、デジタルリリースのためのリリースコミットを入れて頂くことになる。これは、デジタルブック、もっと簡単に言うと、DCPでリリース出来る作品の本数をコミットして頂く。例えば契約1年目は80%以上、2年目は90%以上にして頂くというコミット。それが難しいという場合は作品契約を、受けられるという場合は長期契約をして頂く。

 この長期契約だと、VPFディスカウントが適用される。これは各々の会社の契約書に載っているが、例えば1週目から3週目は100%のVPFを支払って頂く。その後他の映画館に移ってムーブオーバーした場合にディスカウントが始まり、7~8週目ぐらいになると10~20%ぐらいまで落ちる、というイメージ。同じ作品の字幕と吹替は基本的に2ブックの計算。ただし、1日に何回上映したかということで、ディスカウントが入る場合もある。例えば、字幕と吹替を同一スクリーン上で字・吹・字・吹と2回ずつ上映した場合、エクスキューズできる会社もある。ただ、何回で適用されるかは3社バラバラ。なので、各社の契約書で見て頂くのは、ディカウントの利率と、実際にブックをした時に何回でいくらかということ。それと、VPFのプライス。あと、ファーストVPF週の定義(1週目の定義)の4つ。これらを踏まえて計算して頂くと、どれぐらいの金額になるのかが把握できると思う。

 先程も申し上げた通り、VPFの契約期間は10年だが、配給側の負担がなくなった段階で終わる。ただ、VPFがかからないものもある。一つは予告編。それから、料金を取らない試写会。それは3社共通だ。この無料試写会でも、映画祭だと各社扱いは変わってくる。例えば、1回しか上映しない…という場合、ある会社は映画祭1つを1つの番組に見立てて、1VPFに考えている場合もあるし、ある会社は1回の上映を別料金のODS(非映画コンテンツ)と捉えて、1回いくらと設定するふうに分かれており、それは各々の契約書を見る必要がある。

 ODSの定義は、3社によって分かれている。映画なのか、映画じゃないのか、という論点でいうと、公に映画と言われているものを映画としている場合もある。あと、1週間以上ベタで編成しているものは映画として、1週間未満の中で適宜上映するものをODSとしている場合もある。これも各々契約条項によって内容が違うので、ここに関しては契約書を見て頂きたい。

 VPFに関してはすでに始まっていて、お金も支払われ始めている。ブックした後で「プリントで出してもいいのか?」という話も出てくるが、VPFは興行会社と配給会社の上映の契約には関われないのが本筋。デジタルブックではなく、35mmブックをかけて頂く、という場合は、基本的にはそのまま行って頂くしかないのかなと。例えば、予算が変更されてしまった場合にそういった事態が起きるケースがあると思うが、映画館、もしくはVPF側からすると、極力デジタルを出してほしい。

 VPFの契約を興行会社と結んだ段階で、興行会社、あるいはVPFの会社からリリースを出す。その時点を持って、いつからVPFに取り組むかのスタートポイントが決まるので、その段階からブックをしたものはVPFチャージの対象になる。ただし、その連絡が(配給に)来てなかった場合は問題になることがある。その劇場がVPFでやっているのか、もしくは自分でやっているのか、お金を払う、払わないという問題が出てくる場合があるので、配給会社は一旦、どこのVPFスキームを使っているかを興行会社に確認した方がよいと思う。(了)

※文中の図は、研修会の配布資料を元に作成

(前編:『デジタル保管の現状と問題点』 東映ラボ・テック 取締役 映像プロセス部長 根岸誠氏の話も掲載中=コチラ



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