映像業界のハブ的な役割が我々の存在意義
今年3月31日に臨時株主総会を開催し、新役員を選任するなど新たな体制で始動したアスミック・エース エンタテインメント(株)。昨年公開した「大奥」(松竹共同配給)、「武士の家計簿」(同)などの大ヒットにより、前期(平成22年4月1日~平成23年3月31日)は黒字化を達成。5月の決算取締役会、6月末の定時株主総会を経て、7月より社内組織も再構築し、新たな体制でスタートした。
今期は特に、3月11日に発生した東日本大震災の影響も考慮し、秋公開予定だった戦国エンタテインメント超大作「のぼうの城」を来年秋へ1年間公開延期するなど、映像業界はもちろん、国内の急激な環境の変化へも対応が迫られている。そんな中で新たな目標を掲げ、会社の建て直しを図っている豊島雅郎社長に今期の展望、同社の将来像などについて聞いた―。(インタビュー:和田隆)
―昨年の年間(1月~12月)興収は約49億円でしたが、前期を振り返って頂けますか。
豊島 お陰さまで前期3月末決算はいい数字が出せたので、ちょっと一息はついているところです。ただ、世の中の変化の方が早いので、引き続き会社の中の事業の見直しというのは11年度、12年度もやっていかないといけません。それはもうこの映画業界だけでなく、全業種同じことが言えると思います。もっと大きい意味では、我々エンタテインメントをお客様に届けるという仕事をしていますが、いま現実の世界の方が、かなりフィクションの世界よりも“激動”してしまっていると思うのです。
有史的にはもっと様々な変動があったと思いますが、いま生きている我々にとっては、この50年単位、100年単位では、かなりインパクトのある出来事が多く、重ねて天災の部分、政治的なことでも迷走しており、その迷走ぶりがまた世の中では話題になったりして、なかなかエンタメ、フィクションを届けるのが、役不足な感じがしてしまいます。どうしても震災後、「不要不急」という言葉が世の中に流通しましたけど、不要不急な世界ではエンタメが一番に見られてしまうところがあるのかなと。
ただ、震災の直接被害を被ったサイトで、未だに営業出来ていないところはありますが、まだ他の業種に比べて救われている部分もあり、身近なレジャーということで、興行においてはこれを良しとしなくてはいけないのかなとも思います。逆に、少しずつ世の中が戻ってきた時に、きちんとエンタメが楽しみの一つとして選ばれるように、努力をさらにしないといけないですね。
また、その情報手段の発達でfacebookやツイッターなどの、リアルで消費者個人から世の中に発信されるということ、そういうツールができて一般化して、よりいろんな出来事が発信されることが多くなってくるので、我々エンタメのいわゆる作られた世界は、もっと頑張らなくてはけないと思っています。
―情報発信のスピードがより速くなっているように感じますね。
豊島 邦画はどうしても企画実現までに1年半とかいうタームで通常はやっていますけど、長すぎると正直思いますね。企画から劇場公開まで1年以内でやらないと、ちょっと鮮度が落ちるというか、より現実世界が強烈になっているだけに、それを超えるものというのはある程度タイムラグないように、タイムリーにやらないと厳しいと思います。
―前期、黒字化に貢献したのはやはり「大奥」ですか。
豊島 映画では、劇場でもビデオグラムでもTV番販の方でもしっかり稼ぎ、すべてのプラットホームでしっかり稼ぐという形で、会社のスタッフには話をしていますが、そういう意味で利益率が高かったのは「大奥」、「武士の家計簿」ですかね。年度という意味では昨年10月に劇場公開し、今年の4月上旬にDVD・BDを出して、売上は3月期の決算までに取り込むことができたので、「大奥」が一番利益に貢献したと思っています。パートナーの松竹さんも「大奥」が決算に貢献したと発表しておられました。
―「ソラニン」のDVD売上も好調だったと聞いています。
豊島 劇場も100スクリーンちょっとで興収5億7000万円いき、今のビデオの厳しい市況の中では、レンタル、セルともに好調に売れました。当社の中では、お客様の顔がしっかり見える映画に取り組んでいこうとしています。動員で100万人以上、興収で10億円以上というのが一つのヒットの目安だと思いますが、「ソラニン」のような規模でもきっちりお客様が来てもらえる作品ということです。
ある程度数字が見えるビジネスとして、一番顕著なのがアニメーション映画のビジネスだと思うんですけど、一番厳しいのは大型作品の縮小版のように展開する作品ですね。今のシネコンシステムですと、10億円以上いくような作品は優先的に上映され、回数もキープされますが、お客様の稼働率が悪いものはどんどん閉じていくというシステムなので、なかなか中庸な作品をビジネスとすることができていません。これは今の世の中全体、コンビニエンスストアで売れるものはいいところに置かれるけど、売れないものはすぐに棚から干されてしまうというのと同じ。いわゆる中ヒットというのがなくなってしまいました。
いいパートナーとの業務・資本提携を視野に展開
―前期の成績に対して、親会社の住友商事の評価はいかがでしたか。
豊島 住商から言われているのは、いいパートナーとできれば業務提携して、その先の資本提携ということも見据え、どんどんやっていきたいという意志表明は受けています。私自身も住商におんぶに抱っこというのではなく、いろんな他社さんとの業務提携、場合によってはその先の資本提携ということも頭の片隅に置きながら日常の仕事を進めています。
アスミック・エースという会社自体が元々、インディペンデントの、業界のハブ的な役割をするというのが我々の存在意義だと思っています。洋画メジャーさんは本国からの安定供給がありますし、邦画メジャーさんは日本においては興行と配給が一体となっているメリット、優位性がありますから。もちろん我々はユナイテッド・シネマ(UC)というグループ会社はありますが、映連(一般社団法人 日本映画製作者連盟)4社(松竹、東宝、東映、角川書店)さんほどは影響力を行使できないので、では我々の持ち味として何ができるかというと、映画を取り巻くプレーヤーさんたちのハブになるというのが、我々の存在意義。TVほかのメディア企業、さらに広告代理店、出版社、レコード会社、個人ベースではクリエイター、そういう方々にアスミック・エースと仕事したら、ユニークなことができるという、接着剤のような役割を我々ができたらと思いますね。
我々としては、ただ単に資金力があるというとこだけではない、実際にアスミック・エースとの実業面でのシナジーをもたらせてくれるパートナーと、仕事していく上で自然とご縁があればいいなと。この11年、12年度に関しては、そういう風になってくると思っています。
―パートナー候補は映像系の会社に限らないということですね。
豊島 もう映画だけとか、ドラマだけ、CMだけと言っていられない時代だと思います。映像に関わることだったら何でもでき、そのハブになれるというところを売り文句、特性にしていきたい。映像という一つのキーワードはありますが、映像に関わるどのジャンルの方々とも組んでやっていけたらなと思っています。
―他社と提携する時は、UCも一緒なのでしょうか。
豊島 一緒というわけではないと思います。UCさんは我々と違ってハコ(劇場)ものなので、彼らは映画以外のODSとか、どんどんやっていますね。もちろん外部のパートナ-によっては、アスミック・エースとUCと何かやりたいという話もあり、一緒にいろいろやっていけるところはあるとは思います。
例えばUCは、顧客のデータベースの活用という部分で、恐らく他のシネコンさんよりも抜きん出ていると評価していまして、その辺はUCの優位性でいろいろ面白いビジネス展開ができるのではないかと思います。IMAXシアターの導入や、会員カードでもデータベースの活用を積極的にやっています。
それから、昨年のUCのジャンル別の客層を見ると、シネコンにとってはやはりティーンをいかに集客するかが重要となっているのかがわかります。特に地方では、ショッピングモールがティーンの方々の遊び場になっていて、シネコンの特性、時代を改めて認識させられました。
―今期の目標数字は、住商から提示されているのですよね。
豊島 もちろん提示されていて、クリアしなければいけません。今年は震災絡みで「のぼうの城」が来秋に公開を延期しましたので、その分は多少考慮してもらっていますけど、「のぼうの城」が抜けた分、何もしなくていいわけではありません。「スパイキッズ4D:ワールドタイム・ミッション」を急きょ「のぼうの城」の公開時期だった9月17日から松竹さんとご一緒して公開することを決めました。今年5月のカンヌ映画祭で契約し、完成が8月で、9月に史上初のにおいも飛び出す“4D映画”として公開します。シルバーウィーク商戦は、中規模3D作品が多いと聞いていますが、勝ち組に入れるのではないかと思っています。(次ページへ続く)