いよいよ、放送のインターネット同時配信が実現しそうだ。NHK会長の諮問機関「NHK受信料制度専門調査会」(座長:安藤英義専修大商学部教授)が12日、報告書を提出し、ネットで番組を視聴する世帯からも受信料を徴収する案を提示した。欧州のように放送のネット同時配信の方向性を示したもので、これまで堰き止められていた流れが加速しそうだ。
東日本大震災の緊急時に施したネット同時配信は、テレビ受信環境を失った被災者はじめ多くの人が求める情報を提供でき、その需要の高さも証明され、公共放送の使命として大きな役割を果たした。ネットの普及と利用が高まりメディア環境が激変する中で、ネット同時配信を一時的なものでなく位置づけようと論ずるのは必然的と言え、それは相当以前から業界内で言われている。NHKに限らず民放も同様だ。視聴者・ユーザーの利便性の観点から、放送波か、インターネットか、のインフラに拘る情勢でなくなってきているためだ。
フジテレビ日枝久会長は先月、社員に向けて「放送を通じて、Iネットと共同で被災地の情報を出すことが出来た。放送とネットのコラボレーションが今後のメディア状況を示していると思う。ネットは敵ではなく、巻き込んでいくもので、これが放送とネットの在り方だと思う」旨を話している。意味することは、ネット同時再送信をも含むと解釈できそうな発言ではないだろうか。
NHKがその突破口を開けば、課題の権利問題もさらにクリアになっていく可能性がある。番組のネット配信は、配信コストと権利料がネックとなって容易に進展してこなかったが、徐々に課題がクリアされつつあり、権利者の受け止め方も少しずつ変わってきている。そのため民放のオンデマンド配信も有料ビジネスモデルとして成り立ってきた。番組の放送終了直後に配信する「見逃し配信」が人気だ。実験的に同時配信も行われるケースもあり、模索が続いている。ただ、NHKオンデマンドはその財源として受信料を使えず、独自事業として運営するため赤字が続いている。受信料は放送事業に使用するもので、法的にネット配信に振り分けられないためだ。
しかし、今回の報告書はその受信料を財源にネットで番組を配信できる考えを示している。実現すれば、NHKのネット配信は強大な力を発揮するだろう。民放にとっては、それをNHKの肥大化と捉えるかどうか。
NHKがネット同時配信となれば、民放も続くことになる。しかし民放は受信料のような多大な財源はなく、資金面含め課題は山積している。NHKのネット同時配信には、法改正が必要な上に、実施にあたって技術的課題もあり、まだまだ時間がかかりそうだが、今回の報告書は時代を捉え、テレビの見方を変える大きなきっかけとなるのは間違いない。
(戎 正治)