DNA
2011年06月08日
芸能界で、よく“ジュニア”という言葉を耳にする。俳優には、二世や三世が存在するが、音楽では、なかなか成功するのは難しい。そういった部分で成功をおさめているとしたら服部良一、服部克久、服部隆之ぐらいだろうか…。しかも、その服部家では、隆之氏の長女もコンクールで入賞しているほどだから、この家系のDNAに関しては「稀」としか言いようがない。いずれにしても、親が偉大であれば偉大であるほど、親を超えるのは難しいのが“ジュニア”の実情であろう。
それでも「大したものだ…」と思ったのが、シンガーソングライターさだまさしの“ジュニア”である。
6月22日に長女・佐田詠夢(さだ・えむ)が、スタジオ・ミュージシャンとして活躍する紅林弥生とユニット“Pretty Bach”を組み、アルバム「Pretty Bach」(発売=日本音声保存/販売=キング・インターナショナル)を発売しメジャー・デビューすることになった。もっともデビューといっても「歌手」ではなく、ピアニストとして活躍するという。その詠夢は6月5日に東京・中央区の日本橋公会堂(日本橋劇場)でデビュー・コンサート「二台のピアノによる『奇奏音外』迷曲音楽舎」を行った。
ところで、さだまさしと言えば、長男のTAIRIKUが既に「TSUKEMEN」というユニットを結成してバイオリニストとして昨年、音楽界デビューしている。つまり、兄に続いて妹も…ということになるが、さだ家の特徴は、“ジュニア”がバイオリニスト、ピアニストと“歌”ではなく、父親とは全く違う路線で活動している点だろう。
詠夢は、兄のTAIRIKUと同じく長野県の生まれ。
兄のTAIRIKUは4歳からバイオリンを始めたが、詠夢は3歳からピアノを始めている。94〜98年には、ピティナピアノコンペテションで5年連続本選入賞。ピティナ推薦でハンガリー・ヴィガドホールで演奏している。さらに、「第9回KOBE国際学生音楽コンクール」でも入賞し、イタリア・ミラノで行われた「カーサ・デ・ヴェルディ」での日伊交流コンサートにも出演した。
兄のTAIRIKUは、桐朋学園大学音楽学部大学院を卒業しているが、詠夢の方は洗足学園音楽大学ピアノコースを首席で卒業。あの「高嶋ちさ子と12人のバイオリニスト」ではCD録音にピアノ伴奏として参加もした。また、「ミュージックフェア21」(フジテレビ)にもピアニストとして出演するなど、その才能は以前から高く評価されていた。
一方、詠夢とユニットを組む紅林は、妙齢のスタジオ・ミュージシャンというところか。それだけにピアニストとしては実績があり、これまでに槙原敬之、小椋桂、三枝成章、米良美一などのレコーディングに参加してきたという。また、渡米時代には元ToToのレニー・カストロ、ヒューバート・ロウズ、アル・ジュミットらとアルバム「Memories」を制作するなど、その演奏能力に注目する声は高かった。
今回、結成したユニット”Pretty Bach”について、詠夢は「美しく楽しく弾く、楽しく聴いてもらえる演奏するのが基本」と言い「20年間、クラシックを学んできた私と、アドリブ演奏を得意とする弥生さんとで成り立っている」と説明している。
基本的には、ポップスにクラシックを融合させたユニットといった方が適切かもしれない。それだけに、コンサートでは一般的にイメージするクラシックのような堅苦しさはない。
しかも、演奏の基本的なコンセプトとしては、弥生のアドリブ演奏がウリのようで、詠美によれば「(コンサートで)同じ演奏は2度と出来ない。2度と弾けない」とか。
いずれにしても、このユニットの場合はコンサートの積み重ねで大きくなっていくのかもしれない。今後が楽しみである。
それにしても、さだまさしはデビュー当時から服部家との結びつきが大きかった。そういった意味では、長男のTAIRIKUも、長女の詠夢も服部家のDNAが何らかの形で起因しているのかもしれない。が、やはり、こういった才能は“ジュニア”に限らず環境の中から芽生えていくのだろう。
(渡邉裕二)