東京都渋谷区・円山町の複合映画館ビル「Q‐AXビル」が、3月4日より「KINOHAUS(キノハウス)」と名称を新たにリニューアル・オープンした。
従来から入居するミニシアターのユーロスペース(3F)、名画座のシネマヴェーラ渋谷(4F)、地域の映画環境を支援する一般社団法人コミュニティシネマセンター(5F)に加え、教育機関の映画美学校(B2~1F)と同校が運営する多目的ホールのオーディトリウム渋谷(2F)が加わった。
ドイツ語で“映画の家”を意味する新しいビル名のとおり、「KINOHAUS」は、多様な映画が上映されるだけでなく、映画スタッフや俳優の人材育成、映画の新しい見方や楽しみ方の発信、さらには映画の製作や配給など、映画の全てを網羅した施設になる。まさに “シネマ・マルチプレックス”の誕生だ。
国内で他に例のない映画多機能拠点として、「KINOHAUS」が目指すものとは。またその中でも重要な地位を占める映画美学校のビジョンとは。「KINOHAUS」誕生に尽力した一人である松本正道・映画美学校代表理事に聞いた――。
――「KINOHAUS」の特徴を教えてください。
松本 たくさんの映画が見られるというだけでなく、映画教育であるとか、映画の普及、観客の育成など、あらゆる角度から映画に対してアプローチできる施設です。これをシネマ・マルチプレックスという言葉で表現しています。
さらに、ここ渋谷は映画だけでなく音楽、演劇など様々な文化を育んできた街ですから、「KINOHAUS」もまた映画を中心にしながらも多様な文化活動に開かれた施設にしたいと思います。従来からあるミニシアターのユーロスペース、名画座のシネマヴェーラ渋谷に加えて,興行場としての許可を受けた多目的ホールのオーディトリウム渋谷がオープンしました。ここでは、映画の上映だけでなくトークイベントもコンサートもやっていきます。
――実現までの道のりを振り返っていただけますか?
松本 映画美学校がQ‐AXビルに移転することが内定したのが昨年(2010年)の春ごろで、それと同時に「KINOHAUS」に向けた話し合いを始めました。Q‐AX(キューアックス)という会社がもうなくなっているので、違うビル名が必要だということもありました。ユーロスペース、シネマヴェーラ渋谷、コミュニティシネマセンターにももちろん異論はなく、すぐに一緒にやりましょうとなりました。
それからは激論の日々でした。映画美学校の共同代表を務められる堀越謙三氏と私が中心となって話を進めたのですが、ビルの名称をどうするのかから始まって、多目的ホールの名称をどうするのか、そこで何をやるのか、人事をどうするのか、ロゴはどうするか……。色んなことをやろうという総意はあっても、じゃあ具体的にどうするのかを決めるのは大変でした。約1年かけて、なんとかこのような形でお披露目できるまでになりました。
――「KINOHAUS」の目指すところは?
松本 映画美学校を運営する一方で、私はアテネ・フランセ文化センターのプログラムディレクターとしてシネマテークの活動をしてきました。一方、堀越さんはユーロスペースの代表としてミニシアターの運営や映画の製作や配給を長らく手がけられてきて、共に還暦を超えました。「KINOHAUS」には、代表理事2人の、これまでの活動を集大成したいという強い思いが投影されています。
現在のところ、映画は、3Dとネット配信しか大きなテーマがなく、激変する映像環境の中で劣勢に立たされていると言われています。ですが、本当にそうなのでしょうか。映画が生まれて1世紀以上が経ったわけですけれど、まだまだ映画にはパワーがあるはずだと私たちは思っています。従って、非常に小さな組織と施設ではありますが、「KINOHAUS」から映画のさらなる可能性を伝えていきます。
2Fにオープンした多目的ホールのオーディトリウム渋谷(上写真)は、全136席あり映画に限らず様々な文化を発信する。
インタビューの続きと写真特集は、「エンタメ教育の現場から」に掲載。