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人材育成キーマンに聞く!「映画美学校」松本正道代表理事

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人材育成キーマンに聞く!「映画美学校」松本正道代表理事

2011年04月07日

KINOHAUS.jpg 東京都渋谷区・円山町の複合映画館ビル「Q‐AXビル」が、3月4日より「KINOHAUS(キノハウス)」と名称を新たにリニューアル・オープンした。

 従来から入居するミニシアターのユーロスペース(3F)、名画座のシネマヴェーラ渋谷(4F)、地域の映画環境を支援する一般社団法人コミュニティシネマセンター(5F)に加え、教育機関の映画美学校(B2~1F)と同校が運営する多目的ホールのオーディトリウム渋谷(2F)が加わった。

 ドイツ語で“映画の家”を意味する新しいビル名のとおり、「KINOHAUS」は、多様な映画が上映されるだけでなく、映画スタッフや俳優の人材育成、映画の新しい見方や楽しみ方の発信、さらには映画の製作や配給など、映画の全てを網羅した施設になる。まさに “シネマ・マルチプレックス”の誕生だ。

 国内で他に例のない映画多機能拠点として、「KINOHAUS」が目指すものとは。またその中でも重要な地位を占める映画美学校のビジョンとは。「KINOHAUS」誕生に尽力した一人である松本正道・映画美学校代表理事に聞いた――。



松本代表.JPG――「KINOHAUS」の特徴を教えてください。

松本 たくさんの映画が見られるというだけでなく、映画教育であるとか、映画の普及、観客の育成など、あらゆる角度から映画に対してアプローチできる施設です。これをシネマ・マルチプレックスという言葉で表現しています。

 さらに、ここ渋谷は映画だけでなく音楽、演劇など様々な文化を育んできた街ですから、「KINOHAUS」もまた映画を中心にしながらも多様な文化活動に開かれた施設にしたいと思います。従来からあるミニシアターのユーロスペース、名画座のシネマヴェーラ渋谷に加えて,興行場としての許可を受けた多目的ホールのオーディトリウム渋谷がオープンしました。ここでは、映画の上映だけでなくトークイベントもコンサートもやっていきます。

――実現までの道のりを振り返っていただけますか?

松本 映画美学校がQ‐AXビルに移転することが内定したのが昨年(2010年)の春ごろで、それと同時に「KINOHAUS」に向けた話し合いを始めました。Q‐AX(キューアックス)という会社がもうなくなっているので、違うビル名が必要だということもありました。ユーロスペース、シネマヴェーラ渋谷、コミュニティシネマセンターにももちろん異論はなく、すぐに一緒にやりましょうとなりました。

 それからは激論の日々でした。映画美学校の共同代表を務められる堀越謙三氏と私が中心となって話を進めたのですが、ビルの名称をどうするのかから始まって、多目的ホールの名称をどうするのか、そこで何をやるのか、人事をどうするのか、ロゴはどうするか……。色んなことをやろうという総意はあっても、じゃあ具体的にどうするのかを決めるのは大変でした。約1年かけて、なんとかこのような形でお披露目できるまでになりました。

――「KINOHAUS」の目指すところは?

松本 映画美学校を運営する一方で、私はアテネ・フランセ文化センターのプログラムディレクターとしてシネマテークの活動をしてきました。一方、堀越さんはユーロスペースの代表としてミニシアターの運営や映画の製作や配給を長らく手がけられてきて、共に還暦を超えました。「KINOHAUS」には、代表理事2人の、これまでの活動を集大成したいという強い思いが投影されています。

 現在のところ、映画は、3Dとネット配信しか大きなテーマがなく、激変する映像環境の中で劣勢に立たされていると言われています。ですが、本当にそうなのでしょうか。映画が生まれて1世紀以上が経ったわけですけれど、まだまだ映画にはパワーがあるはずだと私たちは思っています。従って、非常に小さな組織と施設ではありますが、「KINOHAUS」から映画のさらなる可能性を伝えていきます。
オ―ディトリウム渋谷.JPG
2Fにオープンした多目的ホールのオーディトリウム渋谷(上写真)は、全136席あり映画に限らず様々な文化を発信する。

――校舎移転した映画美学校について教えてください。

松本 十分な映画教育を行うための周辺環境や交通アクセスはどうか、撮影実習スペースに使えるだけの十分な天井高があるか、また貴重な収入源でもある試写室を円滑に運営できるか、あらゆる点において一番ふさわしい選択をしたと思っています。

映画美学校玄関.JPG まわりで映画がたくさん上映されているのは映画教育にとって願ってもない環境です。「KINOHAUS」の中にはユーロスペースとシネマヴェーラ渋谷があります、さらにビルの外にもたくさんの映画館があります。映画を勉強するにはうってつけです。今や色んな方法で映画が観られる時代になった。それは否定のできない事実ですが、そもそも映画表現とは、暗闇の中、皆で大きなスクリーンを観るということで成立した表現です。映画美学校の受講生たちには、映画をたくさんスクリーンで観ることで、その原理をきっちりと理解していてもらいたいと思います。

 それから、「KINOHAUS」の中には映画以外の文化活動も行うオーディトリウム渋谷がありますし、外にもライブハウスやイベントスペースがたくさんあります。受講生や講師がお酒を飲みながら語り合えるお店もたくさんあります。このような環境の中で、未来の映画作家たちには、これからの映画のことを考えてほしいと思います。

――新校舎について受講生の評判はいかがですか?

松本 機能面はそんなに大きく変わったわけではないのですが、評判はおおむね良好です。自由に利用できる1階のカフェも含めて、実習やミーティングに使えるスペースが以前よりも増えたと喜んでもらっています。

映画美学校試写室.JPG あとは、このビル自体が被写体としての魅力が持っている、映画のセットのようだといわれることがあります。「KINOHAUS」の中には、階段がいくつもあったり、スタジオがあったりと室内で撮影する際の選択肢がたくさんありますから。

――試写室の利用状況はいかがですか?


松本 おかげさまで、こちらも好調に予約が入っています。映画美学校はNPO法人という性格上、教育事業だけではどうしても赤字が出てしまうわけで、それを埋める大きな収入源が試写室事業なんです。新しい試写室は、しっかりと傾斜がついているので都内にある試写室の中ではかなり見やすい方だと自負しています。

――新しく脚本コースとアクターズ・コースが始まります。

松本 1998年に(仏映画監督の)ジャック・ドワイヨンに特別講義をしていただいた時に、ドワイヨンから「映画学校には俳優コースが必要である」と言われたことがあって、俳優養成のためのコースはいずれ作りたいという夢を前から持っていました。今回の校舎移転を機に実現させることになりました。

 脚本コースは、ハリウッドでリメイクもされた「リング」の脚本家・高橋洋さんに主任講師を務めていただきます。アクターズ・コースは、劇作家・平田オリザさんが主宰する劇団青年団と映画美学校によるコラボレーションによる講座です。新しい講座ができて講師陣の顔ぶれも変わることで、学校内に活発な論争が起きることを期待しています。それが良い教育につながると思います。

映画美学校 内部の様子.JPG――新コースではどんな人材を育てますか?

松本 脚本コースの方では、やはり高橋洋さんのような脚本家を輩出したいですね。映画会社やテレビ局の要望に器用に対応できるタイプとは違うけれど、「リング」のようにエンタテインメントの世界に新しい風を吹かせてくれる。ひとことで言えば、企画開発力をもった脚本家です。

 アクターズ・コースからは、映画に対してしっかりとした考えを持ちながら、かつ様々な演出の意図に柔軟にこたえられる、いわば監督の同志になれるような俳優が生まれて欲しいと思います。

――将来を考えると、「KINOHAUS」で映画美学校は重要なポジションを占めるかと思います。今後のビジョンは?

松本 ここには学生から社会人まで様々な受講生がいます。全員が、ある時に映画の観客から作り手側に移ろうと考えた人たちです。これから、アート系映画の作り手になる人もいれば、エンタテインメント系映画の作り手を目指す人もいるでしょう。いずれにしても、皆いつか「KINOHAUS」に戻ってきてもらいたいと思っています。アート系映画ならユーロスペースで上映されるような作品を作って欲しい、エンタテインメント映画なら古典化したときにシネマヴェーラ渋谷で上映されるような作品を作って欲しいと思います。

映画美学校 受講生.JPG――映画美学校への入学希望者にメッセージを。


松本 いつだったか、学校説明会に来た人から、映画コースのある大学に進学するべきか、それとも映画美学校に来たほうがいいかと率直に質問をされたことがあります。そのとき、私は大学に行った方がいいでしょうと言いました。なぜなら、映画美学校は、セカンドスクール型の学校であって何歳になってからでも、働きながらでも入学することができるからです。ただし、ここでひとつだけ強調しなければいけないのは、カルチャースクールではないということです。授業はそれなりに厳しいですし、あくまで世間に問うていく作品を作ることができる人材を育成するのが目的です。それを理解していただけるならば、何歳の方でも歓迎いたします。本気で、映画作家や脚本家や俳優を目指す方には、常に開かれている学校でありたいと思います。 

――どうもありがとうございました。

 このインタビューは、3月11日に発生した東日本大震災の前に行った。「KINOHAUS」内の各劇場も震災の影響により一部休館、スケジュール変更が行われたが、シネマヴェーラ渋谷は3月18日より、ユーロスペースは同26日より通常営業を再開した。オ―ディトリウム渋谷は4月16日より上映を始めることになった。映画美学校はカリキュラムの変更はあったものの、施設に損傷はなく、従来通りの映画教育活動をつづけている。新設した脚本コースとアクターズ・コースは5月に開講予定で、現在受講生を募集している。詳しくは、同校のホームページで。(了)


※関連リンク(外部サイトへ移動します)
 映画美学校ユーロスペースシネマヴェーラ渋谷コミュニティシネマセンター

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。


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