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「第64回カンヌ国際映画祭2011」レポート(7)

【FREE】「第64回カンヌ国際映画祭2011」レポート(7)

2011年05月24日

【カンヌ5月19日=映画ライター・岡田光由】

 第64回カンヌ国際映画祭は5月22日閉幕を迎え、授賞式が行われた。ロバート・デ・ニーロ審査員長から発表されたパルムドールは、大方の予想通りテレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」(アメリカ)に輝いた。主演&製作のブラッド・ピットが帰ったため、代わりにプロデューサーがトロフィーを受けた。授賞式後の記者会見にはフランスでの配給元ヨーロッパコープのリュック・ベッソンも出席した。

ジャン・デュジャルダン.jpg グランプリにはジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟による「自転車と少年(原題)」(ベルギー他)と「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アナトリア」(トルコ他)。監督賞は「ドライブ」(米国)のニコラス・ウィンディング・レフィン監督、審査員賞は女性監督マイウェンの「ポリス」(フランス)、脚本賞は「フットノート」(イスラエル)のジョゼフ・シダー、カメラドール(新人監督賞)は「ラス・アカシアス」(アルゼンチン他)のパブロ・ジオルゲリがそれぞれ受賞。中でもマイウェン監督の喜びようはひとしお。また監督賞のレフィンは主演のライアン・ゴスリングと共に記者会見に臨んだ。

 そして注目は男女優の演技賞で、「ジ・アーティスト」(フランス)で見事なタップダンスを披露したジャン・デュジャルダン(=右写真)が男優賞を、ナチ擁護発言で映画祭を追放されたラース・フォン・トリアー監督の「メランコリア」(デンマーク他)のキルステン・ダンストが女優賞を獲得した。ダンストはトリアー発言を気にしてか記者会見を欠席、その代わりにデュジャルダンが上機嫌に現れ、会見場を大いに盛り上げた。


○園子温監督作「恋の罪」が海外10か国からオファー

「恋の罪」園監督、神楽坂.jpg 5月19日夜、監督週間部門で「恋の罪」(日本公開11月)が上映され、園子温監督(=写真左)が出演者の神楽坂恵(=同右)と共に舞台挨拶に立った。

 この「恋の罪」は、前作「冷たい熱帯魚」に続き実際に起きた事件にインスパイアされて作られた3人の女性の愛とセックス、そして家族を通して、それぞれの生きざまを鮮烈に描いた物語。水野美紀、冨樫真、それに神楽坂恵が女優生命を賭けての大熱演も見ものの話題作でもある。上映後に日本のマスコミに向けての会見を開いた園監督は、「世界に向けて初めて上映したが、観客が喜んでくれて非常にうれしい。カンヌは最終的には行かなくてはならない所。別にカンヌのために作るわけではなく、自分に正直に映画を作りたい。その結果カンヌへ繋がるとうれしい。僕みたいに異端的立場の者がこうして作品を発表するチャンスをもらうと付加価値がつくので、映画祭はありがたい存在だ」と。

 さらに「大人の女性の性の心理問題について、いつか描かなくてはと思っていたので、この映画は3・11東日本大震災前だったこともあってすんなりと入っていけた。そして日本人の意識が変わる前の日本人をちゃんと描けたと思う。これが3・11以降だったら変わっていたかも」と語り、今取り掛かっている新作「ヒズミ」はシナリオも全部書き替えているほど。

 また神楽坂が演じる作家の貞淑な妻は園監督の母をイメージし、水野扮する刑事、冨樫の大学教授と環境を微妙にずらし、女性の心理は環境とは無関係なことを強調したとか。これからは海外でも映画を作りたいという園監督。「恋の罪」は約10か国から配給のオファーがあり、香港と英国での上映が決まった。


○宮崎光代監督の短編がカンヌで特別上映

宮崎光代監督.jpg 今年のカンヌは日本人監督が目立つ中、もう一人の日本人女性監督がカンヌでデビューを果たした。大阪出身で、17歳で交換留学生として渡米、南ユタ州立大学で演劇などを学び、今は主にロサンゼルスで女優やカメラマンとし活躍する宮崎光代(=右写真)で、彼女が監督&脚本&製作を手掛けた短編「TSUYAKO」がショートフィルム・コーナーで出展&上映された。

 この「TSUYAKO」は、彼女が最近学んだ南カリフォルニア大学(USC)の映画芸術学部大学院の卒業製作作品でもある。製作のきっかけは祖母の10回忌の時に出て来た一枚の古い写真だった。それは祖母ともう一人の女性が見つめ合うようにして写っていたもので、それから祖母の人生を調べるうちに、愛と自由を全うしようとした日本女性の切ない姿が浮かび上がり、それを映像にしたという。時代は戦後の復興期で、妻として、幼い子供二人の母親として町工場で懸命に働くツヤ子のもとに、かつての恋人・良江が現れ、東京で一緒に生活しようと誘う。そして苦しみ悩むツヤ子とその決意を描いていく。

 「祖母は昔からスカートは一切はかず、男の人のような格好をしていましたね。優しい祖父の後妻に入って、双子を産んだりしながら厳しい姑に仕えたようです。昔の日本ではタブーとされるような同性愛が現実にも身近にあったことを知って驚いたと同時に、祖母のことをぜひ映画にしようと、写真を見た時にすぐに思いました。そして、割とオープンな考えの母から許しを得て製作を進めたのです」とカンヌで宮崎監督は語ってくれた。なおこの「TSUYAKO」は6月に日本で開催のショートフィルムフェスティバルでも上映が決まった。

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。