太秦配給『福田村事件』の記者会見が21日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で行われ、森達也監督、新聞記者役として出演した木竜麻生が出席した。
関東大震災から5日後の9月6日、千葉県の福田村に住む100人以上の村人たちにより、朝鮮人と疑われた香川からの行商団が襲われ、9人が殺された実際の事件を題材に映画化。情報に惑わされ、不安や恐怖に煽られた群集が暴徒化する恐ろしさを描く。22年前にこの事件を知り、映像化を望んできたという森監督は「(『A』の撮影で)オウムの施設に入ったとき、信者は善良で穏やかだった。しかしメディアは危険な集団だと報道した。全然危険ではなかったが、指示されれば彼らはサリンを撒いていたと思う。その時に善と悪とは何かと考えた。それからアウシュビッツやザクセンハウゼン、カンボジアのキリングフィールドと虐殺の跡地を訪ねたが、やはり思うことは同じ。穏やかな普通の人たちが、ある条件のもとでは残虐な行いをする。たぶん人間はそういう存在なんだろうと思う。キーワードは『集団』。そして『不安と恐怖』。この2つが揃った時に人は変わってしまう。特に日本はそういう歴史を繰り返してきている。でもその歴史を最近軽視する傾向が強くなっている。であれば、映画でちゃんとそれを見せるしかないと思った」と制作した目的を語った。
また、森監督は福田村事件の映像化にあたり、企画を持ち込んだテレビ局や大手映画会社からは断られてきた経緯を明かし、「作っても日本人は誰も見てくれないという気持ち、抗議があって面倒くさいこともあるんだと思う。そういう雰囲気は日本全体に広がっていると思う」と語り、続けて「僕は日本の戦後の在り方が大きな間違いを犯したと思っている。戦争のメモリアルデーは8月6日、9日、15日の広島・長崎・終戦。あとは沖縄や東京大空襲。全部被害の記憶で、加害のメモリアルが全然ない。ドイツのメモリアルデーはアウシュビッツ解放の日と、ヒトラー組閣の日だと聞いた。日本とは真逆で、ドイツは、なぜヒトラーを支持したのかを戦後考えている。日本は、なぜ自分たちはこんなひどい目にあったのか、そして戦争の始まりではなく終わりを起点にしてしまったため、ずっと戦後復興が物語になってしまった。その結果自分たちの加害性は認めず、あんな残虐なことをする人はケダモノだと思ってしまう。ケダモノではなく、人間とはそういう存在なんだという認識を持てずに70何年経ってしまった。それが今の日本だと思う」と持論を展開した。
また、出演へのリスクを問われた木竜は「実感はない。脚本が面白かった。俳優として参加できることを嬉しく思うし、全力で向かうことができた」と充実した表情を浮かべた。
公開は9月1日(金)。初週は50館規模で公開し、現時点で累計約90館での上映が決まっている。企画は荒井晴彦、統括プロデューサーは小林三四郎、出演は井浦新、田中麗奈、永山瑛太など。製作はテンカラット、カタログハウス、辻野弥生、ピカンテサーカス、MBS、ドッグシュガー、太秦。制作プロダクションはドッグシュガー。