【ロサンゼルス=Mutsumi Lee】
近年の映画を語る上でA24の存在は無視できない。低予算で癖の強い作品を多く扱いながら、ムーンライト、ルーム、エクス・マキナ、レディ・バード、フロリダ・プロジェクトなどアカデミー受賞やノミネートも数多い。シネコンのAMCでよく映画を観るのだが、予告編にはほぼ毎回A24の作品が入っている。近年は年間15~20本近くを配給しており劇場で目にしないほうが少ない。
世界のインディペンデントフィルムメイカーがA24に憧れる最も大きな理由は、作家性を重視しながらもビジネスとして成り立たせてくれる点ではないだろうか。この点においてなぜA24が強いのか。
日本でA24の評価を検索すると、良い作品を取り扱う審美眼がいかに優れているかという評価がほとんどだ。しかしクオリティだけでは、このサイズの作品で市場にインパクトを与え続けることは不可能だと私は思う。A24を、まるでシリコンバレーのスタートアップのようだという評価をする人たちもいる。私もまさにその感覚がしっくり来る。
A24のマーケティング戦略は、今までの映画業界の手法にとらわれていない。そして映画の潜在顧客を見つけ出しタッチするためにあらゆる手段を取っている。シリコンバレーにあるデータマーケティング会社や世界市場の動向をリサーチ分析するスペシャリストと提携し、作品の需要がどこに存在するか徹底的に調べる。宣伝時のビジュアルブランディングも非常に重視し、世界的なデザインエージェンシーによってディレクションされている。ムーンライトの年代別の主人公コラージュするポスターなど心に残るビジュアルが多いのもそのおかげだ。
彼らは「良い作品を扱えば結果が出るはず」という夢見がちなことは一ミリも考えていない。業界の中のポジショニングを明確にし、扱う作品の個性含めてA24そのものをブランド化し、誰か一人のカリスマ性ではなくA24というチームワークを重視したビジネスを行っている。
映画では「そこそこのヒット」を毎年1、2本確保しながら、全体の興行収入は1本あたり平均6~7億円程度となっており、劇場公開の収益に依存するのではなく、作品とA24のブランディングという側面の強さを感じる。その裏ではTV番組の開発、DirecTV CinemaやAmazon Primeとの配信契約、アップルとコンテンツパートナーシップなど、多角的なコンテンツビジネスを行っている。これは収益確保とリスク分散だけではなく、様々な業種とのビジネスによって新しい知見を得てエンターテイメントビジネスに役立てていくという戦略もあるようだ。
私も含め日本のフィルムメイカーは、どうしても感性への期待や称賛が大きくなりがちで、重要な点を見逃すことが多いのではないだろうか。今後も引き続きA24のマーケティング手法に注目し、冷静に分析して行きたい。日本市場でも通用する戦略はきっと少なくないはずだ。