黒沢清監督の海外進出作品『ダゲレオタイプの女』は9月8日、第41回トロント国際映画祭でワールドプレミア上映され、1000席近い会場が満席になるほどの盛況ぶりだった。現地に赴いた黒沢監督は14日、主演のタハール・ラヒムと共に帰国。両氏出席の記者会見が15日、赤坂のWOWOW本社で行われた。
同作は最古の写真撮影方法「ダゲレオタイプ」を巡った、ホラー・ラブロマンス。芸術と愛情を混同した写真家の父(オリヴィエ・グルメ)の犠牲になる娘(コンスタンス・ルソー)と、撮影を目撃しながらも娘に心を奪われていく男(タハール)の、美しくも儚い愛と悲劇の物語。
会見ではトロントに触れた場面があった。黒沢監督は、「意外にも会場のあちこちで笑いが起きた。好意的な笑いだったと思う。登場人物に同調し、のめり込んでくれた」とレポートした。
タハールについて、黒沢は、「対面した時、『僕の映画の世界観にふさわしい人物』と直感が働いた」とオファーの経緯を語り、「精密で力強い表現者」と才能を称えた。タハールは、「黒沢監督の映画は、大学時代に勉強して知っていたが、出演できて光栄。彼の最新作をすぐに観ることのできる日本の皆さまが羨ましい」と話した。
海外進出作品ということに関して、黒沢監督は、「昔から、チャンスがあればと思っていた。日本の映画人なら誰でも考えていることでしょう。フランスの方々が、私の映画を幾つか観て頂けている背景も手伝い、フランス在住の日本人プロデューサーとの縁に繋がった」と説明。「ダゲレオタイプ」の企画は数年前から温めていたが、フランスで撮るにあたって、「ラブストーリー部分を発展させていった」(黒沢監督)とも語った。タハールが、役作りについて、「監督の持つ世界観を理解することを心掛けている。今回は表面的な部分では、『スケアクロウ』のアル・パチーノを参考にした」と語ると、黒沢監督は「初めて聞きました」と頬をゆるめた。
最後に、黒沢監督は、「日本人がフランスで撮ったということよりも、最新のフランス映画として観てほしい」とアピールした。10月15日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開。