東宝は、まるでイチローみたいになってきたな。米国の野球シーズンではイチローがヒットを打たないと、話題になることがある。昨年はいささかトーンダウンしてきたとはいえ、ヒットを打ち続けている者の宿命というより、それはイチローだからこその特異な現象だと言える。
ヒット連発の東宝もまた、ヒットを出さないと、話題になることが多くなってきた。これは、冗談ではない。もちろん、イチローほどではないが(当たり前だ。ニュースで報じられるわけではない)、ヒットしないと、映画業界で驚かれるようになってきたのは、事実だと言っていい。ではこれは、果たして映画界にとって望ましいことなのかどうか。
そのヒットしなかった作品とは、自然ドキュメンタリーの「日本列島 いきものたちの物語」で、2月4、5日の成績は動員6万8228人・興収8021万4800円だった。スクリーン数は276だったから、かなり物足りないスタートであった。最終10億円は遠い。
東宝は、ドキュメンタリーだからといって、300スクリーン近いブッキングをもってきたわけだから、勝負をかけてきている。ただ、いい企画なのだが、中身が少しまっとう過ぎたのかもしれない。ストレート勝負のなかに、より関心を増幅させる何らかのアクセント的な描写が欲しかった気もした。
ヒットしなかった “話題” の裏で、こんなこともあった。1月下旬(1月28、29日)と2月上旬(2月4、5日)の興行ランキング(興行通信)で、東宝の配給作品が3位までを独占したのである。「日本列島~」さえ、3位に食い込んでいる。これでは、先のイチローどころの話ではない。東宝配給作品がヒットしようがしまいが、上位を独占している現状が問題ではないのか。
4位は「ペントハウス」で、2日間で6万7967人・8635万9000円。作品の中身や215スクリーンの館数を見れば、こんなものであろうが、問題は早くも10位落ちの「J・エドガー」である。こちらは、勝負放棄と言って差し支えない。
東宝配給作品がヒットしないこと以上に、この2月に至った段階でも、他社が大きな勝負をかけてこないことが、私は大問題だと思う。それは文字通り、 “縮小” を意味するのである。
(大高宏雄)