【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.65】
「ミッション~」、宣伝コピーに目を見張る
2012年01月31日
映画興行を推し進める上で、とても重要な意味をもつ宣伝について一つ気になったことがあったので、今回はそのことについて記す。その宣伝とは、新聞で見たある映画のコピーのことである。
先週の金曜日夕方、日経夕刊に掲載されていた“シネマ最前線”という記事の下に、「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」の広告を見つけた私は、思わず目を見張った。大きな文字で、“まもなく50億円!もうすぐ50歳! まだまだミッション、よろしくクルーズ!!”。右には、“週末は映画館で作戦会議”とあり、中央上には少し小さい文字で、“理想の上司 イーサン・ハント、業績トップを独走中!”とあったからである。
「オヤジギャグか」と見まがうようなそうした文字の羅列に、私は思わず大笑いしてしまった。こんなことが、まだできるのか。パラマウントさん、どうしたんだ。という老婆心より、やってくれたかといった気持のほうが強かった。バカバカしいのは確かだが、面白いのである。目を引くのである。この発想は、今の私にはないな。それは、他の配給会社の方々も同じではなかったろうか。
この愛僑たっぷりの宣伝コピーを見て、私は大昔、映画会社の大映が使った新聞広告のコピーを思い出した。ある作品が大コケしたので、コピーに何と“驚いた。驚いた”という字句を載せたのである。大コケして、配給会社が“驚いた”もないものだが、その稚気あふれる言葉が、何故か私のなかでしっかりと残っていて、その言葉が今回、わが脳裏を駆け巡ったのだった。
この両者の字句から、映画の宣伝コピー、ひいては映画の宣伝全般の原点を、今一度反芻してみる必要があるのではないか。両者に共通しているのは、一見、バカバカしくもあるのだが、人々の心に強く残る言葉の引き出しであった。そうした字句を、納得いくまで考えつくすことの必要性であった。
それらは、直接的な効果があるかどうかはわからない。さらに、正しいマーケティングからして、それらが最適かどうかはわからない。だが、常識はずれのインパクトある言葉を引き出す手腕と、それを現実化していく“政治力”が、今の映画界に欠けているのは、まぎれもない事実なのである。
まずは、やってみることである。常識を疑って。少なくとも、先の“まもなく50歳~”は、近年の洋画宣伝のなかで、記憶に残ったことは確かだろう。さて、次はどこがやってくれるのか。
(大高宏雄)