【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.163】
「近キョリ恋愛」、東宝映像事業部のこと
2014年10月24日
今週月曜日(10月20日)、米メジャー系洋画配給会社の営業責任者から連絡が入った。「近キョリ恋愛」が、週末(18、19日)の興行ランキングで、1位になったというのである。明らかに驚いていた。
実は、「近キョリ恋愛」は、前週(11、12日)も、興収ではトップだった。だが、公式の興行ランキング(興行通信)は、動員(入場人員)計算によるものなので、この週は2位であった。それが、2週目の土日は動員、興収双方で1位となり、まさにさきのような驚きの声が上がったのである。
驚きの原因は、配給が東宝の映像事業部だったことによる。翌日、別の方とも、その件で話をした。こちらも、米メジャー系洋画配給会社の営業責任者だったので、この“映像事業部”に、洋画関係者がよほど関心をもっているようだった。私にすれば、それは東宝(の配給事業)への脅威に聞こえたのである。
東宝では、通常は映画営業部が映画を配給する。毎週、興行ランキングを賑わせる東宝の配給作品は、映画営業部が窓口である。だいたい、200スクリーンから300スクリーン台の公開規模となる。多いときでは、「永遠の0」や「思い出のマーニー」のように、400スクリーンを超えるときもある。
映像事業部は、ODS(非映画デジタルコンテンツ)などを扱う(配給する)部署である。DVD(ビデオ)発売なども大きな事業であるが、近年はこのODS事業が大きくなってきた。それに伴い、ODS以外の“映画”の配給も行うようになってきた。
ここで、東宝のなかで、公開規模の棲み分けができている。さきのように、200~300スクリーン台規模であるなら、当然映画営業部が担当する。それが、150スクリーン以下の邦画となると、映像事業部が扱うことも可能なのである。最近では、竹野内豊主演の「ニシノユキヒコの恋と冒険」が、それだ。ここに今回、新たに「近キョリ恋愛」が加わった経緯がある。
ただし、「近キョリ恋愛」は、150スクリーンを超えて、179スクリーンでの公開だった。境界線を超えたのである。まあ、今のところ、そのあたりの境界は曖昧というより、ある種の融通性があったと判断したほうがいい。東宝内部では、限界点ギリギリといった感じだったろう。
10月18、19日は、全国で今年最低レベルの興行だった。新作の強力作がなく、若い女性観客が来やすい土日型の「近キョリ恋愛」が、“漁夫の利”を得たとも言えようか。
とはいえ、映画が面白くなくては、女性たちにも見捨てられよう。「近キョリ恋愛」は、なかなか面白いのである。主役の山下智久は、男っぽい風情のなかに、亡き父との軋轢をかかえたナイーブさをかもし、ファンの女性たちからしたら、たまらないだろう。加えて、相手役の小松菜奈が、存在感たっぷりに、年上の山下と渡り合う。山下が、嘘をつけない自身の性格を、絞り出すかのように、彼女に愛を投げかける。そのときどきの彼女の表情と動作が、とてもいいのだ。
「近キョリ恋愛」は、多くの人に見てもらいたい作品だ。男性でも女性でも、映画が丁寧に描いた恋愛の不確かさと危うさに、思わず引き込まれることだろう。
(大高宏雄)