高校を卒業して東京に初めて出てきた時、物見遊山で行ったのが東京・原宿のペニーレインだった。シンガーソングライター吉田拓郎の名曲「ペニーレインでバーボン」で知られていた。
♪原宿ペニーレインで飲んだくれている。ペニーレインでバーボンを…
当時、特に酒を飲んでいたわけじゃないので、店内には入ることはなかったが、店(の外観)を見た時は「東京に来た…」と、妙に実感したものだ。と言うより、そんな時代だったかもしれない。
原宿ペニーレインは、73年にフォーライフミュージックの後藤由多加社長(当時はユイ音楽工房社長だった)がオープンさせた。ビートルズの曲を店名にし、店内ではビートルズの曲が流れていたという。店には、フォーク、ニューミュージック系といわれるミュージシャンからファッション関係者まで幅広い人が集まっていたそうだ。
この店を有名にしたのは、オープンの翌年――74年(昭和48年)に発表され大ヒットした吉田拓郎の名曲「ペニーレインでバーボンを」だったわけだ。大人や社会に対する若者の屈折した思いを、この店での出来事に見立て吉田拓郎が歌った作品だったが、当時、高校生だった筆者はイメージの中で「どんな店なのだろう…」と興味を抱いた(もっとも今、思い起こすと「興味を抱いたような気がする…」と言った方が適切かもしれないが…)。
いずれにしても東京に出てきて、原宿ペニーレインを目の当たりにした時は、
「これが、ペニーレインかぁ…」。
それだけで満足していたような気がする。
歌の世界と言うのは、そういう部分があるのかもしれない。
その原宿ペニーレインも、客層などの変化に伴い1990年に閉店した。が、全国から「再開」を望む声が殺到、閉店から16年後の06年5月5日に再オープンした。そして、今度は、その原宿ペニーレインが舞台化されることになった。
哀川翔と小西真奈美、安倍なつみらが出演し「あの頃僕らはペニーレインで」と題して5月に東京・日本橋三井ホールで開催される。70~80年代の青春群像をノスタルジックに描くという。
企画したのはフォーライフミュージックの後藤社長。
文化通信社が2回に亘って開催した――松山千春の青春時代を描いた舞台「旅立ち~足寄より~」を観た後藤社長がイメージを膨らめたものだという。
「あの時代へのノスタルジー、時代を体現した音楽、そして青春と言う永遠のテーマを舞台で描きたいと思った。時代は70年代まで遡り、80年代を描き、そして現代にも展開する朗読、音楽、演劇にしていきたい。あの頃、僕らがペニーレインで見た夢が時代を越えて蘇らせていきたい」(後藤社長)と言う。
「エイジ」で山本周五郎賞、「ビタミンF」で直木賞、「十字架」で吉川英治文学賞などを受賞してきた作家の重松清氏が初めて舞台劇を書き下す。演出は「東京ラブストーリー」や「ひとつ屋根の下」「ロングバケーション」など、フジテレビで青春ドラマを多数出がけてきた永山耕三氏が手掛ける。
公演はゴールデンウィークの5月3日から5日まで東京・日本橋三井ホールで全6公演を予定しているという。どんな舞台になるのか、今から楽しみである。
(渡邉裕二)