昨年12月、私は今年の東宝のラインナップを見て、「全く隙がない」と某所で発言したことがある。これには2つ意味があって、隙がないのは安定感が抜きん出ていることを示すとともに、そこには意外性が減っているのではないかということも、暗に含ませたのであった。
安定感からは、そこそこの数字が見込まれる。しかし、意外性が見えないから、予想もできないようなヒットに結びつく機会が少なくなる。そういう意味でもあったのである。さて、公開中である東宝配給作品の以下の興行成績を見てもらおう(7月3日現在)。私が言った意味が、そこからは多少なりともうかがえるのではないかと思う。
「アンダルシア 女神の報復」=動員63万6678人・興収7億5351万5100円(9日間)。「星守る犬」=65万6460人・7億5466万6950円(23日間)。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」=66万3046人・8億0995万9750円(30日間)。「プリンセス トヨトミ」=120万7126人・14億9955万9700円(37日間)。「岳‐ガク‐」=131万3934人・15億7876万1720円(58日間)。
ここから、何が読み取れるか。10億円に到達できない作品が2本(「星守る犬」「もしドラ」)。20億円に到達できない作品が2本(「プリンセス~」「岳~」)。20億円に到達できたとしても、前作「アマルフィ 女神の報酬」(36億5千万円)を超えるのは難しい「アンダルシア~」。はっきり言えば、安定感のレベルが総体的に下がり、意外性がかなり遠のいたということであろうか。
これらの結果が他社の作品であるならば、全く問題ないというより、よくやったということになる。しかし、東宝の場合はそうならない。当然、目標が高いからだが、その目指すべき安定感が、いささか低下気味になっていることが、少し緊急事態ではないかと私は思うのだ。
「隙がない」。それは、諸刃の刃でもある。安定感は中身のほどほどさに通じ、それは今の目が肥えた観客からすると、関心の希薄さに直結しかねない。つまり安定感とは、一気に退屈さに転じかねない危うさをもっている要素でもあると言えようか。
年間の番組のなかで、安定感を維持することはもちろん重要である。しかし、それだけでは、物足りないことを、先の5作品の成績は指し示している。いい反省材料ができたのではないか。
(大高宏雄)