地震と津波のW災害というのは、記憶では北海道・奥尻島大地震以来かもしれない。
ただ、今回の場合は被害規模が違う。また、災害当日、被災地にいて命かながら逃げたアーティストもいた。
昨年、「INORI~祈り~」が話題となって「紅白」にも出場した歌手のクミコだ。
そのクミコは、大震災のあった11日、宮城県の石巻市文化会館でコンサートを予定していた。地震が起こった14時46分頃は丁度、公演に先駆けてのリハーサルが追い込みに入っていた。そこに、国内観測史上最大のマグニチュード9.0という大地震が発生した。
ステージ上の楽器や、コンサート設備は揺れ落ち、立っていられない状態になった。ステージ上の照明も消え、落ちてくるものも。会場は一瞬のうちに地獄絵巻となった。
スタッフは、クミコを抱え楽屋に戻り、すぐに会場を離れることを決断したと言う。地震と同時に「大津波警報」が出た。事務所関係者は、コンサートスタッフと話し合い、とりあえず高台に避難することを決断したそうだが、その機転が功を奏した。高台に避難する間に大津波が押し寄せ、会場周辺は津波によって崩壊状態となった。まさに九死に一生を得た。
石巻市内は道路が寸断され、路上には大破した車があちこちに転がっていた。津波によって流された車。旧北上川の岸辺には何隻もの船が乗り上げていたというすっかり変貌した街のあちこちで、市民が呆然と立ちすくんでいたという。
そんな石巻の光景を高台から目撃したクミコは言葉を失い放心状態だったという。
クミコの歌う「INORI~祈り~」は、昨年2月に発売されたもので、被爆地・広島平和記念公園にある「原爆の子の像」のモデル・佐々木禎子さんの甥にあたる歌手・佐々木祐滋さんが禎子さんと平和への想いを綴った作品だった。
平和への想いを歌い続けてきたクミコが、まさか大震災に遭遇するとは…。
大震災の晩は、何とか仙台市内に戻ってきたそうだが、会場の石巻市民文化会館周辺は深い海水に漬かった。会場で準備してくれていたスタッフは…。コンサートを楽しみにしてくれていたファンは…。クミコの精神的ショックは一生消えることがないかもしれない。
大震災から5日が経ったが、いまだに被災地はゴッタ返し、被害状況も掴みきれない状態だ。すでに、海外には被災地へのアクションを出しているアーティストも増えている。日本でも、そういった動きが出始めているが、果たして何が出来るのか? 今こそ冷静に考えなければならないのも事実だろう。
(渡邉裕二)