小澤征爾の“復活アルバム”
2011年01月27日
食道がんを克服して1月26日に発売された指揮者・小澤征爾のライブCD「奇蹟のニューヨーク・ライヴ」が評判になっている。オリコンによるデイリー・チャートでも17位にランクされるなど、クラシック・アルバムとしては異例の出足である。小澤と言えば、9年前の1月に発売された「ニュー・イヤー・コンサート2002」が100万枚を突破するセールスになって、クラシック・アルバムの金字塔を打ちたてたが、今回のアルバムは、9年ぶりに自身のアルバムを上回ることが出来るのかが注目されるところだ。
それにしても、2月23日には、やはり食道がんを克服したサザンオールスターズの桑田佳祐のソロ・アルバムも発売される。AKB48や嵐のセールスばかりが話題になっている昨今の音楽業界だが、年明け早々、小澤や桑田のアルバム・セールスが注目されるのはCD低迷に悩むレコード産業にとって大きな起爆剤、活性化になるに違いない。
ライブCD「奇蹟のニューヨーク・ライヴ」は、昨年1月に食道がんの手術を受け、療養してきた小澤征爾が“完全復活”を果たし、昨年12月14日に米ニューヨーク・カーネギーホールで行った公演の模様を収録したもの。「小澤征爾と言えばこの作品」という、いわば十八番の作品「ブラームス 交響曲第1番 ハ短調」をサイトウ・キネン・オーケストラが演奏している。
このアルバムの特徴は、公演からCD発売日までの期間を極力短くしていることだ。
100万枚を突破した9年前の「ニュー・イヤー・コンサート2002」の場合、02年にウィーン国立歌劇場の音楽監督に日本人としては初めて就任した小澤が、その年の1月1日にウィーンフィルハーモニー管弦楽団を指揮した演奏会を収録し、公演から僅か19日後に発売したことがビッグ・セールスに結びついた。要は、話題が冷めないうちに発売したことが好セールスに結びついたことになる。そういった意味では、今回の「奇蹟のニューヨーク・ライヴ」も同じ。公演から僅か40日後にCDを発売するというスピーディーさが評判を高める要因になったと言っていいだろう。
発売当日、東京・銀座の山野楽器本店には、アルバムを求めて100人以上の列が出来たというのも凄いことだった。発売のユニバーサルミュージックは「クラシックのアルバムとしては前例のないこと」と驚きを隠しきれなかった。しかも、同社によると、発売前から2万枚の予約が殺到したといい「クラシックCDとしては記録的な数字」と言い切っていた。
山野楽器本店は、東京・銀座と言う土地柄もあり、購買層は中高年が圧倒的なだけに、同店は、「超強力作品」として同アルバムを推してきた。その結果、同店は「発売日だけで1000枚以上を売り上げる」ほどの盛況振りとなった。同店によると、クラシック予約数では、これまでは09年に発売された盲目のピアニスト辻井伸行「感動のヴァン・クライバーン・コンクール・ライブ」が最高だったが今回、小澤征爾がその記録を僅か1年で塗り替えてしまったことになる。
いずれにしても、昨年、食道がんに侵されながらも見事に復活した小澤征爾と桑田佳祐が11年初頭のレコード産業で大きな話題を作ることを単なる偶然と思いたくない。
(渡邉裕二)