漫画家・赤塚不二夫さんの言葉…
2010年12月08日
漫画家の赤塚不二夫さんが亡くなったのは2年前の08年8月2日のことだった。入院先の東京・文京区の順天堂大学病院で肺炎のため亡くなった。72歳だった。
赤塚さんは、小学校の時に漫画家の手塚治虫の作品に感激し漫画家を志した。53年に上京し、漫画雑誌への投稿を重ねた。56年に「嵐をこえて」でデビュー。東京都豊島区椎名町にあったアパート「トキワ荘」に転居し、石ノ森章太郎や藤子不二雄らと過ごした。62年に「おそ松くん」「ひみつのアッコちゃん」が爆発的にヒット。その後「天才バカボン」「もーれつア太郎」などのヒット作を連発した。赤塚さんの一連のギャグは人気だった。
しかし、97年12月に自宅で吐血して入院、検査の結果、食道がんと判明。その後も急性硬膜下血腫や脳内出血で緊急手術を受け、2002年以降は創作活動を休止していた。
僕が赤塚さんと最初に会ったのは、食道がんが判明し、退院した後の98年6月だった。その後、何度か自宅に伺い、赤塚さんと話した。眞知子夫人にもよくしてもらった。しかし、その眞知子夫人も06年に亡くなった。
赤塚さんと最後に会ったのは01年の秋だった。02年4月に脳内出血を起こし入院。闘病生活が続いたこともあって会う機会はなくなった。
赤塚さんは実にインパクトがあった。特に話される内容というのは実に的を射ていた。思い起こせば、懐かしい。その時の話を今回は記しておきたい。
「トキワ荘に入りたての頃、手塚治虫先生から『君たちは漫画家になりたいのか』って言われたんですよ。当たり前のことですよね。だって漫画家になりたくって地方から出てきたんですから。そうしたら、手塚先生が『漫画家になりたいなら人の描いた漫画を絶対に読むな』って言われたんです。『漫画から漫画を学ぶのはやめなさい』って。つまり、手塚先生は『その人に追いついても、絶対に追い越せない』と。要するにオリジナルなものを描けと言うわけですよ。そのために『一流の映画を観ろ!』『一流の音楽を聴け!』『芝居を観ろ!』『本を読め!』と言われたんです。しかも『例え、理解出来なくても実行しろ。それから漫画を描け』と。で、みんな手塚先生の指示に従いましたよ。僕は映画を観ました。観たというより観まくったという感じかな。邦画も洋画も観ましたが、特に僕はアメリカ映画が好きでしたね。それもドタバタ映画。僕は、そこから自分の漫画の世界を見つけようって思っていたわけだ。というのは、当時は、まだ“ギャグ漫画”というのがなくって“お笑い漫画”と言っていたんだけど、そういった漫画はみんな落語が下敷きになっていたわけ。だから、内容展開も比較的のんびりしていたんだな。そこで、僕はアメリカ映画のドタバタ・ギャグを何とか漫画の中に取り入れられないかって。何故かって、アメリカのギャグっていうのはテンポが早くって、とにかく面白かった。僕は、そういった映画を観まくって、とにかくギャグの勉強をしたわけ。で、描き上げたのが『おそ松くん』だったんですよ」
「今の若い奴らは絵を書かせれば上手いよ。ペンタッチもいいしね。でも、どれもこれも似たような絵ばかり書いている。だから、書いている人の個性がないんだ。それに、今の出版社だって見てみなよ。雑誌を作っている編集者にだってバカが多いんだから。編集長にもロクな奴がいないよ。『オレは編集長だ!』なって言ったって、どんな雑誌を作ろうなんて思ってもいない、みんな横並び。どこかのマネばかりじゃないの。『○×の本が売れているようだから、同じようなものを作ろう』なんて、すぐ右に習ってしまうわけでしょ…。まあ、編集部に入ってわけの分からないうちに編集長になっているんだから、仕方がないんだけどね。かと言って、メチャクチャ張り切っている奴もいるよ。でもそういった奴らは、逆にワケの分からないモノを作ってしまう。もちろん、物凄く弾けた優秀な奴もいるんだけど。それにしたって、全体的にバカが多過ぎるよ、今は…」
「今の時代っていうのは一般大衆の意識レベルが下がってきちゃっているわけ。同時に、出版社に限らず、それこそ政治家だって同じなんだけど、その道のプロがいなくなっちゃった。ありとあらゆるジャンルの中からプロがいなくなっちゃった。僕たちマンガの世界ばかりじゃなくって、この世の中の、ありとあらゆる文化というのは、いろいろな先輩たちによって築かれ育ててきた部分っていうのがあるんですよ。ところが、最近の若い奴らには、そういった文化を受け継いでも育てられない。そういったところに何か歯痒さを感じるんだよね、僕は…。確かに、僕の若い頃だって『今の若い奴らは…』って言われたよ。だから、あまり大きなこと言えないんだけど、そう考えたって、今の若い奴らはダメになったね。要するに、ここ何十年というもの子供の数が減少してきているものだから、子供は宝物だよ。“お宝”なんだよね。だから悪いことをしても誰も殴らないし、親の躾もなってない。親なんて何かあったら学校の責任にしちゃうわけだから、マトモな教育なんて出来るはずないじゃないですか。しかも、そういった育てられ方をしてきた子供が大人になって、子供を作って育てちゃっているんだから、ヤバイわけ。もう、そうなったら自民党の総裁に誰が選ばれたとか、首相に誰がなったとか、そんなことで一喜一憂していられないんだよ。根本的なことから考え直していかないと大変なことになっちゃうんじゃないの」
渡邉裕二