YouTubeとCDセールス
2010年12月01日
レコード産業の業績が落ち続けている。すでに12年連続で前年割れすることは確実だ。
何年か前に「底を打った」と言われたものだが…、そういった意味では、もはやレコード産業は底なし沼か蟻地獄にでも嵌ってしまった感じもする。
10月の「音楽ソフト」の生産実績を見ただけでも売上高は前年同期の2596億9900万円を12%も減少する2274億4800万円に。2500億円台を割り、10年の音楽ソフトは3000億円台を大きく割る可能性も出てきた。音楽業界は80年代のカタログが活性化されているが、売上げも80年代に逆戻りしてしまった。
もっとも11月は、いきものがかりや福山雅治、宇多田ヒカルなどのアルバムがあったし、12月もDREAMS COME TRUEを始めMr.childrenのアルバムなど、強力作品が多数出てくる。そのアルバム・セールスで、どれだけ売上げを伸ばすかが大きな鍵になってきた。
そういった中で、期待していた宇多田ヒカルのアルバム「Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2」のセールスが思ったより伸びない。来年から無期限で活動を停止する宇多田の、総決算ともいうべきベストアルバムだっただけに「もう少し」という思いはあった。
オリコンによると、いきものがかりが約46万枚で、福山雅治は38万枚。しかし、宇多田ヒカルは23万枚。確かにデビュー以来7作連続の首位獲得は史上初めての記録らしいが、ちょっと元気がない。
アルバム発売前、宇多田は、ユニバーサルが発売を決定した海外版のベストアルバム「UTADA~utada the best」に対して、自身のツイッターで批判するなど、さまざまな波紋を巻き起こしてきた。その手法に対して筆者は、いささか疑問を持ったが、今回のセールスには大きな影響はなかっただろう。
それより、宇多田側がYouTubeに流した無料のプロモーション・ビデオ(PV)は、少なくともセールスに影響を与えたはずである。もちろん、データがないので、どの程度の影響があったかは分からないが、宇多田は、デビュー以来、作ってきたPV26作品を総てYouTubeにアップした。
今の時代、信じがたいことだがYouTubeで音楽を聴いて満足してしまうユーザーが多い。正直言って音質などは気にしていない。それどころか、YouTubeからダウンロードも可能である。CDのセールスは言うまでもなく低迷している。そういった状況下で、いくらプロモーションだからといっても、これは明らかに自殺行為だったのではないか?
アーティストとしては、1人でも多くの人に自身の作品を届けたいという気持ちもあるはずだ。それは理解できる。しかし、その作品が世に出るまでには多くの人が携わっている。そういった意味でも、1つ1つの作品には対価があってしかるべきだろうと考える。
今回のYouTubeに楽曲をアップしたことで宇多田のアルバムにどれだけ影響があったのかは必ずしも断定は出来ない。しかし、数万、もしかしたら十数万単位での影響があったとも言えなくもない。
何でもタダで見たり聴いたり出来る…それではプロモーションにも何にもならない。もう一度、原点に戻って考える時期に来ているのではないか? もっとも、その原点も1人ひとり考えが違うのかもしれないが…。
渡邉裕二