いきものがかりの人気に思う
2010年11月17日
男女3人のユニット、いきものがかりが売れている。
11月3日発売した初の2枚組ベスト・アルバム「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」は、1週間で45万枚を売上げた。2位のボン・ジョヴィを40万枚も突き離しての1位だった。しかも、2週目も20万7000枚を売り上げているから、セールス的には発売2週間で66万枚を超えたことになる。
出荷枚数も100万枚を超えたというから、このまま推移したら嵐に続いて売上げ実数もミリオンを達成する可能性は大である。ただ、凄いのは2枚組CDだということだ。と言うことは、実質的には100万枚を超えているという計算になる。まさにCD低迷時代の救世主だ。
言うまでもなく、今の音楽産業の抱える悩みは、音楽配信とパッケージ製品のバランスである。理想は両者がバランスよく突き進むことである。しかし、そう理想通りにはいかない。若者の音楽スタイルは音楽配信に向かっていることは否めない。
日本レコード協会の調べによる「レコード生産実績」を見ても、音楽パッケージは衰退化の一途を辿り、すでに12年連続で前年割れは確実だ。売り上げ的にも、おそらく80年代前半と同等になってしまっている。
CDが売れない…これは、今や音楽産業の大きなジレンマになっている。
そういった中で、嵐やいきものがかりのCDセールスは、大きな起爆剤になるはずだ。
やはり、CDセールスの基本は優れた楽曲とアーティストのキャラクターに尽きる。
いきものがかりの楽曲に関しては「狙っている」と言った声もあるが、基本は、歌謡曲の王道だということだろう。しかも、3人が作詞、作曲が出来ると言うのも大きな武器ではあるが、ファン層が幅広いのも強み。それは何と言っても吉岡聖恵のボーカルが大きな魅力となっている。つまり、いきものがかりは楽曲とボーカル、さらにアーティスト・キャラクターが見事に一致した理想的なグループだと言うことだ。
このことは、AKB48にも言えることだろうが、ただAKB48の場合は、1人で複数枚を購入させると言う、「別」の販促戦略があるので、一概にいきものがかりと一緒にすることは出来ない。
ただ共通した部分がないわけではない。いきものがかりもAKB48も、もちろん嵐もその人気はライブで築き上げてきたと言っていい。AKB48は、「会えるアイドル」と言うことで秋葉原で毎日、ライブ舞台をやりながらファンを増やしてきた。一方のいきものがかりは、ストリート・ライブから出てきた。今年は、3月から9月にかけ47都道府県で60本のコンサートを行い、11月と12月は、全国で11本のアリーナ・コンサートを行っている。実に71本である。浜崎あゆみや安室奈美恵なども今年は多くのコンサートを行っているが、年間71本ものコンサートを全国で行うと言うのは、そう簡単なものではない。首都圏ならまだしも、地方都市で動員を図るのは並大抵のことではないということだ。
確かに、曲を売るためにはドラマの主題歌やCM曲などのタイアップは重要かもしれない。いきものがかりも、NHK朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」の主題歌「ありがとう」で拡大した部分はあるだろう。しかし、本来、アーティスト活動の基本は「ライブ活動」だと思う。いかに、お金の取れるライブが出来るアーティストに成長するかが勝負だろう。
しかも、そのライブで重要なのが、今やキャラクター・グッズの売り上げだろう。アーティストにとってキャラクター・グッズの売上げが重要なポジションを占めているといっても過言ではない。
いきものがかりのコンサートでは、グッズの販売所が長蛇の列になっていた。ファンにとっては、もはや買うのが当たり前と言った雰囲気だった。当然、その流れはCDの販売所も同じ。正直言ってCDなどパッケージ商品は、キャラクター・グッズに近いものとなっている。CDの初回限定盤などでは、いかに魅力的な特典を付けるかが売上げを左右する時代でもあるのだ。
テレビに毎回出演することも確かに認知を高めるためにも必要だが、飽きられるのも早い。とにかく使い捨ての世界である。しかし、ライブ会場で築き上げる一体感ほど力強いものはない。ある意味で仲間意識のようなものが生まれるのだろう。いかにライブでアーティストが、それぞれのキャラクターを発揮していくかが、これからのビジネスになっていく。ファンが「CDを買う」という行為というのも、もしかしたら、そういった気持ちを具現化させたものなのかもしれない。
いずれにしても、いきものがかりに限らず、嵐にしてもAKB48にしても、音楽配信とCDセールスがバランスよく回転している…。実に理想的なパターンを示していることは確かだ。
渡邉裕二