【Vol.64】全国映画概況の数字から生じた疑問
2016年01月27日
映連が26日、2015年の全国映画概況を発表した。ポイントアップすると、入場人員が1億6663万人(前年比3.4%増)、興収が2171億円(4.9%増)。邦画の興収が前年並みだったのに対し、洋画が100億円あまり増えた。この洋画100億円分が、まるまる前年の数字に乗っかった形だ。それに伴い洋画のシェアが上がり44.6%(前年は41.7%)まで戻してきた。公開本数は邦画、洋画ともに少し減って合計1136本(前年は1184本)。スクリーン数は3437となり、前年から73増えた。
これらの数字を見て、一つ疑問に思ったことがあった。今回は、そのことを記してみたい。
毎月初めに、興行各社の前月の興行の状況を尋ねるのが定例になっている。年明けには、12月と昨年1年間の大まかな状況を探った。各社、各館で当然ばらつきはあるのだが、入手した数字をみてみると、昨年の動員が前年比1~5%くらいの増加、興収がさらに3~5ポイントくらい上乗せになる傾向を示していた。ある会社では動員が3%増、興収が7%増、こういった具合だ。
昨年はIMAXシアター、4Dシアターの高い稼働により客単価が上がっているのは間違いがなく、その結果、動員の伸び率と興収の伸び率にこの程度の差が生じるのだろうと思ったものだった。
ところが、映連の発表をみると、動員が3.4%増、興収が4.9%増。その差は1.5ポイント。想像していたよりも、動員と興収の伸び率の差が小さい。何故だろうかと考えて、思い当たったのがODSの扱い方だった。
映連の発表数字には、ODSのうち「邦画」と「洋画」の数字を含むが、「中継」は含まない。現時点では、映倫の審査を受けることが物理的に不可能な中継コンテンツは、「映画」として扱わないという判断がある。そのため、中継は全体の興収2171億円に入っていない。一方で、興行各社からヒヤリングした数字には、中継で稼いだ数字も含んでいるのだ。
映連はODS市場についても、同時に数字を発表している。ODS全体では153億円(前年比49%増、50億円増)。邦画が72億円(40%増、20億円増)、洋画が9億円(7%増、6千万円増)、中継が71億円(69%増、29億円増)という内訳だ。つまり、邦画・洋画・中継のODS3分類のうち、前年から最も伸びたのは中継だと言える。ODSの公開本数についても、同様のことが言える。
中継コンテンツは料金設定が高い。コンサートや舞台、イベントなど中継する中身は様々で、それによって料金もまちまちだが、3500円前後はざらにある。
本数が増え、動員・興収も増え、客単価の高いODS中継コンテンツを、比較対象のベースに含むか否か。その違いが、動員と興収の伸び率の差に関係している。そして、興行各社にとって、ODS中継コンテンツが、編成上ますます重要になっている。そうした私なりの推論に達したのだった。
昨年の数字をどう読み解くか。色々な切り口があると思う。他の方々にも聞いてみたい。
松本 貴則(まつもと・たかのり) 月刊文化通信ジャーナル編集長 兼 映画部デスク
2000年、シネコン担当記者として入社。その後、配給会社などへも取材範囲を広げる。2011年から映画部デスク。2014年から月刊文化通信ジャーナル編集長を兼務。趣味は空手、サッカー、野球、スポーツ観戦、読書。