G1級の好メンバーが揃い、大きな注目を集めた札幌記念は、連勝中のトウケイヘイローが圧逃劇を見せて快勝。鞍上の武豊騎手はサマージョッキーシリーズ制覇に向けて大きく前進しました。
競馬ファンの方はお気づきだと思いますが、最近、武豊騎手が絶好調ですよね。すでに今年は日本ダービーを含む重賞を9勝。12年は3勝で、10年、11年は6勝に留まっていたことを考えると、急上昇と言えると思います。
重賞数だけではありません。全勝利数にしても、今年は先週日曜までに62勝を上げ、昨年一年間の56勝を既にクリア、一昨年の64勝もすぐに上回りそうな勢いです。勝率についても、昨年は0.095、一昨年は0.101でしたが、今年は0.146です。
全盛期の豊騎手は、勝率が0.230~0.240で、年間勝利数も200を超えていました。それに比べればまだまだ物足りない数字ですが、近年のスランプからは脱したような気がします。
なぜか。私なりに分析してみました。
まず、目に見えて騎乗馬の質が上がっています。一時期は、新聞で無印の馬ばかり乗っていましたが、今はスランプ時よりもチャンスのある馬がたくさん回ってきています。一部で話題となった社台グループとの不仲についても、最近は改善されているような気がします。もっとも、なぜ騎乗馬の質が上がっているのかはわかりませんが・・・。
ただ、それ以上に大きな要因に思えるのが「思い切りの良さ」です。以前よりも思い切った騎乗が増えたように思えるのです。
以前の豊騎手と言えば、「後方待機、大外ブン回しの直線勝負」という競馬が多く、失礼を承知で言えば、「消極的」なレースぶりが目立ちました。実際、数年前まで競馬界を席巻していたサンデーサイレンス産駒は、折り合いさえ気をつければ直線で弾けるのでその乗り方が正解でした。ただ、SS産駒がいなくなり、加えて騎乗馬の質も落ちてしまった近年は通用せず、「見せ場なし」の競馬がほとんど。
ところが、豊騎手の中で何かが吹っ切れたのか、今は攻めの騎乗が格段に増えました。スピードのある馬ならドンドン逃げる。差し馬では馬群を割ってくる。見ていて気持ちがいいのです。
例えば、トウケイヘイローの鳴尾記念。馬が掛かりそうな様子を見せるとスッと行かせて、3コーナーでハナを奪う思い切った競馬。結局、そのまま逃げ切ってしまいました。
キズナで日本ダービーを制した時も、直線で馬と馬の狭い間を割って突き抜けてきました。以前の豊騎手なら1テンポ待って外に出していたかもしれません。でも、それでは届かない。豊騎手自身、レース後に「自分なりに思い切って突っ込んだ」というようなコメントを残していたと記憶しています。
8月4日の小倉記念をメイショウナルトで勝った時も、早めのスパートで後続を振り切りました。この時も「ちょっと早いかなと思ったけど思い切って行った」というようなニュアンスのコメントをしていました。
騎乗馬の質が上がったとはいえ、全盛時のように1日中1番人気馬に乗っているということはありません。今はどちらかと言えば2~5番人気ぐらいの馬に乗っている印象が強く、「乗っていれば勝てる」ではなく、「うまくエスコートして勝たせている」という感じです。これは、全盛時の豊騎手にもなかったイメージ。
今は、「豊は何かやってくるかもしれない」という、一発屋の印象さえ出てきました。まさに「新しい武豊」。そして、私が知る豊騎手の中で、最も魅力的で「面白い武豊」でもあります。
秋には、キズナで凱旋門賞挑戦という大仕事が待っていますが、吹っ切れた「新生武豊」の力で、何とか偉業を成し遂げてほしいものです。